うそつき令嬢と国一の嫌われ王子
属-金閣
第1話 うそつき令嬢イリスの妙案
「それでイリス、いつになったら貴方の婚約者と合わせてくれるのかしら?」
今日も部屋中にお母様の声が響き、私は身を縮めた。
私の名前はイリス・ハーノクス、二十歳。
王都から離れたベンデルス領という田舎貴族の令嬢である。
現在私は婚約者いるのだが、未だにお母様に会わせていないためこうやって追求されているのである。
「い、いや~それが相手の方が予定が合わない程多忙でして……」
「それはもう何度も聞いています。貴方が婚約者がいると言い出して、はや一か月。毎回似たような理由で話を打ち切り、いつになったら会えるのかしら?」
「そうでしたっけ?」
「……イリス、今更ですが本当に婚約者はいるのですよね? 私がお見合い相手を見つけて来たと同時に、貴方が以前からお付き合いしている貴族の方がいると言うから、相手の方を断っているのよ。分かっているのですか?」
「あ! そういえば、今日婚約者の方に手紙を出すのでした。それではお母様、失礼いたします」
「こらイリス! まだ話は終わって」
お母様の話を無視し、私は部屋から逃げるように出て行き直ぐに自室へと逃げ込む。
「はぁ~今日も何とか強引に逃げ切った……でもあの様子だと、もうそろそろ限界かも……」
私はそのままベットへと仰向けに倒れた。
今更だが私に婚約者がいるというのは、真っ赤な嘘である。
あれはお母様のお見合い相手を断るためについた、咄嗟の嘘だ。
昔から付き合っている相手もいない、現状でもそういう相手もいない、完全独身状態である。
既に学生生活を卒業して二年。
令嬢という立場上、そろそろどこぞの貴族家と婚約もしくは結婚をする年齢らしい。
私が住んでいるベンデルス領は王都から離れた田舎だが、この辺に住む貴族たちはだいたい昔からお見合いなどで結婚し、平和にのどかに過ごしているのである。
別にそれが嫌とかではないが、私としてはまだそういう時期じゃないと言うか、遊びたいと言うか、自由に過ごしたいと考えているのだ。
簡単にいえば、私のわがままである。
最近では、女性が研究機関や王都で学院を卒業して働いていたりすると聞くので、私もこのまま顔も知らない誰かと結婚するんじゃなくて、もっと色んなことを体験したいと思うのだ。
家の立場を考えればそんな自由は既に学院時代で終わっているのだから、素直に両親に従うべきなのだろう。
が、私はもう少しそんな自由な時間を過ごしたいからわがままを続けているのである。
「お母様にこれをいっても仕方ないし、嘘の婚約者がバレたら直ぐに別の人と見合いになるだろうし……あ~どうすれば」
私がベットで頭を抱えていると、扉がノックされる。
直ぐにベットから起き上がり、私は身なりを整えて返事をする。
返事をしてから扉を開けて入って来たのは、私専属メイドであるヴィオラであった。
「なんだ、ヴィオラか。ビックリさせないでよ~」
「イリスお嬢様、私だからといって直ぐにだらけるのはお止めください」
「だってヴィオラなら素のままでもいいでしょ。他の使用人には出来ないけど」
するとヴィオラは小さくため息をついた後、ゆっくりと私の方へと近付いて来た。
「イリスお嬢様、婚約者様の件これからどうされるのですか?」
「うっ……それを今考えてたところ」
そう、ヴィオラは私がお母様に存在しない婚約者がいると嘘をついていると知っているのだ。
それでもお母様には真実を告げずにいてくれるのは、私がヴィオラに頼み込んで黙っていてくれているおかげである。
ヴィオラは私が幼い頃から付き合いがあるメイドの一人であり、その頃から身の回りの世話を焼いてくれ私のどうでもいい話にも付き合ってくれたりと、私にとっては姉のような存在なのだ。
「それで、何か思いついたのですかイリスお嬢様?」
「全然ダメ~」
私は何の対策も思い付かず、直ぐにヴィオラに助けを求めた。
するとヴィオラは優しく微笑んで、提案をし始めてくれた。
その後私はヴィオラと状況の整理や今後どうするかを話し合った。
「もう一層の事全て打ち明けてはどうですイリスお嬢様?」
「あ~結局そこに辿り着くのね。うぅぅ、それは……やっぱり無理! なしで」
「はぁー、ではどうするのですか? ミラー様も薄々気付いているとは思いますよ、イリスお嬢様に婚約者がいないのではと」
「くぅっ……そうよねー今日の感じからもう話だけじゃきついよねーうぅぅ……」
私はそのまま机に突っ伏した。
どうしよう、どうすればいいかな。お母様に今嘘とバレると辛いし、何とか嘘を付き通してこの場を乗り切りたい。
そうしないと私の自由が完全になくなってしまう! その後のことは……またその時に考える! とりあえずは今よ、今。
う~ん、何か、何かないかな……お母様は相手に会えば納得してくれる? でもその肝心な相手が存在しない、なら相手を用意する?
いやいや、そう簡単に貴族が見つけられるわけないじゃん。そんな人がいればもう会わせて――ん? 会わせるだけなら、身バレせず顔が整っている相手ならばいけるのでは?
そこで私は顔を上げると、ヴィオラが声を掛けて来る。
「何か思いつかれたのですか?」
「うん! ひらめいたかも!」
「それをお聞かせいただいても?」
「もちろんよ」
私は立ち上がり胸を張ってヴィオラにひらめいた妙案を口にする。
「身代わりの婚約者をしてくれる人を探すわ! 一日だけでもやってくれそうな、顔立ちがよくて性格がいい人。あと口が堅い人かな。それでお母様に婚約者として会わせて、この状況を乗り切るの! いい作戦じゃない?」
ヴィオラは私の提案にあ然とした顔をするのだった。
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