第5話 報復と制裁を(1)
「セシリア様、なりません!せめて神殿に行かれるなら護衛を」
翌朝、出かけると告げた途端、老執事が慌ててセシリアに部屋に訪れ告げた。
よほど慌ててきたのか息を切らせてセシリアを説得するさまは滑稽にすら見えた。
今までさんざんセシリアの虐めを放置していたくせに、少し反抗的な態度をとっただけでこうも態度を変える様は見苦しくもある。
「それにお食事はどうするつもりですか!?」
「いらないと言ったはず。毒でも入っていたら困りますから。食事は神殿でとります」
「な、なりません!
公爵邸で食事も与えられないなどと噂が広まってしまえば我が公爵家が責任を問われてしまいます。
この私めが毒見をします、ですから何卒」
「私は貴方も信用していません、貴方の毒見にどれくらいの価値があるのかしら?」
「ですが、療養にきているのに食事を外で取っているなどと広まってしまえば家は終わりです。
セシリア様、何卒、聖女である前にルーゼント家の一員として……」
「使用人に馬鹿にされていて、ルーゼント家の一員?それは冗談で言っているのかしら?」
執事の言葉にセシリアは嘲笑を浮かべて、髪をかき上げる。
「あの者たちは全て解雇いたしました。体に黒の烙印を押しました。
彼らは今後二度と就職もできないでしょう」
「だから何?ほかの使用人があの時関わっていなかっただけ、今後一切嫌がらせしてこないという保証はない。
あのようなわかりやすい嫌がらせをしていたのに誰も止めなかった。
それはこの屋敷で、私があの扱いが当然だっということ。たった一晩で何が変わるのかしら?」
「セシリア様……」
言い返す言葉も見当たらず執事が困ったような声で名を呼ぶ。
その姿にセシリアは興味なさそうに歩き出した。
「神殿に食事をとってくるわ。護衛はいらないから」
★★★
「それで本当に数名の共と外に神殿で祈るとでていったと」
執事の報告を執務室でうけたゼニスは頭をかかえた。
「は……。なんとか従者と護衛を一人つける事に説得に成功いたしましたが……。
……その公爵様」
「なんだ?」
「あの方は本当にお嬢様なのでしょうか。私には別人にしか見えません」
執事がうなだれていうと、ゼニスははぁっとため息をつく。
「仕草や歩き方、魔力の質はかわっていない。本人だろう。むしろあれが本来の彼女なのかもしれない」
公爵家になじもうと必死に努力をしていたのは知っていた。
それが故卑屈になり使用人たちにも甘くみられいていたことも。
だがここまでひどい扱いを受けていたのは知らなかった。
陰でシャルネと比べられているくらいだと思い込んでいたのだ。
それを僻んでセシリアが問題行動を起こしているだけだという認識だった。
家の事はほとんど妹のシャルネに任せていたせいで、公爵家の惨状に気づけなかった。
「シャルネに対する僻みさえなければまともな子だと思っていたが……。
認識を改める必要がある。
もともとあの子が平民出ということに委縮して言えなかっただけだったのかもしれない」
「といいますと?」
「ひがみが酷くて問題行動をおこしていたという、情報が正しいかだ。
考えたくはないが……シャルネの取り巻き……もしくはシャルネがあの子を悪者に仕立て上げていた可能性もある」
「……まさか、シャルネ様に限ってそのようなことが」
「なら、あの腐った食事はどう説明する?
セシリアの言う通りあの野菜は意図的に仕入れなければあるものではない。
あのようなものが用意できるという環境がおかしい。
誰か立場の強いものが主導していなければ、あのような暴挙がまかり通るわけがあるまい。
まさかお前がこの件に主導していたのではあるまいな?」
「め、滅相もございません!?」
「とにかく、あの子も『白銀の聖女』だ。世界に一人しかいない『金色の聖女』のシャルネに比べて下というだけで、見下す事は絶対許さん。
白銀の聖女も敬われ慕われる存在なのは知っているだろう?聖女をおろそかに扱えば神殿に制裁を受ける。
我が家で丁寧に扱わなければいけないということを忘れるな」
「はっ」
「……私は家の事をおろそかにしすぎていた」
ゼニスは頭を抱えるのだった。
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