第25話 デートに誘われるお姉ちゃん
時間は過ぎてゆき、ついにひまりの試験当日がやって来た。冬の寒い空気を裂いて、私とひまりは二人で校門を通った。待機している生徒たちはみんなそわそわしていて、緊張しているみたいだった。
「ここに来るまでは全然平気だったのに、なんか急に怖くなっちゃった」
「大丈夫だよ。ひまりは天才だし、しかも努力だってした。いつも通りの態度でいればいいんだよ」
「……うん」
お別れする時間が近づいてくると、ひまりは私に両腕を差し出してきた。ハグ待ちの姿勢だ。
私は微笑みながら、ひまりを抱きしめた。そのまま耳元でささやく。
「がんばってね。ひまり」
「うん! 頑張るね! お姉ちゃん」
ひまりは私から離れて、受験生たちの所へと向かっていく。その後ろ姿は誰よりも美しく、自信にあふれているようにみえた。きっとひまりなら、一位だって簡単に取れるのだろう。
でも私はどうすれば、そんなひまりに相応しいお姉ちゃんになれるのだろう?
不安に思いながら、私は高校を後にした。
試験が終わる時間に迎えに来ると、ひまりはニコニコしながら私に飛びついてきた。
「簡単だった! 一位とれてると思う。ほめてお姉ちゃん!」
私は少ししゃがんで視線を合わせて、ひまりの頭を撫でてあげる。
「よしよし。頑張ったね。ひまり」
「えへへ」
ひまりはほわほわ笑っていた。
「ねぇひまり。ひまりは私にどんなお姉ちゃんになってほしい?」
問いかけると、ひまりは首を傾げた。
「お姉ちゃんは今のお姉ちゃんのままでいいよ?」
「……そっか。でも、例えばさ、もっと賢いお姉ちゃんがいいとか、もっと強いお姉ちゃんがいいとか、なにかないかな?」
「……うーん。頼りになるお姉ちゃんになってほしいとは思うかも。もちろん、今のお姉ちゃんが頼りないってわけじゃないよ? でも久しぶりの学校だし、不安だからいつもそばにいて助けてくれたら嬉しいかな」
なるほど。ひまりは私がそばにいることを望んでくれているのか。
「分かった。私、ひまりの望むお姉ちゃんになるね!」
「うん。ありがとう。お姉ちゃん!」
私はひまりと手を繋いで、帰路についた。その日の夜は豪華な晩ご飯を作って、ひまりとお母さんと宮下さんと四人で食べた。ひまりはとても幸せそうにしていた。
でも結果発表の当日、高校で、ひまりは悲しそうにしていた。
もちろん、落ちたわけではない。職員に順位を確認しに行ったのだけれど、どうやら二位だったらしいのだ。一位は大家 さやか、という生徒だったらしい。
「お姉ちゃん。ごめんなさい。……一位、取れなかった」
「謝らなくていいよ。ひまりが賢いことは私が一番わかってる。二か月くらいしか勉強してないのに二位とれてるんだから、凄いよ。ひまりは」
頭を撫でて励ましているけれど、一位を取れなかったの堪えたのか、ひまりは辛そうにしている。
「……お姉ちゃんは、私に失望した?」
「そんなのないよ。私はひまりがひまりでいてくれるだけで、ひまりのこと、大好きなんだから」
「……そっか。ありがとう。お姉ちゃん」
ひまりはまた笑顔になった。私たちは笑顔で校門を出て、家に帰った。ひまりはまた前のようにプログラミングに熱中し始めた。一応、春休み用の課題も渡されたみたいだけど、それはすぐに解き終えてしまっていた。流石ひまり。
私は私で日記みたいな小説を書き進めていた。ひまりみたいに立派になりたいとは思うけれど、私には才能がない。創作は本来楽しむことのはずなのに、オリジナルのストーリーを書こうと思えばどうしても書けなくて苦しんでしまう。
だから私は毎日、継続的に日記を書いた。
九月が来ても、悲しくならないように。
そうしていると、春休みのある日ひまりがこんなことをつぶやいた。
「お姉ちゃん。今度は二人っきりで、デートしない?」
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