第22話 武鶴義兄弟④
ゲーム開始の機械アナウンスと、鐘の音が鳴り響く。その直後、ノワールは複数の触手を、
二人が出会って数年経った現在では、ミナトより悧音の方が背は高く、体格もガッチリしている。だが、ノワールとの契約により、身体能力が上がっている今のミナトであれば、自分よりも大きな悧音を軽々と運ぶ事も可能だ。
触手と鞭がオブセシオンの
二人の攻撃が当たった瞬間、ノワールは触手を慧介は鞭でオブセシオンを引っ張った。それでもオブセシオンは地に落とされる事なく、腐っていく部分を蔦で斬り落とすと、ミナト達を振り払ってから体を回復させる。
執着のテンシのボスと言うだけあって当然、オブセシオンは簡単に倒れてはくれない。しかし、ミナト達の息の合った攻撃に押され、かなり
誰がどう見ても、ミナト達の方が優勢だ。けれども、オブセシオンが言葉にならない叫び声を上げた瞬間から、形勢が逆転し始める。地面が揺れる程の大声に、ミナト達は怯み、攻撃の手を止めてオブセシオンから距離を取った。
「おのれぇ! 愚者共がっ……あまり調子に乗るんじゃないデスヨ! 大体……一生、ゲームから逃れられない
「は……? なにいって……」
何も知らないミナトは困惑しながら、オブセシオンを見据える。一方、今すぐにオブセシオンを黙らせるべきだと判断したノワールと悧音は、ほぼ同時に動いた。
ノワールは触手を伸ばしながら飛び上がり、悧音は一直線に走り出す。けれども、オブセシオンが
「知らないのであれば教えてあげマショウ! 隠ミナトの相棒になる条件として、ノワール・ローザは自分の命を差し出しマシタ。『ミナトくんが卒業するか、死んでしまったら、テンシ族の裏切者であるこの私を処刑してくれて構わない』と。シテンシ様と吾輩の前で、ノワール・ローザは確かにそう言ったのデスヨ!」
オブセシオンの言葉に、ミナトは目を丸くし、唖然とノワールを見つめる。
「ミナトくん、惑わされてはいけない! オブセシオンは嘘をついている!」
「……ノワにぃってウソつく時、いつも声が震えてるよね。そんな分かりやすいところも好きだけどさ。よりにもよって、こんな時にウソをつくノワにぃは好きじゃないなぁ……」
「っ……私は、嘘などついていない! 嘘をついているのはオブセシオンの方だ! 頼むから……私を信じてくれ、ミナトくん……」
「……だったらさ、体の中から顔を出して、オレの目をちゃんと見てもう一度、同じセリフを言って?」
ミナトはノワールに詰め寄り、触手をぎゅっと掴む。潤む瞳に見つめられたノワールは息をのみ、弱々しい声で「私を、信じてくれ……」とだけ言った。ノワールのその態度に、オブセシオンの言葉が真実だと確信したミナトは力なく、「どうして……」と呟く。
完全に戦意損失したミナトへ追い打ちをかけるように、慧介がフラフラと近づいてきた。慧介は
「酷いよ、ミナトくん……僕ら
真っ青な顔で慧介を凝視し、瞳を揺らすミナトを目にした悧音は、苛立ち混じりに兄を突き飛ばす。それからミナトの頭をぎこちなく撫でると、真っすぐ彼の瞳を見つめた。
「兄貴はアンタに罪悪感を抱かせようとしているだけだ。こんな演技に騙されんな。俺も兄貴も……
悧音は少しぶっきら棒だが、優しい声音でミナトの背中を押す言葉をかけた。ところが、ミナトにとってそれは逆効果だったようで、彼は無言で首を横に振る。更にそのタイミングで、アッシュが斧から元の姿に戻り、胸に飛びついてきた事で悧音は眉間にシワを寄せる。
「悧音殿、すまぬ。
「は……?」
「ノワール殿は……某がミナト殿の父君の相棒だった頃からの戦友なのだ。友が処刑されると分かっていて、戦うなど、某にはできぬ……」
「んだよ、それ……ミナトが元相棒の息子だってんなら尚更、一刻も早くこんな
「勿論、某もそう思っている。だが、ノワール殿にも生きてて欲しいのだ……」
そう言ったアッシュの表情は暗く、彼は葛藤しているようだ。悧音もそれを察し、全てを暴露したオブセシオンに対して舌打ちすると、ノワールの方を見た。
「テンシ野郎! 今だけでいい、俺と契約しやがれ! 俺が執着野郎と決着を――」
「悧音くん待って! もし悧音くんとノワにぃがオブセシオンを倒すって言うなら……オレは自分自身を傷つけてでも、二人を止める。オブセシオンにトドメを刺す前に、自分の腕を引きちぎるから」
ミナトは皆から距離を取り、左手で右腕を強く掴んだ状態で、悧音の言葉を遮った。
ノワールと契約し、筋力も上がっている今のミナトであれば、自分の腕を引きちぎる事は可能だ。当然、ノワールと同じくどんな怪我でも回復できるが、腕を元通りにするためには、残りの
「シシシ……仲間割れデスカ!?」
オブセシオンはそう言いながら
オブセシオンの毒牙から身を挺してミナトを助けたのは、ノワールでも悧音でもなく、慧介だった。彼の契約相手であるラティゴは慧介を切り捨てる気で、鞭から元の姿に戻り、その場から逃げようとする。だが、慧介はそれを見越していたのか、ラティゴの体を掴むと、大蛇の口に押し付けた。
ラティゴの呻きと、
ラティゴと共に
その後、間もなくして
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。