第三章 お姉ちゃんが妹の気持ちを知るまで
第19話 圧をかけるお姉ちゃん
冬休みが開けて、学校が始まった。代り映えのしない毎日だけど、一つ大きな変化があった。
「お姉ちゃん! おはよう」
ひまりが私をお姉ちゃんと呼んでくれるようになったのだ。身もだえするほど嬉しい。
「おはよう。ひまり」
私は笑顔でひまりの頭を撫でる。するとひまりはニコニコと微笑んでくれる。
「おねーちゃん。今日も帰ってきたら勉強教えてね!」
「うん。私が教えられることなんて、なにもないかもだけど……」
「お姉ちゃんがそばにいてくれるだけで、勉強、捗るんだ」
ひまりは今、アプリの開発を中断している。高校入試のための勉強を頑張っているのだ。天才といえど知らないことは分からないようで、毎日すごい集中力で勉強をしている。
お父さんが亡くなって以来、学校から遠ざかっていたひまりが高校に通うのを決意してくれたのは嬉しい。その為なら、私はどんな協力だって惜しまないつもりだ。
「あ、もうそろそろ時間だから、学校行ってくるね」
「うん。いってらっしゃい。お姉ちゃん!」
「いってきます」
そうして私は家を出た。
教室に入ると、紗月が話しかけてきた。
「最近、ひまりさん新作出してないけど、どうなってるの!?」
ひまり欠乏症に陥っているのか、紗月は息を荒くしていた。確かにひまりは最近、何も作っていない。高校受験や両親の再婚、色々あって、あまり捗らなかったのだろう。
「ひまりは今、高校受験の勉強中だね」
「えっ!? ひまりさん。どの高校入るの? 転校手続きしないとだから、教えて!」
紗月は目を血走らせながら、私に顔を近づけてくる。本当にどれだけひまりのことが好きなのやら。この人は。
「転校なんてしなくていいよ。ひまり、ここに入ってくる予定だから」
「マジか……。悪い虫がつかないように守護らねば」
「それは同感。ひまり可愛いもん。絶対もてるよ」
「もういっそ、私が恋人に立候補しちゃおうかな!」
紗月は獲物を狙うような鋭い目つきで、窓の外をみつめていた。私は紗月の肩を掴んで振り向かせ、真剣な口調で告げる。
「紗月にひまりを幸せにできる自信はあるの?」
「えっ?」
「あるの?」
私が睨みつけて圧力をかけると、紗月は後ずさりをした。
「自信があるなら告白すればいいよ。付き合えばいいよ。……でももしもひまりを不幸にしたら、絶対に許さないから。いくら紗月でもね」
そう告げると、紗月は突然笑った。
「ふふっ。凛。お父さんじゃん」
「えっ?」
「本当に大切に思ってるんだね。ひまりさんのこと」
「当たり前でしょ? 大切な妹だもん。ずっと夢にみてた妹だもん」
ひまりが不幸になる姿なんて、想像もしたくない。私の妹になったからには、絶対に幸せになってもらう。そのためには、私はどんな努力も惜しまない。
「凜がお姉ちゃんなら、安心だね。ひまりさん、きっと幸せになれるよ」
「そう言ってもらえると嬉しい」
「ということで、今日、ひまりさんに会いに行っていい?」
「勉強の邪魔しないのならいいよ。ひまりも紗月のこと、それなりに気に入ってるみたいだし」
「やったー!」
紗月は大声で万歳して、クラスメイト達から奇異の視線を向けられていた。最初はクール系だと思ってたけど、ひまりが妹になってからは、もうずっとこんな感じだ。実はこっちの方が本性なのかもしれない。
まぁ、どっちの紗月も私は気に入ってるけどね。
〇 〇 〇 〇
放課後、私は紗月と二人で家に帰った。私が扉を開けると、ひまりがニコニコと出迎えに来てくれる。でも紗月をみると複雑そうな顔をしていた。
「今日は紗月さんと一緒なんだ」
それを見た紗月は悲しそうだけど、すぐに気遣うような笑顔になる。
「もしかして、私、お邪魔でしたか? だったら今すぐに……」
ひまりは慌てた様子で「そんなことないよ」と笑った。
「ちょっと二人っきりでお姉ちゃんに話したいことがあったから」
「お、お姉ちゃん!? くっ。ついに念願を果たしたんだな。凛。あぁ、凜が遠くに行ってしまう。姉妹になっちゃったら、私にはもう勝ち目ないじゃん……」
勝ち目って何の勝ち目……? そんなことを思っていると、ひまりは人当たりのいい笑顔で「あがって」とつげていた。前、紗月が来たときは、最初はとげとげしていたような気がするけれど、今はファンだと知っているからなのか、朗らかな態度だ。
「ひまりさん、受験勉強頑張ってるんだって聞きました。私に何かできることないですか?」
「紗月は賢いから、分からないところ、私よりは教えてくれると思うよ」
「そっか。だったら、数学で教えて欲しい所があるんだけど」
紗月を伴って、ひまりはリビングに向かっていく。私もそのあとをついていった。
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