056 プチ歓迎会

 ブラウンホーンと戦う時、これまで俺たちは比較的脆いとされる関節を狙ってダメージを与えてきた。風属性に少しだけ耐性があるブラウンホーンを相手に、セフィリアは弓で牽制しつつ、時折は目を狙って攻撃をしてもらっていた。その隙に俺かマリーが頭と胴の隙間を狙って剣を突き立てていた。これにエリックが加わると……。


「ど、せぇい!!」


 メイスのフルスイングを顎の下から叩き込むことでブラウンホーンがのけぞる。そこに俺たちが斬りかかることで、ブラウンホーンがひっくり返ったのだ。地球のカブトムシもそうだが、こういった手合いはひっくり返ると自力で起き上がることができないものもいる。そこをあとは袋叩きにしてやれば、あっけなく討伐というわけだ。しかも素材となる角や甲殻にはほとんど傷がつかない状態で。これはありがたい。


「レックスは収納持ちかあ。うらやましいぜ」


 マイホームスキルの全てを明かすわけにはいかないというのが俺とマリーとセフィリアの共通認識ということもあり、取り敢えずは収納の部分だけを明るみにしている。そうでないと冒険があまりにも大変なことになるからだ。普通はこの大変さの中で冒険するのだが。


「よし、次のを探そうか」


 エリックの加入は俺たちのパーティにとって非常に大きかった。これまでこの地域に出現するもののスルーし続けていたロックパペットと戦えるようになったのだ。ロックパペットは石の塊が組み合わさって自我を持ったような魔物で、剣の攻撃はほとんど通用せず、火や風の属性にも強い耐性がある。これまでの俺たちにとっては天敵のような存在だったが、エリックのメイスと俺の水魔法でなんとか討伐できるようになった。


「ロックパペットは時折貴重な鉱石を宿していることがあるっていうしな。剣士が倒したい敵なのに剣士には倒しづらいっていうのが厄介だぜ」


 バラバラになったロックパペットからめぼしい石を探す。俺もマリーもセフィリアもこの作業に慣れてきた。子供のころにやった砂金探しより正直楽しい。というか、分かりやすい。きらっと光る石を見付けて収納魔法で回収する。


「売って換金したらエリックに多めに渡すよ」

「いや、こういうのはパーッと飲み食いに使う方がいいぜ。あんたらがいいヤツだってもう十分わかったけど、金はもめ事の最たる原因だからな」


 これまでいくつものパーティに参加して旅をしてきたというエリックの言葉は説得力があった。


「じゃあ、ちょっとした歓迎会だな」

「もしくは明日に向けた壮行会かしら」

「おいおい、歓迎してもらうのは嬉しいけど、壮行会をするほどの大仕事じゃないだろうよ」

「じゃあ宿の食堂とは別にお店探しましょうよ」


 マリーの提案に乗り、夕食を宿以外で食べることを決めた俺たちは、日はまだ高いが俺たちは狩りを切り上げ、手に入れた素材の売却をすることにした。明日には出立してしまうので、手数料を多めに支払って急ぎで鑑定してもらい、そのお金で豪華な夕食をとることにした。


「パンが、やわらけぇ」

「ナランハのジャムとも相性抜群ですね」


 流石にマイホームスキルで生成した日本の食パンに比べればまだまだだが、こちらの世界で普通に出させるパンからは驚くほど柔らかい。ナランハのジャムも少量だが味見することができたし、大満足の夕食だった。護衛任務がなければ、こちらの世界に来て初めての飲酒も検討したが……二日酔いにでもなったら仕事にナランハと思い飲まなかった。ついでさっきのギャグも決して口にしなかった。絶対スベるだろうからな。 

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