第1章 変げ修行
変化修行
ボクが、化けられるようになったのは戦国時代、たぬきの寿命は長くて十年くらいなんだけど、それを超えると変化できるようになったり寿命も何百年も生きれるようになるんだ。
もちろん、変化術を身につけるには、修行が必要だけどね。
ボクは、山奥にある荒れ寺のあたりを拠点にして、生活していたんだ。そのお寺には、優しい吉念という和尚さんがいて、いつも木の実をくれたんだ。
「おやおやよく食べるね」
和尚さんは一人暮らし、ボク相手におしゃべりをしてくる。
面白い話、悲しい話、時々ためになる話ってボク相手に説法をしてきたり、和尚さんの話を聞いてるうちに、だんだんと人間の言葉が分るようになってきたんだ。
ある日の事だった。
「おい! ポン吉やお前に、わしの本当の姿を見せよう」
ボンっと砂煙が巻き起こり、ボクは目を閉じた。
目を開けるといつもの和尚さんの姿はなく、和尚さんは、袈裟を着たたぬきの姿になった。
まさか!? 和尚さんが、たぬきだったなんて・・・・・・
「お前も、この様に人間や様々なモノに姿を変える秘術を学んではみないか?」
ボクは、驚きながらも是非ともその術を学びたいと思い、すぐに首を縦に降って頷いた。
木の葉を頭に乗せれば簡単だろうって? そう簡単にはいかないんだな、とにかく変化術を身につけるのに毎日必死で勉強もしたし、犬や猫に化けてみて練習をしたりした。人間に化けられるようになれば免許皆伝となる。
「おやおや、新しいお弟子さんかい? それも仏門でない方の」
和尚さんの友人で、占い師をしているポン林才さんが、やってきてボクの修行しているのを見て、変化術の修行だとすぐに分ったみたいだ。
和尚さん以外の変化たぬきに会うのはポン林才さんが初めてだ。
「もう少しで、人間に化けられそうじゃぁないかぁ」
ポン林才さんが、ボクを見て言うと和尚さんが、ため息をつくように言った。
「確かにそうなのだが、長時間人間に化けられるかが問題でな・・・・・・」
和尚さんの言うとおりボクは、体力がない、人間に化けるのは相当な力を使うので、実際免許皆伝になる前に、諦めてしまったり、力尽きてしまうたぬきも多いという。
やっとの事で、人間に化けられるようになった。免許皆伝の試験として人間に化けて、一日を過ごすという課題を前に、人間の社会の事を和尚さんやポン林才さんに教わって試験に挑むために必死に変化術の修行を続けた。
試験当日、和尚さんとポン林才さんに見送られて、ボクは、山を下りた。
山のふもとにある町で、人間として一日を過ごしてくる。
それだけなんだけど、それが結構大変なんだ。
人間に化けるのは体力がいる。
長時間化け続けるのは並のたぬきには耐えられない。
和尚さんやポン林才さんみたいにベテランの変化たぬきになれば、一日中どころか時々たぬきの姿に戻るくらいで、寝ている時も人間に化けたままでいられると言うから驚きだよね。
人間の町に旅人を装いボクは入って行った。緊張したけど楽しみもあった。人間の食べ物をお昼に食べるというのが楽しみで仕方なかった。
何を食べるかはずっと前から決めてたんだ。おそばを食べようって、たぬきだけに、たぬきそばを食べたいんだろうって? この時代には、まだ、たぬきそばは無いんだ。たぬきそばが出来たのはもっとあとで・・・・・・
おっと話がそれちゃったね。午前中は、町の門をくぐった後、町の中を見て回って、お昼は、盛りそばを食べて、午後に試験終了のお寺の鐘が鳴るまで町の人に話を聞いて回る事にした。
木の葉のお金で騙して食べたんだろうって? ちがうちがう、和尚さんとポン林才さんがお小遣いをくれたんだ。人間暮らしはお金がかかるから課題の時には先輩の変化たぬきが、心付けにお小遣いを試験を受ける後輩たぬきに渡すのが習わしみたいで、ボクもそれを受け取っていたんだ。
中には木の葉を小判に代えたりして、変化術を悪用する。たぬきやきつねなんかいるけど、それはやったらダメって、和尚さんやポン林才さんに何度も言われて、耳にたこが出来そうだったよ。
「また、戦かぁ」
町の人はみんな戦の話をしている人間の社会ってなんでこんなにみんな戦ってばかりいるんだろうと疑問に思う。
