第13話「謹慎動画とレスバトル」
無事学校から帰り、夜になると暇つぶしにMeTubeを見ていた。そこでなんと動画を消されたばかりのヨミ・アーカイブの動画がアップロードされていた。チャンネル登録していたのでしっかりと見つけられた。その内容は避難用にサブチャンネルを作ったことと今回の件のお詫びだった。お詫びより先に避難先を示すあたりが反省の軽さを表している。
動画へのコメント一番乗りは『ノーブル』というアカウントで『がんばってください! 権利の乱用者に負けないように応援しています!』と書かれていた。その発言からレビューされた作品の作者を権利の乱用者と呼ぶ信者っぷりが如実に表れていた。
二番目のコメントは『グッドマン』で『この動画広告なくて見やすいですね、ありがとうございます』と煽りコメントを投稿していた。しかもその後ヨミ・アーカイブの投稿した大量のレビュー動画の中から、広告が剥がされたものをピックアップしてその動画へのリンクを貼っていた。どうやら煽り能力も一流のアンチのようだ。
その先は言うまでもなくアンチと信者のレスバの場と化していた。『ノーブル』と『グッドマン』は苛烈な言い争いを続け、それに乗っかる信者とアンチがお互いを罵る
俺は『グッドマン』の貼ったリンクから広告の剥がされたものをチェックしてみたが、性的にセンシティブなものが軒並み広告を剥がされていた。どうやらバイオレンスな描写は許されても、軽くでも性的な描写が入ったもののレビューは御法度らしい。
『いつかこうなると思った』
『長持ちした方だろ』
レビューの姿勢ではなく、著作権的な理由で消されたため、そのリスクがあることをよく知っている閲覧者たちはその事を突っ込んでいた。俺も辛辣なレビューで消される確率より、著作権的にヤバいんじゃないかなと思っていたのでヨミ・アーカイブのチャンネルはよく消されないなと思っていた。ここでついにMeTube運営の怒りに触れてしまったようだ。無法地帯と呼ばれることも多い動画サイトだが、一応倫理観の欠片くらいは存在しているらしく、法的に危険なものはきちんと削除しているらしい。
信者の怒りは運営にまで向いていたが、運営には絶対勝てないのでやめた方がいいと思うし、運営批判はヨミ・アーカイブでさえもやんわりとたしなめていた。運営はやることやっただけだからな叩かれるべきではないだろう。
――良子の部屋
「コイツなかなか往生際の悪い信者ですね……広告を剥がされたのが全ての結論でしょう」
『グッドマン』こと良子はそう独りごちていた。その怒りはヨミ・アーカイブからそれを擁護する『ノーブル』というアカウントに向いていた。質の悪い信者ほど厄介なものは無い。何をやったって信奉する相手を擁護するからです、その様子は宗教の狂信者みたいなものですね。
私はただブンタさんの書いたWEB小説の続きを読みたいだけです。その障害となる配信者を許すことは出来ません、徹底的に戦いましょう、向こうもやる気のようですしね!
