第2話

 玄関のドアを開け、自転車で三十分の距離のところにあるその川へと向かう。


 この寒い、最強寒波とやらが迫っている時期に川へと向かえだって?無茶な注文なのである。


 徒歩だと二時間ほどもかかるので仕方なく自転車を必死で漕ぐ。


「く、苦行かよ」


 冷たい風が顔にバシバシと襲い掛かってくる。


 しかし、あるかどうかも分からない時計の為にこんなことをするなんてなあ。


 僕も堕ちたものだと思うよ本当。


 引きこもりになってから色々なことがあったなあ……、思い出すと吐き気がするなあ。


 あれは中学三年の秋の頃だった。


 学校内のとある不良グループに目を付けられたのだ。


 ぼっちだった僕は学校のクラスメイト全員からからかわれ、好きな女の子の前でも無視される程の始末だった。


 ぼっちの宿命なのである。ぼっちと仲良くすると協力したその子もからかわれ、ぼっちにされる。


 それでもぼっちと仲良くしようものならぼっちにされた挙句にいじめられる危険性があったのだ。悪循環のスパイラルなのだ。


「なんて学校なんだ……」


 当時は心から不快に思っていたことが今では容易に思い出すことができた。


 心の傷もいつか癒えるというけれどもショックだったのは好きな女の子の前でからかわれ続けることだったなあ……。


 振り向いて貰えないことはまだ良いのである。それも青春なのだ……。


 だが一番、僕の学生生活で稲妻が落ちた様に激震が走った出来事があった。


 それは、その好きな女の子が、同じく僕をぼっちにしてからかっていた不良グループのある輩と付き合ったことなのだ。


 おいおい、そんな奴と付き合うとロクなことがないぞ……。


 当時は本当にその子に対して心配したのだが、今思うとこれは僕の試練の一つだったのかも知れない。


 その子の約一年の交際期間の中、僕は気が気じゃなかった。その子がそいつに何かされるんじゃないだろうか。本当にヒヤヒヤものだった。勉強なんて全然身に入らなったのである。


 上級生の不良がその憎き因縁の相手と話し合っていた時に聞こえて来た言葉は……。


「お前、もうあいつとイイことしたのか」


 付き合っていたそいつはヘラヘラ笑っているだけでその不良に嫌気が差し、殴りつけたいのも山々だった……だが逆らうと、学校の不良メンバー全員から報復を受ける。


「なんの因果応報だよ」


 殴ることもできない己の不甲斐なさに家に帰って泣く日々なのだ……そう、一年間も。


 そして、悪い予感というものは当たるものなのだ……。


 当時、僕はとある部活をやっていたのだがその時に〇〇〇というその好きな子の名前が出て兎の様に聞き耳をした僕に信じられない会話が飛び出した。


「あいつ、捨てられたんだってよ」


 ……僕はトンカチのハンマーで殴りつけられたかの様なショックを受けた。


 どういう風にして家に帰って来たのか憶えていない。 


「お母さん」


「僕、ご飯食べたくない」


 ……母親が不思議がっているのだが何一つ聞いて来ない。そう分かったと言い食べずに済んだ僕はベッドに横になり涙をシーツに垂れ流す。


 そしてとある日のこと、精一杯の勇気をふり絞ってその不良に反抗した意思を示したのだ。


 そうしたら、学校のボスに呼び出されて学校の校舎裏でボコボコにされたのだ。


 次の日、勇気を振り絞って学校に行ったら傷ついたその顔を皆から笑われる始末。


 挙句の果てに好きな子……だった人までそんな僕を見ても無視していたのだ。


 そして……。


「おまえ、もう学校に来るなよ」


 不良のメンバーにこんなことを言われたのだ。


 もういいの。


 僕はもういいの。


 さようなら、僕の青春。


 そして僕は不登校になった。

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