オナ禁ブレイド -シコった時間が全て修行していたことになる呪いで、最弱剣士は最強になる-
@xayuki
第1話 - 世界最強の剣士
赤い陽が、黄昏の大地の向こうに沈もうとしている頃合いだった。
街と街を繋ぐ街道から外れた、滅多に人も通らないであろう薄暗い雑木林に。
太った男、痩せぎすの男、体格のいい男の三人の集団がいた。
彼らは妙に上機嫌に、下卑た笑い声を響かせている。
その三人が取り囲み、指をさして笑いものにしているのは――這いつくばり、全身を血に濡らした老人であった。
「ぎゃはははは! 残念だったなぁ、ジジイ! あの女はもう捕まったってよォ!」
「ぐひゃひゃひゃひゃ! テメーが命がけで守ったのも意味ねえってこった! 無駄死に、犬死に、情けねえ!」
太った男と痩せぎすの男が、そう、せせら笑う。
あからさまに、剣呑な状況、修羅場である。この男たちは当然のように、人の命を奪おうとしていた。
「おうおめえら、俺ぁもう飽きちまったよ。この老いぼれはさっさと埋めて、報酬で美味い酒でも飲みにいこうや」
三人の中でもひと際体格の大きな男がそう言うと、他二人はうんうんと頷いた。
痩せた男が笑いながら剣を抜き、老人に向ける。
「ぎゃはは! じゃあなジジイ! 弱い命に価値はねえんだ。あの世で自分を恨みな!」
嘆くことしかできない老人に、次の瞬間には容赦の無い刃が振り下ろされる。
そんな荒事の最中。
いつの間にか、一人の少年が、近くに立っていた。
彼は、一連の流れを、ぼんやりと眺めていて。
「あの」
絶体絶命の一瞬に、なんの感情もこもらない声でそう呼び止めた。
振り下ろされかけた剣はピタリと静止し、三人分の視線が少年に集中する。
そいつは、お世辞にも清潔とは言い難い外套を身にまとっていた。
ほどほどに若い顔立ちだが、元気というものがすっかり蒸発しているみたいで、陰鬱な面影ばかりが目立つ。それを覆うような髪の毛も海藻類のごとくもじゃもじゃとしており大変汚い。
一応腰に剣を佩いているようであるが、廃材の木の板のような鞘からも、憐みを覚えるほど細い剣であることが見て取れる。
訝しむ三人の中から、体格の大きな男が野太い声で返答した。
「なんだ、坊主。見てわかるだろう。取り込み中だ。死にてえなら後で殺してやるからちょっと待っとけ」
「いや、その。邪魔するつもりじゃなくて、ちょっと聞きたいだけでね」
少年は、もじゃもじゃの髪の毛をぼりぼり搔きながら、明日の天気を聞くくらいの程度で切り出した。
「女の子が捕まったって言ってたじゃないか。どこに連れていかれたんですかね。ちょっと野暮用があるんですが」
「……あぁ?」
この老人が何故三人の男たちに囲まれているのか。
詳しい経緯を知らない者でも、その捕まったとかいう女が火種であることは明白であろうのに。
それを飄々と、バカのようにそのまま聞いてきた少年の正気を疑わざるを得なかった。
そこで、痩せぎすの男が、体格のいい男に耳打ちする。
「お頭! こいつ、多分懸賞首の横取り狙ってるんじゃないすかね? 俺らより先にギルドに行って、報酬をかっぱらおうって魂胆ですよ!」
「……そんなバカする奴、いねえだろ」
と言いかけて、お頭と呼ばれた体格のいい男は口ごもった。人殺しの現場にわざわざ真正面から質問をしてくる、そんなバカな奴は目の前にいるのだ。
痩せた男が続ける。
「見てくださいよお頭! こいつの胸のバッジ! 銅色の最低Fランク冒険者だ! ギルドでも薬草採りくれえしか仕事のねえカスですよ! ギルドに名前を売りたくてどうしようもねえ、自暴自棄の底辺野郎ですぜ!」
「……まあ、よくわかんねえが」
体格のいい男が、面倒臭そうにため息を吐いた。
「ぶち殺しゃあ、なんでも一緒だ。やれ」
「オッケェお頭ァ! 結局は暴力が正義よ! 【身体強化魔法】発動!」
阿吽の呼吸で、殺しの許可が出た瞬間に、痩身の脚部が青く発光した。
瞬間、彼の姿が忽然と消えた。
否。彼は跳ねたのだ。魔法の力によって理外の強化をされた脚の加速により。
弾丸の如く駆け出した先は勿論――正体不明の闖入者。
痩せた男は剣を抜き大上段に構えている。この突風のようなスピードに反応できる人間などいるはずもない。
そして猛烈な速度の勢いに任せた刃が、振り下ろされる。
先手必勝の疾風の突撃は間違いなく、水袋を裂くようにして少年の肉体を真っ二つにするであろう。
しかし、その疾風の剣は、電撃のような速さで切り上げられた少年の剣と交差し、鉄音が響き渡った。
痩せぎす男は、目を丸くした。
目の前には、銅色バッジのFランク冒険者の少年。つまり最下層のゴミ人間。
対してこちらは容赦なく魔法を行使する格上の冒険者だ。この先手必勝の攻撃を阻まれるはずがない。
だが現実、痩せた男の剣は、少年の剣撃によって弾き返されていた。
男は剣を両手で構えていたものだから、両腕を上げるような形になっている。
つまり、男の真正面は無防備であった。
少年の剣が流星のように閃く。瞬きする間に横、縦の十文字に刃が振るわれ、水袋が裂くような、無残な音が零れた。
