第11話 哀れなマリオネット (2)
「第二皇子を神殿の神議会に訴えた」
神殿での怪我の鑑定を終え、公爵家に戻り、執事に報告すると、執事が卒倒したが、セシリアは特に気にすることなく部屋に戻る。
皇族が聖女に暴力をふるった件についてまで、シャルネは介入してこないだろう。第二皇子の利用価値と神殿に対する犯罪をもみ消すリスクを考えるなら、計算高いシャルネの事だ。平気で第二皇子の方を切り捨てる。
第二皇子の婚約者として隔離を失敗した今、セシリアを神殿から引き離す別の手段を模索してくるだろう。
むしろ――模索してもらわねば困るのだが。
その為王宮に、それらしい噂を流しておいてやった。
素直にこちらの手のうちで踊ってくれなければ困る―――。
そんなことを考えながらお茶を飲んでいると
「セシリア!!!」
兄であるゼニスが慌てた様子で部屋の中にはいってきた。
「……ノックくらいしていただけないかしら、お兄様」
またどうせ、何故皇子を無断で訴えた事を怒りにきたのかと、セシリアは目を細める。
「皇子に殴られたと聞いた、傷は大丈夫なのか!?」
「大丈夫です。神殿で魔力検証もすませました。
皇子に殴られたことの証明はできております。
私の罪になるようなことはないでしょう。公爵家にご迷惑はおかけしません」
その言葉にゼニスの動きが止まる。
真っ青になってうつむくゼニスにセシリアはいらだちを覚える。
皇族と問題を起こしておいて何を言っているとでも思っているのか?
……まぁ、この男は計画においても復讐相手としても優先順位は低い。
確かにセシリアが愛をすがった相手ではあるが、後ろで手をひき、ゼニスに問題児と思わせていたのはシャルネだ。惨たらしく殺すのはシャルネであってこの男はどうでもいいだろう。
そう思いながら再びティーカップに口をつけた。
★★★
セシリアが第二皇子に殴られ傷を負った。
知らせをうけて慌てて部屋にかけつけると、腫らして湿布を貼った頬を隠しもせずセシリアは紅茶を飲んでいた。
傷のひどさに思わず声をかけると、帰って来た答えは傷に対する安否よりも、誰に殴られ、その殴った相手について証拠があり公爵家には迷惑をかけない――それだけだった。
今までどんなもめ事も勝手にセシリアを悪いと決めつけていたがために、セシリアにまったくといいほど信用されていない。
兄として安否を気遣いにきたのではなく、セシリアに落ち度があったのか問い詰めにきたしか思われなかった事実にショックをうけている自分にいらだちを覚える。
当然だ。記憶をなくしてからですら、ゼニスは真偽を確かめることもなくセシリアを責めた。
そして使用人たちの態度からいかにゼニスがセシリアを放置していたのかも、今のセシリアなら予測は容易につくだろう。
「……公爵家については心配しなくていい。
こちらからも正式に抗議する、この件について皇族にお前にとやかく言わせる気はない。
お前は安静にしていなさい」
ゼニスはそう言って、セシリアに背を向けた。
冷静になると、ゼニスはいつもシャルネにばかり気を取られセシリアの事など見てもいなかった。
父親にあの子を頼むと頼まれていたはずなのに。
そしてシャルネが屋敷からいなくなった途端急に眼をかけたとしても、セシリアには信頼すらされないだろう。
「……いままで、すまなかった」
ぽつりと思わず言葉が漏れる。
静かにセシリアがティーカップを置く音が聞こえたが、背を向けたまま部屋のドアに手をかけたその時。
「きっと記憶をなくす前の私がその言葉を聞いたら、喜んだでしょうね」
セシリアから帰って来た答えはそれだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。