第8話 強くて優しいマオウ
レイは扉を開くと、城の外へ一歩踏み出し、
彼らが空の下に姿を現した瞬間、四方八方からテンシの棘やハサミが迫ってきて、旋は息をのむ。一方、レイは微動だにせず、視線の先に見えたテンシに冷たい眼差しを向ける。
旋とレイの周りにはいつの間にかドーム状のバリアが張られており、棘やハサミがそれにぶち当たると粉々に砕けた。建物の上などから攻撃してきたテンシ達は、体の一部を負傷し、口々に叫び声を上げる。
「ありがとう、レイ」
「礼には及ばぬ」
「それにしても、完全に囲まれてるな……。レイはこれに気づいてたのか?」
旋は自分達を覆っている透明なバリアに触れた後、ぐるりと周囲を見渡す。彼の問いかけに、レイは眉間にシワを寄せ、いつも以上に低い声で「気配はしていた」と答える。
「大方、不意打ちか、数の暴力で我らを仕留める気でいるのだろう。姑息な恐怖のテンシが考えそうな事だ」
「マジか……だとしたら割とピンチなんじゃ……。と言うか、こんだけの数のテンシ、どこから湧いてきたんだ?」
ゲームスタート直前に広場で見た数より、今ここにいるテンシの方が多い事に気がついた旋は首を傾げる。
「途中で増援を呼ぶのも
「なるほどな……まぁなんにしても、やるしかないか」
旋はそう言いながら少し移動し、レイと背中合わせの状態になると、武器を構えた。
「何をしている?」
「なにって……戦わないとだろ?」
「これだけのテンシを相手に、貴様が戦うのは無理だ。我一人で戦う。旋はこの中で待っていろ」
「いや、それだと共に戦うって契約に違反してるだろ?」
旋は大剣を上下に振り、戦う姿勢を見せる。彼の言葉に、「む……」と
「少し待て。せめて数を減らす」
レイはそれだけ言うと目を閉じ、周囲にさまざまな武器を出現させた。それらの武器はレイが目を開くと同時に、テンシ達へ次々、襲いかかる。テンシ達は回復が追いつかないまま、体を斬りつけられ続け、阿鼻叫喚の嵐だ。
「減らすって……これだと全滅してるんじゃ……」
周囲に飛び散っている肉片を目にした旋は、あまりの惨状にテンシとは言え、一瞬だけ同情してしまう。
旋の言葉を受け、レイは空を見上げると、「いや、まだいる」と真顔で答えた。高く飛び上がった事で、難を逃れた二体のテンシはなぜか、「キョフキョフ」と笑っている。
「仲間がやられたってのに笑ってる……?」
「恐怖のテンシに仲間意識などないのだろう」
レイは怒っているのか、ムスッとした表情で自分達を覆っているドーム状のバリアを叩いた。その瞬間、バリアは四枚の板状に変形し、テンシの翼に狙いを定めて飛んでいく。
猛スピードで近づいてくる透明の板を目にした二体のテンシは、笑いを引っ込めて逃げ回る。それから少しして、旋とレイの元へそれぞれ一体ずつ、突っ込んできた。
旋は慌てる事なく冷静に、飛んできたテンシを大剣で一刀両断する。レイは刀を十字に振り、テンシを四分割にした。それと同時に、透明な板が二体のテンシの翼を半分以上、削ぎ落とす。
最後の足掻きとばかりに、一体のテンシがハサミでレイを狙う。がしかし、直前でターゲットを旋に変えた。
旋は何とかハサミを大剣で受け止めるが、よろけて後ろに倒れそうになる。そんな旋をレイは片手で受け止め、テンシのハサミを斬り落とす。そこから追い打ちをかけるように、回復中のテンシに向かって刀を投げ、胴体に深く突き刺した。トドメに、旋の大剣を借りるとそれを片手で振り、竜巻を作り出す。その竜巻にテンシ達は吸い込まれ、残りの羽ごと
竜巻が消えると、レイの刀とテンシの種が二つ、地面に落ちる音が響いた。
「強すぎる……」
「恐怖のテンシが弱過ぎるだけだ。奴らのボス自体も、そこまで強くはないが……他の種類のテンシだと、一筋縄ではいかない。テンシの頂点に君臨する“シテンシ”と戦う事になれば……いや、この話は
「うん、大丈夫」
レイは身を屈め、旋をじっと見つめる。表情は相変わらずクールだが、柔らかい声音から本気で心配してくれているのだと分かり、旋はニカッと笑って答えた。
「良かった……」
「レイが守ってくれたからな。それにテンシもほとんどレイが倒してくれたし。プレイヤーのジブンがもっとしっかり戦わないといけないのに、何もできなくてごめん……」
結局、大した活躍も出来ないまま戦いが終わってしまった事を反省し、旋はシュンとする。そんな彼の姿を見て、レイは静かに首を振る。
「謝る事はない。向かってくるテンシを冷静に仕留め、最後は旋が作った大剣の能力で止めを刺した。初戦でこれだけ出来れば十分だ。それに旋は、我をも
とても真剣な顔でレイに励まされ、旋はこそばゆくなり、ヘラリと笑う――。
「不器用で、極端なとこもあるケド、強くて優しいマオウだよ★」
──それと同時に、
レイは地面に散らばっているテンシの種を、自作の磁石型アイテムで引き寄せると、一つだけ旋に持たせた。
あれだけ派手にテンシを倒したにもかかわらず、種だけは傷一つ付いていない。その事に旋は内心、驚きながら種を指でつつく。
「後は必要ないゆえ、止めを刺す」
レイはそう言うと、容赦なく手で種を握り潰した。
ゲームの残り時間、旋とレイはリツ達と手分けして、テンシと戦いながら、他の参加者を
そして、時計の針が一時を指した瞬間、あの妙に不気味な音の鐘が鳴り、ゲーム終了のアナウンスが流れた。
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