「あ――ぁ、が、あ……」
「じょ、ジョージ! おい、おい!」
「まて! 飛び出すんじゃねえ!」
まさかの事態に取り乱す太った男と、お頭。
お頭は脂汗を額に滲ませながら、相対する少年を睨みつけた。
……なにがなんだかわけがわからないが、仲間が一人やられた。
対する少年はまるでそよ風が吹いたような調子で。
「あぁ。まあ、そうか。そりゃ、教えてくれないよなぁ」
なんて嘆息をしている。
お頭は、己の頬を叩き、残る一人の仲間に呼びかけた。
「おい、出し惜しみするな。……全力で行くぞ」
彼らの中ではそれだけで十分であった。
太った男は頷くと、両手を少年に向けた。
「【風魔法】発動! おら、くらえ!」
男がそう叫ぶと、少年を取り囲むようにして、猛風が吹きすさんだ。
その強い風に、思わず外套を被り込む少年。その隙を、お頭は見逃さなかった。
「【業炎火撃】発動――燃え朽ちな下衆野郎ッ!」
お頭は片手の手のひらを少年に向けた。瞬間、紅蓮の火球がごう、と弾き出された。目を焼くほどの苛烈な赤い火の玉は、仲間の風によって更に加速し、少年へ吸い込まれるように飛来する。
「ぐひゃひゃひゃひゃ! どうだ! お頭は特別なんだ! 【色付き】の妖精と契約してるんだ! これに燃やされりゃ一巻の終わりよォ!」
少年は風の牢獄に囚われ、満足に逃げることもできない。
加速しきった火球は天と大地を焦がしながら――少年に衝突した。
太った男が、腕を突き上げる。
「ヒャハァ! 【赤の翅族】の炎魔法だ! これを消すには同級以上の魔法じゃないとダメなんだ! だがよぉ、お前はFランクのカスだ! 魔法を使うには妖精と契約しなきゃいけねえが、それはギルドを通さなきゃならねえ仕組みになってる! そして、ギルドは高ランクの冒険者しか妖精を斡旋してくれねえんだ! Fランクのお前は無能力者だ、この炎をどうにもできねえ! 俺らに楯突いた時点で寿命が決まってたんだよォ!」
解説じみた喝采で少年の焼死を喜ぶ太った男。
彼が語ったことは、この上ない真実であった。
ギルドに登録されている高ランクの冒険者しか使えない魔法、その中でも格別な、【色付き】妖精の魔法は、魔法を使えぬ人間には対処のしようがない別次元の現象である。
それが間違いなく少年に激突した。紛れもない勝利であり、覆ることはない。
――普通だったら、の話であるが。
「誰の寿命が、なんだって?」
少年の細い剣の刃が、紅蓮の炎へ鋭く振り下ろされ、消えるはずのない紅蓮の炎がいとも簡単に斬り裂かれた。
「……は」
それきり魔法の炎は消滅してしまう。
あり得ない。
魔法は人間界の物質より上位の存在である。
あんなちんけな剣で、干渉できるものではない。
それなのに、現に炎は消えた。
男二人が瞠目しているなか、少年はいつの間にか彼らに近付いており。
目に止まらぬ速さの、二連の斬撃を放った。
太った男の喉笛と、体格のいい男の胸部から、鮮血が溢れる。
「ゴボ、ボぁ、ガ、ガガ、ガ――!」
「アァアアアアアアアアア、アアア……アアアアア!」
二人は大地に転がり、血の海の中で無様に藻掻いた。
突如現れた少年は、あまりにあっけなく、三人を剣の錆にしてしまった。
彼は、藻掻く二人に意を介すこともなく、ふう、と溜息を吐き、剣にこびり付いた血を払い、鞘に納める。
そして、ずっと蹲っていた老人に話しかけた。
「ねえ。そこの人。一応聞くんだが、女の子の行方、知らないかい?」
返り血を拭いながら少年は老人にそう尋ねる。老人は、ガタガタと震えながら……縋りつくようにして、彼の手を握った。
「おお……おお……! ありがとう……ありがとうございます……! 貴方様が、きっと、音に聞こえし、救世主様なのですか……!」
「……はぁ? いや、僕ァ、そんなんじゃなくてね」
「あの御方、シャロ様は……あの街、ウルダンのギルド支部に連れていかれました……! 私では、お守り通すことができなんだ……どうか、どうか、救世主様……シャロ様を、私の、代わ、り、に……お守……」
最後まで言い残すことができず、老人はそこで事切れた。
少年はじっと、その枯れた体を見つめる。
『くふふふふ。よーやく、見つかったねぇ? はくしゅーっ! でもでも、ギルド支部ってやばくなーい? レウくん、もう諦めたら?』
どこからともなく、そんな甘い声が聞こえる。だがその周辺にはもう人影はいない。彼に語りかける者は誰もいない。
それもそのはずであろう。この声は――少年にのみ聞こえる、呪いの声に他ならないのだから。
「リーリス。バカ言うな。僕ァ、絶対諦めないぞ」
少年は、遠くに鎮座する都市、ウルダンの影を見据えた。
そして彼――レウは初めて感情を露わにした。
腹が煮えくり返るような、怒りである。
「あの女を、絶対に許さない」
レウは、怒りを燃やしたまま、日が沈む中、街へと歩みを進めた。
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