第11話 心配と涙
今は近くにテンシはいないが、再びドーム状のバリアも張られている。
「ごめん……迷惑かけたよな」
友人の
「迷惑などと思っていない。ただ、冷静さを失っているように見えたゆえ……少しばかり心配ではあった」
「そっか……心配かけてごめん。もう大丈夫だから。それより早くリツ達のところに行かないと」
「待て。恐怖のテンシが言っていただろう。『エリアの移動は禁ずる』と。それに恐らく、そもそも移動できぬよう、エリアごとに隔離されているに違いない」
「そんなの関係ない。ジブンは――」
「やはりまだ大丈夫ではないな。この島から逃げ出した者の末路を話したであろう。恐怖のテンシがわざわざ口にした禁止事項を破れば、それと同じような目に遭う可能性が高い。最悪の場合、貴様も妹もテンシに……今、旋がやろうとしている事は寧ろ、妹をより危険にさらすようなものだと分からないのか?」
レイは少し語気を強め、旋の言葉を遮る。だが、徐々にいつもの話し方に戻していき、冷静に旋を諭す。
レイの言葉に旋はハッとし、自分に対して深いため息をつく。
「……レイの言う通りだな。ごめん。止めてくれて、ありがとう」
一時の感情だけで動いていたら、リツを更に危険な目に遭わせるところだったと、旋は反省する。
――大丈夫、リツは強い。だから、大丈夫だ……。
旋は自分自身に言い聞かせるように、そう心の中で呟く。だが、どうしても不安が拭えず、暗い顔をする。そんな旋を安心させようと、レイは口を開く。
「旋の妹は決して弱くないゆえ、恐怖のテンシ如きに、後れを取る事はないであろう」
約一ヵ月間、レイは旋と共に鍛錬に励むリツの姿も見てきた。だからこそ、恐怖のテンシが数を揃えてきたところで、リツは負けないと本気で思っている。だが、レイよりもリツをよく知る旋は、知っているからこそ不安が大きい。
「リツが強いのは分かってる。とても芯の強い子だよ。それに、ヒーローみたいにどんな状況でも絶対に、他人を見捨てたりしない。だからこそ心配なんだ」
「なるほど……その性格ゆえ、誰かを守って……と言う事か。……しかし、彼女には
「うん。もちろん、奈ノ禍さんの事も信頼してる。だけど……戦う手段もあるとは言え、メインの能力自体はサポート向きだろ? どう考えても誰かを守りながら、百体のテンシを相手にするのは無理だ。だから加勢しないとって思ったのに……」
とうとうその場にしゃがみ込んでしまった旋に、レイはどう声をかけるべきか悩んだ。その末に、少しでも旋を安心させようと、ある人物の話をする事にした。
「これは旋にとって、安心材料になるかは分からぬが……中等部には彼女が居る」
「彼女……?」
「テンシの種を集め終え、シテンシのゲームも難なくクリア出来るであろう実力を有しながら、
――唯一、愁詞奈ノ禍と少々、因縁がある点は気掛かりだが……。しかし、愁詞奈ノ禍も、
レイは最初、そこまで旋に伝える気でいたが、直前で言うのをやめた。どう考えても、不安材料にしかならないと、思い直したからだ。
レイの話を聞いて旋はしばらく考え込んだ後、
その次の瞬間、旋は自分の両頬を力いっぱい叩いた。
「会ったこともない子をあてにするのはなんか違う気がするけど、いつまでもウジウジ悩んでる場合でもないよな……。よし! こうなったら、ジブンは高等部に放たれたテンシを倒すことに集中する。これ以上、恐怖のテンシに好き勝手される訳にはいかないしな」
「同感だ……勿論、我も共に戦おう」
「うん、ありがとう。そんじゃあ、運動場の方に向かおう。そっちにテンシが飛んでいくのが見えたしさ」
「承知した」
旋の言葉を受け、レイはバリアを解除した。
真っ直ぐ運動場に向かうつもりだった旋は、F組の窓が視界に入った事で、無意識の内に校舎の方へ歩いていた。そして、地面に落ちている盾のフィギュアを見つけて拾う。それは旋が友人に頼まれ、能力は使わずに、自らの手で作ったものだった。
友人は契約相手から、盾を無数に生み出す能力を与えられている。その盾のデザインをそのままフィギュアにして、旋は友人にプレゼントしたのだ。
盾のフィギュアを受け取った友人は目を輝かせ、「いつでも眺められるように持ち歩くな!」と言っていた。その時、見せてくれた友人の笑顔を思い出し、旋は思わず涙を流す。
「旋……」
「ごめん、大丈夫……。行こう、テンシを倒しに」
旋は乱暴に目元を拭うと、無理に笑ってレイを見る。彼のその表情に、レイは胸を締めつけられながらも、静かに
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