第9話 side セシリア (1)
どうしてこんな事になったのだろう。
……毒を飲んだはずだったのに、気が付くと意識だけがある状態で身体が勝手に動き思ってもいない言葉と行動をとる。
自分の身体なのに自分ではない感覚。
ただおこることを遠くから見ているだけの不思議な感覚。
(これは何?私はどうなったの?)
『やぁ目がさめたかい?』
どこかから声が聞こえる。あどけなさの残った青年の声。
『誰?』
『人間の間では僕たちのような存在を悪魔というらしい』
その言葉にセシリアは血の気がひくのがわかった。
(自殺したせいで悪魔に魂を食べられてしまったの?)
『それは違うね。契約者は君じゃない。
死の淵をまよっていた君を僕が生き返らせた』
(何故悪魔が私を?)
『君の幼馴染いるだろう?レヴィンだよ』
(どうして彼の名が?)
『彼、君の復讐をしてくれるらしいよ。そのため悪魔の僕と契約を結んで、今君の体は彼がのっとっている状態になっているんだ。喜びなよ。憎き神殿連中に制裁してくれるんだって』
悪魔との契約?
――それはつまり……
『そう、復讐劇が終わったら、彼の魂は僕が美味しくいただく予定♡』
『やめて!!私はそのような事は望んでません!!
彼の魂が犠牲になってしまうくらいなら死を選びます! 』
『あははっ。ずいぶんご立派な事をいうじゃないか。
でも嘘はよくないなぁ』
そう言ってメフィストが近づいてくる。
『じゃあなんで僕が君の体をのっとれたんだい?
復讐を望んでいないのなら聖女の体を悪魔がのっとれるはずなんてないのに』
ドクン。
悪魔の言葉に胸に何かが突き刺さる。
『本当に憎くない? 思い出してみなよ。君が自殺をする前に何をされたのかを』
……。
『厳しい修業に耐えて、やっと『金色の聖女』の試練にたえ、力を手に入れた途端。君は何をされた?』
悪魔の言葉とともに、手足を鎖でつながれた自分の姿が暗闇に浮かび上がる。
――やめて、やめてっ!!――
『そう、金色の聖女の力を君の大好きな妹に移すために、君は拷問のような力を交換する儀式を受けさせられた。
聖女は儀式を受けた瞬間に君は莫大な聖気を所持したはずだ。
その聖気を無理やり身体から引きずり出して交換したんだ。想像を絶する痛さだったんじゃないの?』
お願い、それ以上言わないで
儀式で力を奪われた時の痛みが蘇りぶるぶると震え、涙が止まらない。
体の奥底からえぐられるような痛みに気を失いそうになるのに、力が譲渡できなくなると無理やり魔法で意識を覚醒させられて、ただ痛みに耐えなければいけなかった。
泣いて叫んでも皆笑うばかりで誰も助けてくれなかった。
『それでさ、やっと痛みが終わった時、君シャルネになんていわれたの?』
また黒い空間にボロボロになって倒れている自分とシャルネの姿がうかぶ。
『シャルネ、どうしてこんなことを……? 貴方を信じていたのに』
――私前から下賤な平民の血が入っていた貴方が嫌いだったの。
脳なしの屑が私の役にたてたことを喜んで?ね?お姉さま――
思い出したくない言葉が胸に突き刺さる。
切望したものが得られないと知ったときの絶望、ただ騙されていただけだったとわかった時の後悔とがいりまじり、なんと表現していいかわからない渦巻いたどす黒い気持ちに支配されそうになる。
家族に愛されたいと願った事がそれほどいけなかったのだろうか?
『ねぇ、酷いよね?許せないよね? だから素直になろうよ。
僕が君の体をのっとり、彼を迎え入れられたのは――君が復讐を望んでいるからだよ。
可愛そうな本当の『金色の聖女』セシリア』
―― だから一緒に楽しもう? 君が死んだと思い込んでいる彼の復讐劇を――
そう言うメフィストの声はどこまでも無邪気だった。
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