おっと、ヨミ・アーカイブの配信記録からいくつかの動画の広告が剥がれていますね、これは煽り材料に使えますね、リンクを貼ってやりましょう。信者の皆さんも課金しなくても広告のない動画を望んでいるはずですしね、しめしめ。
おやおや、顔を真っ赤にしている様子がディスプレイ越しに透けて見えるようです。ヨミ信者はチョロいですね。しかも削除された動画もあるではないですか。これは配信していた作品の一覧からも削除されていますね、これも熱心なファンのためにコピペをしておいてあげましょう。好評なら無謀にもヨミ・アーカイブが所有しているログから再アップロードをするかもしれませんしね。そうなれば通報でツーアウトです。思うよウのことが運べばかなりのダメージを与えられます。
戦略を練らねばなりませんね、ヨミ・アーカイブの心の隙を突く方法を考えなくてはなりません。レビューで引用の範囲を超えて本文を流用しているものを探しますかね……多分見つかるでしょう。ヨミは平気な顔をして大部分を引用したりしています、引用は必要な範囲でしか認められていません。引用と認められない部分を見つけたら作者さんへの通報は必要ですね。私一人は非力な一人の中学生です、大勢の協力がなければ大きな目標を達成することは出来ません。ブンタさんの安心安全な執筆環境を守るためにも排除しなければならないものは何とか消しておきましょう。それが最終的な目標です。
私は壮大な目標に向けて一直線に進むことにしました。たった一人の作品を読むために、私は多少汚い作戦でも採ることを決意しました。
――津辺邸
「なんだよコイツは! ヨミちゃんに何か恨みでもあんのかよ! 揶揄されるような作品を書く作者が悪いんだろうが!」
イラつく、それが『グッドマン』を見ての感想だ。ヨミ・アーカイブにはアンチもたくさんいるがコイツは飛び抜けてやり口があくどい。さすがに虚偽通報まではしていないだろうが、作者にレビューされていると進言しているところまでは見つけられた。
権利者削除はヨミちゃんにとってかなりの痛手になる。そんなダメージを与えることは許されない。俺はヨミちゃんの動画をもっとたくさん見たいんだ、それをこんなアンチ一人に邪魔される筋合いはない。
その時更新ボタンを連打しているととんでもない情報が貼り付けられた。それはヨミ・アーカイブの削除されたレビュー一覧だった。コイツはとことん潰し合わないと気が済まないようだな。上等だ、レスバには自信があるんだよ、そちらがその気なら勝負に乗ってやる。
そこから当面『グッドマン』とのレスバは続いた。始めに広告を剥がされた動画一覧を貼られていた時にはまだ許せていたが、消したものまで掘り起こそうとするコイツの姿勢はとてもではないが許せない。戦いを望むなら戦ってやろうじゃ無いか。
俺はヨミ・アーカイブの信奉者としてこの邪悪な存在と戦い続けなければならない。向こうが仕掛けてきたことだ、もはや仲良くなることなど出来ない、どちらかが潰れるまで戦うしか無い勝負が始まったのだ
――夜見子邸
『みんなやめて! 私のために争わないで!』
こんな言葉を現実で使う機会があるとは思わなかった。多分こういう言葉を言う必要が無いのが幸せな人生なのでしょう。実際に自分を巡って争われると悲しくなる以外の感情は湧かない。
ディスプレイの中では『グッドマン』と『ノーブル』が骨肉の争いを繰り広げている。お願いだから一刻も早くそんな悲しいことはやめて欲しい。
『ノーブル』さんは私を擁護したいのでしょうが、炎上の火種には関わらないのが一番であると言うことを知らないのでしょうか? 煽るから私の消した過去まで詳らかにされてしまいました。
忘れたいことを掘り起こしてくる人とそれを煽って更に続けさせる信者という頭の痛い存在が画面の中で争っています。どちらも私に益をもたらさない存在です。今回のことは黙ってそっとしておいてくれるのが一番なのに、擁護でさえも火種を大きくしてしまうということが分からないのでしょうか? それはネットの基本だと思うのですが、この『ノーブル』という人はネット初心者なのでしょうか? そのくらいの基本は知っておいて欲しいものです。
『ノーブル』が私を無理筋で擁護して『グッドマン』が私を煽る材料を探すという地獄のような様相を呈していました。私が何か悪いことをしたというのでしょうか? ただ単にレビューをしただけではないですか。
なぜ『グッドマン』さんはここまで私に敵意をもっていて『ノーブル』さんは渡しに信者じみた好意を向けてくるのでしょうか?
私はただ多くの人が笑顔になれる動画を作ろうとしただけだというのにその意に反して画面の中は悲惨なものでした。その時頭によぎった言葉は『地獄への道は善意で舗装されている』というものでした。私はどうやら知らず知らずのうちに善意を振りまいてしまっていたようですね。
私はこれでこの件はおしまいと書き込んでベッドに飛び込みました。どうか明日になったら全てが終わっていることを祈るばかりです。
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