第52話 曹嶷
「どこで間違えた、どこで」
四方を谷に囲まれた森深く。
曹嶷は自身のこれまでについて思いをめぐらす。
はじめ
劉柏根が滅ぼされたときは、
王弥が劉淵に帰順した後は漢の将として活躍した。
晋将の
何度も戦う内に、どんなやつなんだろうか、と気になったのを覚えている。
最近は名前を聞かなくなったが、
友人でもあるまいに、不思議なものだ。
漢の内情がきな臭くなってきてからは、王弥から距離を置き、王弥が
青州を掌握してからは守るに固いこの広固を拠点に、漢に、晋に、石勒に、劉曜にとそれぞれに従うような顔をして上手く乗り切ってきた。
はずだった。
蝙蝠外交の結果は全ての勢力からの信用の喪失だった。
石虎率いる大軍の迫るこの時に、どこからも援軍は来なかった。
守るに固いと思っていた広固城は、重い病を得た今となっては、逃げ出すのも難しい牢獄になってしまった。
「お祖父様、なにをぼやっとしてるんです。あの残虐無道の石虎が迫ってきているんですよ。逃げるんでしょう」
孫の
「私は、足手まといになる。私の首を挙げねば石虎が追ってくるだろう。お前は行け」
曹嶷の言葉に
「しかし、それではお祖父様が!」
「いいんだ。行け。私はもう疲れた」
そう言って孫を送り出すものの、その前途を楽観視しているわけではなかった。
逃げる?
どこへ?
西か?西など凶悪な鮮卑の支配下だ。
もし石虎から逃れたところで、慕容の賊に殺されてしまうだろう。
絶望の闇に包まれて、曹嶷は最期の時をただひたすら怠惰に待ち続けた。
◇
曹嶷は石虎に捕まりすぐに処刑された。
曹嶷の配下も全て生き埋めにされたが、さらに青州の民衆まで生き埋めにしようとする石虎を、石勒十八騎のひとりである
「支配するためにこの青州を攻略したのではないのですか。民無くして支配とは言いませんぞ」
石虎ははじめ怒ったものの、その言に道理があると思い直し、
◇
「旧怨から前燕への乱の火種になるかもしれぬから、曹嶷の子孫を探し出して手厚く保護してやれ」
曹嶷の勢力は消滅して久しく、乱の原因になることなどまず有り得ない。
そう思った
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