町の中央へ行ってみると立て札があったので、近寄ってみることにした。『足軽求む』と書いてあった。
人間の言葉の読み書きを教わっておいてよかったと、この時思ったんだ。でも同時に人間の恐ろしさも分った気がしたんだ。
こうやって戦う人を募集するときも言葉を文字にすれば、人を集めやすいだろうなと・・・・・・
こうしてるうちに結構疲れた。お日様は、だいぶ、西へ傾いてきているけど疲れて化けているのがしんどい、でも、あと少しだと思いひたすら耐えていると恰幅の良い女の人が声をかけてきた。
「顔色が悪いようですが、お医者さまをつれてまいりましょうか?」
いいえ、大丈夫です。と断って、ボクは、町の中央から出口の方へ向かって逃げた。このままじゃ試験終了前にたぬきに戻ってしまう。
その時だった。お寺の鐘がゴーンゴーンと鳴り響いた。
終わった・・・・・・
ボクは、やっとたぬきに戻れると思い、町を出て人目のない事を確認してたぬきに戻った。
たぬきに戻ってから、お寺までどうやって帰ったかは、全く覚えていない、とにかく残りの力を振り絞って帰って行ったようだ。
気がつくと、朝になっていて和尚さんが朝のお勤めで、お経を上げていた。
助かった!? 読経を終えて和尚さんがボクに近づいてきた
「おお、やっと起きおったか? 喜びなされ、無事、免許皆伝じゃぞ!」
やったこれでボクも一人前の変化たぬきの仲間入りだ。
「今夜はポン吉が一人前になったお祝いですな」
ボクのすぐ側で眠たそうにしていたポン林才さんが言った。
「しかし、気がつかれてよかったよかった。安心したら一気に疲れが出たみたいなので一休みしてきます」
ポン林才さんは、一晩中ボクの介抱をしてくれていたみたいだ。
和尚さんとポン林才さん優しい二人のおかげで晴れて免許皆伝になった事にボクは、感謝しきれない思いでいっぱいになった。
桜の花が風に舞う、大自然もボクの事をお祝いしてくれているみたいだった。
その日の夜は、見事な月夜だった。
ボクが、一人前になったお祝いにこのあたりに住む変化たぬきが集まってきた。
四十、この数が多いのか少ないのかはボクにも分らない、そして、みんな人間の姿をして宴を開く、これが変化たぬき免許皆伝の祝いとして、ボクが、生まれるずっと前からの習わしだという。
もちろん、宴の食べ物や飲み物も人間のご馳走で、見たことの無いような豪華な食卓にボクは驚いた。
アレ? 見覚えのある顔が・・・・・・
「無事に試験合格出来たのね。おめでとう」
町で、ボクに話しかけてきた女性だ!? まさか!? 変化たぬきだったなんて!?
和尚さんがやってきて笑いながら言った。
「彼女は、変化術試験で、何かあった時に対応する係なんじゃよ」
変化術試験はそれだけ大変なんだ。試験に挑んだたぬきは死んじゃったりすることもある。それだけ過酷な試練に耐えたたぬきだけが、変化たぬきになれるんだ。
彼女は、そんなたぬきを助けたり、術がとけて人間からたぬきに戻ってしまったりして、人間に変化術の秘密がバレないようにする仕事をしてたんだっていうことが分った。
ポン林才さんが、変化たぬきになったお祝いに、ボクの事を占ってくれることになった。
筮竹という沢山の棒をジャラジャラさせながら、真剣な顔をしているポン林才さん、ボクはどんな答えが出るのかワクワクしていた。
「西へ行くとよい」
ポン林才さんがぼそりと言った。
「西には、何があるんですか?」
ボクは、ポン林才さんに尋ねた。するとポン林才さんはしばらく黙り込んでしまった。
「運命としか言いようがない」
ポン林才さんが口を開いた。
運命!? 一体何なんだろう?
「一人前になったんじゃから旅をしてみると良いかもしれんな」
そう言って、占いを脇で見ていた和尚さんがそうボクの肩をたたいた。
「お絹さんも試験を見ていて、大丈夫そうだと思うじゃろ?」
「でも、人間の世界は争いが多いから気をつけないとね」
試験の時に声をかけてきた、変化たぬきのお絹さんと和尚さんが、話し合っている間に、ボクは、考えて覚悟を決めた。
「西へ行く!」
月夜の晩、みんなで楽しく騒いで過ごした。
次の日の朝、ボクは西へ向かって旅に出た。
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