全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします
水谷繭
1.二度目の世界
第1話
「エヴェリーナ! 貴様、カミリアに嫉妬して、私の見えないところで散々いじめていたそうだな。お前のような女を妃にするわけにはいかない。婚約は破棄させてもらう!」
王宮で行われたパーティーの最中、ジャレッド王子は私の目の前で聖女カミリアの腰を抱きながら、怖い顔をして言った。
なんでも彼は私との婚約を破棄し、新たに聖女カミリアと婚約をし直すらしい。
予想通りの光景だ。
いや、記憶通りと言うべきか。
二度目のことなので、前回のように動揺はない。私はただジャレッド王子と目を潤ませて彼にしがみつくカミリアをじっと眺める。
「カミリアが涙ながらに教えてくれたんだ。お前に階段から突き落とされたり、取り巻きを引き連れて暴言を吐かれたりしたと……。聖女であるカミリアにそのような非道な行いをするなど、とうてい許されることではない。二度とカミリアに近づくな!」
王子はペラペラと言い募り、なかなか私に口を挟む隙を与えてくれない。
私の答えはすでに決まっているのに。
「わかりました。婚約破棄、謹んでお受けいたします。カミリア様にも近づきません。お二人とも、どうぞお幸せに」
私がにっこり微笑んでそう言うと、王子もカミリアも、周りの人たちもぽかんとした顔でこちらを見ていた。彼らに向かって頭を下げると、急いで会場を後にする。
こんな所に長居している場合じゃない。私には会いに行かなければならない人がいるのだ。
王宮の廊下をひたすら走る。ドレスを着ているせいで速く走れないのがもどかしい。
早く、早く行かなきゃ。本当に会えるのだろうか。本当にここにいるのだろうか。心臓が痛いほどばくばく音を立てている。
「お嬢様!」
廊下の向こうから、執事服を着たダークブラウンの髪の男性が私を呼んだ。懐かしいその姿に、息が止まりそうになる。
ずっと会いたかった人。本当に会えた。
「サイラス!!」
足がもつれそうになるのにも構わず駆け足で近づいて、思いきり彼の胸に飛び込んだ。
「お、お嬢様? 急に何を……」
「ああ、サイラス。サイラス。会いたかった」
動揺するサイラスに構わず、ぎゅうぎゅう力を込めて抱きしめる。サイラスの声。なんて懐かしいんだろう。目頭が熱くなってくる。
「お嬢様、一体どうしたんですか。私などに抱きついてはいけませんよ」
「いいじゃない。すっごく久しぶりなんですもの」
「久しぶり……? 今朝だってお屋敷で顔を合わせたではないですか」
抱きついたまま見上げると、サイラスは困り顔をしている。私は何も言わず頬を緩めて彼を見つめた。
「エヴェリーナお嬢様、婚約破棄されたのがそこまで混乱なさるほどショックだったのですね。ジャレッド王子、無実のお嬢様に言いがかりをつけて公衆の面前で婚約破棄するなど、許せません……!」
サイラスは唇を噛みしめて悔しそうに言った。私は笑顔で首を横に振る。
「いいえ。婚約破棄のことなんて全然気にしてないの。私、もう間違わないわ」
「しかし……」
「せっかくやり直すチャンスをもらったんだから、婚約者に捨てられたことも、冤罪をふっかけられたことも何も気にしないことにする。私、今度の人生ではあなたに恩返しするために生きるから!」
「えええ……?」
サイラスは目をぱちくりして呆然としている。私はそんな彼の表情を見られることすら嬉しくて、ただにこにこ笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます