ゲーマーパーティ転移―ある日、仲間とパーティを組んでダンジョン攻略していたら異世界に飛ばされました。が、レベルアップもステータスもあるこの世界で俺達は余裕で生き残ります―
第25話『こうなってしまえば、実力行使だ』
第25話『こうなってしまえば、実力行使だ』
「今回も俺は役に立てないな」
「僕もだけどね」
俺達は最後のお使いクエストとして用意されていたのは、服選び。
そのために、今は衣類店に来ている。
何の用途があって購入するのかはわからないが、500G以内で服を購入するだけ。
だけ……なんだが、ここまでくるとリラーミカさんが私服として着る用だったりする可能性もあるため、ここは女子三人に任せるのが最善。
いやそこまでいったら本当にただのパシリじゃん。
しかも私用の。
「予定だとこのままいけば、チュートリアルが終了するわけだ。……と信じたい」
「言われてみればそうだね。ここまでやってきたことを考えればまさにチュートリアルそのままだね」
「まあただの仮説にすぎないがな。街を覚えるための探索がてらの配達。世界観に入り込むのと自ら金銭を稼ぐ能力を培うためのアルバイト。限られた所持金で買い物をすることによって金銭感覚を養う買い物。こうやって考えれば、ただのパシリにしか思えなかったことも納得がいく」
「たしかにそう考えれば納得がいくね。じゃあ掃除とかは、ゲームで言うところのキャラコンを練習させるって意味があるのかな」
「そういうことだな」
キャラクターコントロールというのは、ゲーム初心者にとっては本当に慣れが必要だ。
コントローラーのスティックで操作をするわけではないから、WASDで前後左右へ移動するのは序盤のうちに慣れる必要がある。
そこはで激しい動きがあったゲームではなかったが、その後に回避スキル――例えば【バックステップ】というスキルを使用する際、Sキーを入力した後にスキルを使用すると敵に背中を向けて接近してしまう。
せっかく敵から距離を置きたいというのになんとも滑稽な動作になってしまうということだ。
だから、最初にキーボードを見なくても操作できるようにならなければならない。
「にしても、こういうショッピングとかはゲームでは実装されてなかったよな」
「そうだね。僕とかは課金してなかったから、指をくわえてみているだけだったけれど、課金ショップとかを再現するとこんな感じなのかな」
「はぁーなるほど。言われてみればそういう風にも捉えられるな」
内装とかは特に目立ったものはないが、この店を現実で表すならば普通に洋服を販売している店。
ショッピングモールとかの一角に入っているような店であり、さっきのマリカさんが経営している生花店も、言われてみれば現実であるようなものと瓜二つだった。
本当にゲームの中の世界が現実感を帯び、ゲームの世界であり異世界でもありながら現実世界に居るという、なんとも不思議な感覚に陥ってしまう。
もしかしたら、俺達は睡眠中に移動させられ、見知らぬ土地に居るだけで、実際にここは地球で頑張って移動すれば俺達が住んでいた日本に帰れるんじゃないか、なんて考えが浮かんでしまいそうだ。
「それにしても、この世界にいる人達がNPCなのか人間なのか、なんていうのも今更だが考えてしまうな」
「本当にそうだね。みんなが話している人達は本当の人と同じく考えたり表情が変わったりしている。あれがNPCっていうのは正直無理があるよね」
「深堀したいところだが、これ以上は詮索の仕様がない。今まで話をしてきた人達は本当の人間のそれだったし、非人道的なことはしたくもないし考えたくもない」
「それはそうだね。お、終わったみたいだね」
アケミが紙袋を手に持ち、こちらへ向かってくる。
買い物を無事に終え、後は帰路に就くのみ。
俺達は店を出た。
「今回は制限時間的なのを言われてないし、せっかくだから途中で寄り道するか」
「いいね、どこか目星は立てているの?」
「いんや無計画。アケミ、なんかある?」
「えー。そんなことを言われても、私だってわからないし」
「肉ーっ!」
「お、ミヤサの意見が最高じゃないか?」
「カナト、あんたいつから食いしん坊になったのよ」
「アンナー遠慮はいらねえんだぞ? 食いたかったから食えば良いんだ」
「なっ! 人を食いしん坊キャラにするのはやめてよね! ――あ」
「ほらな」
会話の最中、盛大に『ぐうぅ~』と空腹音を鳴らしてしまうものだから、アンナは顔を真っ赤になってしまう。
「もうっ、好きなところに行けば良いんじゃないの!」
「アンナの了承も出たことだが、ケイヤはどうだ? 何か行きたいところあったりするか?」
「んー、せっかくだったら――」
そんな会話をしていると、突如――。
「きゃあぁ!」
鬼気迫る悲鳴が当りに響き渡った。
「随分と穏やかじゃない様子だな」
「どうする? ここから近そうではあるけど」
「アケミ、それを俺に聞くのか? そんなの決まっているだろ」
「まあ、そうでなきゃね」
俺達は声がした方、通行人が逃げていくのに逆らうかたちで駆け出した。
目的地にたどり着いたのは良いものの、先ほどの声から想像した通りの状況になっていた。
目の前には二人。
一人は地面に倒れ込んでしまって身動きが取れなくなってしまっている女性。
もう一人は、剣を右手に握りしめている男性。
女性はワンピース姿に買い物バッグが近くにあるあたり、何気ない買い物をするためにここへ来たのだろう、が、そのヒールと挫いてしまったであろう足のせいで逃げられないと予想できる。
対する男は、剣を握る手に力を込め、刃をむき出しにしながら食いしばっている。
ということは、なんらかの理由で女性は男性から反感を買ってしまったのだろう。
「待て」
俺は駆け出そうとしたみんなを制止する。
「なんで、早く行かないとあの人が危ないよ」
「そうだ! ボクが行ってけちょんけちょんにしてやる」
「あたしの魔法で一撃よ」
「……カナトの意見を訊かせて」
「人前で空中から武器を取り出してみろ、大騒ぎになるぞ。ミサヤとアケミは腰に剣があるから問題ないが、覚悟はあるのか。アケミも、魔法を放つ覚悟はあるのか」
アンナやミサヤの口から「なんの覚悟」という疑問が投げかけられる。
「人を殺すかもしれない、ってことだ」
俺の一言に、誰からの返答はなかった。
「だから、俺が行く」
「でもそれじゃあ――」
「なんだアケミ、こういう時はいつもの冷静さがなくなっちまうのか? ほら」
俺は何も持ってはいないが、左腕を差し出す。
「……そういうこと。わかった」
「そういうこと。こうなってしまえば、こっからは実力行使の時間だ。じゃあみんな、俺の勇姿を一番の特等席でご覧あれ」
「もう、無茶はしないでよ」
「ああ」
俺はみんなの影になるところで盾を取り出し、危機が迫る彼女の元へ駆け出した。
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