第3話『力を試すにはもってこいだな』
「てなわけだ」
先ほどまでの会話を簡潔にみんなへ告げた。
相談なしだったため、反論の一つでも覚悟していたんだが、そんなことはなく。
「いいんじゃないかな、僕は賛成だよ」
といった感じにみんなからの承諾を得られた。
「じゃあ情報を整理しよう。みんなも実感していると思うが、存外体は動くらしい。少なくとも現実の体よりは」
全員に視線を向けると、頷いている。
「そして、攻撃面や防御面は未だ未知数。攻撃はどこまで通用するのか、武器の耐久はどうなのか。攻撃を食らったら体力バーみたいなのが減るだけなのか、それとも直に体が損傷するのか。ぶっちゃけ、後者はモンスターでは試したくない」
みんなも痛みを想像したのか、体をブルッと震わせていた。
「最後に、スキル。こっちの正式名称は知らないが、現段階では耳馴染みのある言葉を使う。というわけでアンナ、どうやって使ったんだ?」
「結論から言うと、ゲームの時みたいにスキルスロットを思い浮かべて、そのスキル名を口に出したら使用できた」
「なるほどな。そこら辺はゲームと勝手が一緒というわけか」
「そしてこれは予測なんだけど、たぶん、ゲームと一緒で職業があるんだと思う」
「ほう、それは一理あるな」
武器を出現させたときのことを思い返せば納得がいく。
俺達は偶然にも、慣れ親しんだ武器を思い浮かべ、それを具現化させた。
もしもそれが武器の形状が大事だったのではなく、武器を必要としたから出現したという風にも捉えられる。
「面白くなってきたね」
「ボクもそう思うっ」
「そうね。カナトが頭をフル回転させているのを見ると、ね」
「ほーんと、ゲーム馬鹿って感じ」
「俺が考えている時に、好きかって言いやがって。お前らもだろ」
みんなは少し肩を震わせながら笑う、「それもそうか」と。
「俺達の方針は、今のところこの人達とバネッサという街を目指す。ついでにこの世界で俺達にできることも探りながら」
みんなから即答で返事があった。
「早く次のモンスターと戦ってみたいなーっ」
「ミサヤの言いたいことはわかるが、できることならこの状況で戦闘になったら圧倒的に不利なんだから、そうならないことに――」
「敵襲ーっ!」
その警告が鼓膜を叩いて言葉が途切れた。
「どんなフラグ回収の速さだよ。みんな、力を試せそうなチャンスが巡ってきたぞ」
チラッと視線をみんなへ向けると、その顔はニヤリとしていた。
まったく、どっちがゲーム馬鹿だよ。
「行くぞ」
馬車の前に駆け出ると、前方には先ほどと同様の白毛のウルフが多数とその背後に大型のウルフを視認。
小型は少なくとも10体はパッと見ただけでも確認できる。
問題は、あの大型。
小型は俺の膝ぐらいまでしかないのに対し、大型は俺の腰ぐらいまである。
俺の身長が175ぐらいだから、あいつは大体90とかそこいらか。
あれぐらいになると、タックルでもされれば常人ならば仰け反る程度では済まない。
一人一体を対処していては数で押し負ける可能性がある。
「ちょいヤバめ? どうする? 逃げる?」
「ミサヤ、暴れたいか?」
「お?」
そうだな、俺を信じて、仲間を信じるか。
「よし、みんなにノルマを課す。最低でも一人あたり2体だ」
「わかった。でもその計算ってことは」
「ケイヤ、あんたそれは愚問じゃないの」
「確かに、そうだね」
「カナト、無理はしちゃダメだよ」
「アケミもそんなの杞憂なのよ」
「そうかもしれないけど……」
「まあそういうことだ。大型は俺が持つ。後は頼んだ」
後は、全身に力が入って震えている三人と、馬車に乗る二人か。
「皆さんは彼らに敵が行かないように警戒をしていてください。では」
「お、おい、逃げないのかよ。あんなのに勝てるわけが――」
「ごめんなさい、時間が惜しいので」
そう言い残し、俺達は今にも雪崩れ込んで来そうなウルフの大群へ駆け出す。
当然、こちらの接近に気づいたウルフ達は、雄叫びを上げ始める。
「全員、気張って行けよ」
俺の合図で、各々が自分の役割に移った。
先ほどとは違い、今度は俺が最後尾。
みんなの突撃によって、小型ウルフは散り散りになっていった。
そのおかげで、俺はすんなりと大型の前へ辿り着く。
「さあ来い、犬っころ」
俺と大型の一対一。
相手は俺が放った侮辱の意味を理解したのか、その獰猛で鋭い牙をこれでもかとむき出しに顔の筋肉を震わせている。
元々気性が荒いのか、それとも虫の居所が悪いのか。
『グラァア!』
怒りをそのままに、ウルフは突進を仕掛けてきた。
「いいぜ、付き合ってやる」
かなりリスキーではあるが、自分の力量を試すにはちょうどいい。
俺は少し腰を落として馬鹿正直に盾を正面へ構え、全体重をかけられたタックルを受け止める。
結果、ほんの少しだけ土を盛り上げた程度に収まった。
「なるほどな、こんな感じか。じゃあ、こういうのはどうなんだ」
俺はわざと剣を腰に携える鞘に納め、盾に体重を乗せるウルフの顔面へ右拳ストレートをぶつける。
狙いは簡単。
武器ではない攻撃の威力確認と、モンスターを殴った場合の感触の確認と、それによって自身の体力が削れるか否か。
『ガフンッ』
結果、いまいちわからん。
が、予想以上に柔らかかったウルフの皮膚に食い込んだ拳は、予想以上に威力があったらしい。
出来る限りの力を込めたといえど、まさかウルフの顔が吹き飛ぶとは思っていなかった。
「なるほどな」
俺は地面に横たわるウルフを前に、両手を握って開いてを繰り返す。
こういう感じならば、もしかしたらいろいろと試せるんじゃないか。
「よおし、胸を貸してやる。どんと来い」
俺はさながらお相撲さんのように両手を開いてどっしりと構える。
ウルフは体を起こし、俺の行動を挑発を受け取ったのか、盛大に吠えた。
すると、背後から声が。
「カナト、こっちは全部終わったから、ほどほどにしときなよー」
と、アンナの声。
そういうことか。
目の前に居る大型は、子分である小型が全滅させられて超お怒りモードってことなんだな。
あいつら、いい仕事をしてくれる。
「全力で来い」
『ワオォォォォォン』
ウルフはご自慢の牙をむき出しに、全力疾走で向かってきた。
早いが、目に負える速度でもあるし、顎をこれでもかと開いているものだから攻撃が見え見えだ。
俺は上顎に左手を、下顎に右手を合わせて受け止めた。
しかし期待したような結果は得られず、さっきより少しだけ後退した程度に収まる。
「はぁ、少し残念だな。ここまでか」
俺は正面から向けられる力を左側に流し、ウルフの視界から外れ、振り向かれる前に腰から剣を抜刀し首元に剣を力一杯に突き刺す。
『――』
ウルフは体を一瞬だけビクッと跳ねさせた後、爆発するように灰となって姿を消した。
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