第10話「増えるヨミ・アーカイブアンチ」
延々と自分の文章について考えて気がついたら日が昇り始めていた。休みとはいえ徹夜は思考力に影響を与えるので、考えはそこで中断してベッドに飛び込んだ。
――夜見子宅
「ふぅ……なんとか今日の配信も平和に終わったわね……」
あれを平和と呼ぶかどうかは人によるだろうが、この前のような粘着アンチも来なかったし、比較的平和な配信が出来た。『グッドマン』とかいうアンチが来ていたらコメント欄がまた炎上していただろうし、落ち着いて配信出来なかった可能性もある。本当に私は運が良かった。
今日の配信は正直不安もあった。ブンタさんの作品レビューを公開してからのアンチや炎上などで私は疲れていた。これで最後にしようかと思っていたブンタさんの作品レビューだが、あの人はまだまだ書くだろう、でなければ私の酷評で筆を折っていたはずだ。それにめげることなく自身の文体に向き合って私に挑戦状の如く作品を書いてきた、きっと強い人なのだろう。
私のレビュー動画も結構な数になったが、酷評した人の中には筆を折りますと宣言した人もいた。ブンタさんはそういうことも無さそうだし、まだまだ書くだろうから今度書いたらレビューに使わせてもらおう。どこの誰だかまでは知らないがメンタルの強い人と言うのは貴重なものだ。
「でもなあ……今日も敵を増やしちゃったのかなあ……」
皆が同意してくれて、歓迎をしてくれるから酷評だってたくさんした、それで毎回動画をアップする度に見てくれる人は増えたし少々過激なことをいっても叩かれるようなこともない。
「私は……正しいんでしょうか?」
時折そんな疑問が鎌首をもたげます。しかし現実に私は収益化までして支持を得ているので間違ってはいないのでしょう、そう思いたいのです。
ブンタさんの作品をたくさんレビューしたけど……やっぱり怒ったかな?
作者の気持ちなど考えていては批評は出来ない、そんなことは分かっていてもはっきりと割り切ってしまえないのです。どこかやましい気持ちが私の心から離れてくれません。
「いつまで同じ笑顔を司書くんたちに見せられるのかな?」
そんな思いもよぎります。リスナーの前では常に笑顔を振りまいていますが、作者さんからクレームを後日書き込まれて数日間引きずったこともありましたね。
皆がそれを望んでいる、だからといってやっていいことなのでしょうか? 疑問に思うことはあっても動画広告で得た報酬を見ると何の言葉も出てきません。数字は嘘をつかないのです。広告代をもらっている以上視聴者に媚びることも必要なことなのでしょう。逸れに作者の皆さんだって同じような作品を作っているのはそれが受けるからでしょう、だったら私が他のレビュアーと同じようなレビューをしてなにが悪いのでしょうか?
「恨みは買っているんでしょうね」
恨みを買うような動画を公開している自覚はあります。自作を悪く言われて気分が良くなる人はいないでしょう。作品の中には感想欄を閉じているものもあります。閉じられた感想欄に書き込めなかった人たちが私の動画を感想欄代わりにしていることも良くあります。見たくないものを見ないために感想欄を閉じているのに私がそれを引き受けるような真似をすれば恨みは買うのでしょうね……
しかし、引き下がるにはもうすっかり手遅れになってしまいました。私のチャンネル登録者が千人を超え収益化が出来るようになってしまった以上、今さらそれを捨てるにはあまりにも私にとって大きくなりすぎてしまいました。
ブンタさんは決して私のコメント欄に直接書き込みはしてきませんでした。信者のような方が書き込むことはありましたが、名前欄そのままに突撃してくるような方ではないのでしょう。ついついそれに甘えてレビューに使わせていただきました。
ピコン
つぶやいたーの通知が届きました。いい加減通知無効化しておきたいのですが、フォローバックするために通知は有効にしています。自動ツールを使うとアンチまでフォロバしてしまいますからね。
スマホで通知を覗いてみます。届いたフォロー通知は『ママ活募集』という文字を見た時点でブロックしておきました。こんな無差別フォローに何の意味があるのでしょう? アカウント凍結希望者なのでしょうか? 正気の沙汰とは思えないのですよね。
つぶやいたーは見なかったことにしてMeTubeの配信結果をチェックします。そこそこの人数が見に来てくださったようですね。
次にコメント欄をチェックします。少し荒れ気味ですね。私が関わるべきでしょうか? それは少し問題があるような気もしますが……
『みんな! 攻撃的なコメントはやめてね!』
それを書き込んでもやはり炎上の跡地は燃え続けました。そうそう鎮火などするものではありません。一度燃えた火を消すのは大変なのです。
コメントには私の擁護と作者のアンチの二勢力に分かれてお互いを罵倒し出しました。困りましたね、結構伸びる動画だったのですが、こう言う伸び方はあまり好きではありません。
その上コメントを読んでいるとブンタさんの作品感想に私の動画を告げ口したというコメントまでありました、頭が痛くなってきます。普通作者にそんなこと言いますかね? それが当たり前の文化圏で住んでいるのでしょうか? それにしては日本語がお上手ですね……日本人にも理解しがたい人はいますね。
『つーかヨミって叩くばかりで改善点を言わないよな』
そのコメントには幾らかの賛同を示すいいねが付いていました。私の何が悪いのでしょう?
私にはアンチも結構な数がいるのですがそのいいねの数がなんとなく気になりました。
なんだか言い知れない不安が私の頭の中で霞のように広がっていきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます