VTuberが俺の書いたWEB小説をレビューしてくるんだが、頼むからやめてくれませんか?

スカイレイク

WEB小説作者vsVTuber

第1話「VTuberだからって何をしても許されるの!?」

「うーん……ここは主人公の心理描写が矛盾してるねー」


 やめてくれええええ!!!


 俺はPCのディスプレイを見ながら悶絶していた。画面に映っているのは美少女アバター、金髪でゴテゴテした装飾の付いたモデルが小説についてレビューしている。問題はレビュー対象が俺のWEB小説だということだ。


「ここは後付け感が強いかな、作者のブンタさんは後から思いついて書いたのかな?」


 ぎえええええええええ!!!!


 図星を突かれるのがこれほど辛いとは思わなかった。確かにそこは後付けだよ! だからってつつかないでくれよ……思いやりとか無いのかよ!


 レビューをしているのはMeTuberの『ヨミ・アーカイブ』だ。バーチャルモデルを使っているので最近流行のVTuberの一人だが、コイツはWEB小説をレビューすることで有名だ。昔は普通に書籍のレビューをしていたそうだがWEB小説をレビューした時にPVが稼げたのに味を占めてその路線になったらしいと聞いた。クラスメイトにコイツのファンがいるのだが、絶対に性格が悪いぞコイツ。


「女の子がチョロすぎるよねー」


『そうそう』

『安易ななでポ』

『作者は何も考えてない』

『文章を書くことを舐めてる』


 心ないコメントが俺の心を切り裂く。勘弁してくれ……俺は自慢じゃないが素人なんだぞ! もう少し手心を加えてくれたっていいじゃないか! なでポで何が悪い! 毒者がそれを求めたんだぞ!


 などと言っても決してヨミ・アーカイブに届くことはない。反論コメントを書き込んでやりたいのだがその手を必死に引き留める。ここで怒りのコメントを書き込めばコイツの思う壺だ。作者とのバトルとして視聴回数は伸びて俺はファンたちから袋だたきにされるだろう。


『この作者はよく考えて書いている、邪推は良くない』


 俺を擁護するコメントが付いた。名前は……『グッドマン』となっている。正義の味方の真似事だろうか? この状況でそんなことをすればどうなるかは目に見えている。


『コイツ作者じゃね?』

『顔真っ赤』

『こんなものの擁護してるのが笑える』


 くそぅ……くそぅ! なんでここまで言われなくちゃならないんだ! お前らが一つでも作品を書いたことがあるのかよ! こっちは苦労して金にもならないPVで必死に書き続けたんだよ! なんでそんな簡単に笑えるんだよ!


「まあまあ、司書くん、こんなものでも作者さんが必死に書いたんだからね? 過激な発言は控えようね」


『ヨミちゃんマジ天使』

『ぐう聖』

『これは聖人ですわ』


 コメントにヨミの賛美が流れる。なんだよ、俺の作品を腐しておいて自分は賛美をもらうのかよ! なんて勝手なやつなんだ!


 このヨミ・アーカイブはしょっちゅう問題発言をしているので界隈からは嫌われている。しかしMeTubeで圧倒的な支持を得ているので何を言ってもアクセス数の差で数の暴力がヨミを守っている。昔コメント欄で噛みついた作者がいたが、可哀想になるほど信者に袋だたきにされていた。こんな乱暴な意見が許されるのがMeTubeと言う場所だ。


 無論法律では引用の範囲では文章を使用することは許されている。認められているからといって好き放題してもいいのだろうか?


 動画はプレミア公開されており、俺の作品『蒼天の鳥』が取り上げられると知ってから不安八割、まさかの高評価が来る確率が二割の期待として待っていたが、やはりヨミ・アーカイブは容赦なく俺の作品を酷評した。この場にコイツの中の人がいたなら殴りかかっていたかも知れない。そんなことも出来ずただ動画を垂れ流しながら泣きそうになっていた。


 司書くんと呼ばれるコイツの信者たちはとにかく容赦が無い。ヨミが酷評したもの=無条件に叩いて良いものと考えている節がある。自分と関係無いからといって好き放題言って、人が苦労して書いたものを叩き始める。それはヨミが配信を終えてからも続くし、司書くんたちにとっては作品を作者が削除しようと『逃げた』の一言で片付いてしまうのだ。


 そこに作者の思い入れなど関係無いし、自分には叩く権利があると思っている。人によってはヨミ自身よりその囲い共の方がクソだと言う作者もいた。俺はPCのディスプレイを思い切り殴りたくなるほどイラつきながら動画を見ていた。


 しかもヨミの指摘は一々自分にとって痛いところを突いてきた。確かに考えていなかったシーンや伏線を引っ張り出してそこをボロクソに叩く。それに司書くんたちが乗っかって叩きのエコーチェンバーが起きるというのがコイツの動画だ。


「安直なハーレムって好きじゃないんだよね、作者の願望が透けて見えるって言うか、作者は童貞くんなのかな?」


 うっせえよ! 童貞で悪いか畜生!


 なんで人格攻撃まで受けなきゃならないんだよ! ハーレムを書いて何が悪い! そこにはロマンがあるだろうが!


『作者が童貞なのは知ってる』

『知ってた』

『WEB小説作者の童貞率は異常』


 クソが! 好き放題言いやがって! 俺の作品を評価しろよ! 何で俺の評価をコイツらはしているんだよ! 作品と作者は別だろうが!


 そんなことを言ってもキリが無い。結局ヨミは最期まで俺の作品を褒めることは無かった。信者の声が大きすぎて俺の擁護は『グッドマン』ほぼ一人だった。誰だか知らないがこの人には感謝をしておこう。


「と言うわけで、作者さんの妄想の詰まった作品の紹介でした。概要欄にURLを乗せているから読んでみたい人はそこから見てね!」


 そう言って配信は終了した。言いたい放題だったな……よほど俺に恨みでもあるのだろうか?


 そう思いながら俺は投稿している『印税生活をしよう』というサイトを開いて自作の感想欄の掃除を始めた。そこには大量の罵倒コメントが書いてあった。メンタルに堪える発言が大量に書き込まれており、それは俺の心を地面に叩きつけるには十分な量だった。


 どうせ捨て垢でコメントを書いているのが大半だ、ブロックすることに意味は無いし、ブロックしたところでリスナーが『アイツブロックしてきたぜ』と話に登るだけだ。


 そうしてイライラするようなコメントを削除しながら、作品削除をするべきなのだろうかと考える。いや、それをやったら司書くんたちに負けたことになる。俺は硬い意志を持って作品を残しておかなければならない。


 そして俺は最後にアクセス解析を見ておいた。このサイトではアクセス数に応じた報酬がもらえる。それがたとえ悪意の塊のような感想を投げつけてくる連中であってもアクセスはアクセスだ。


 開いてみると表示回数を示す青いバーがとんでもなく伸びており、他の日のバーが小さすぎて見えないほどにアクセスがされていた。


 果たしてヨミ・アーカイブは読者をもたらす天使なのか、悪意の塊のような存在なのか、それは自分の作品が一つレビューされただけの俺には判断が付かないものだった。

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