第17話 幸運の女神様
「そうじゃ、お二人さん。時間があれば、これから大聖堂に立ち寄ってみんか?」
ジェイソンさんにリゲルの身柄を預けたあと。一息ついた俺とマリィにハピーさんがそんな提案をしてきた。
「大聖堂にですか?」
「うむ、豊穣祭が始まってからでは人で溢れてしまうからの。この時間なら人も少ないはずじゃ」
たしかに折角ここまで来たんだもんな。ハピーさんに案内してもらうのも良いかもしれない。
「わぁ……すごい綺麗!」
大聖堂の内部に入った瞬間、マリィが感嘆の声を漏らした。
釣られて俺も思わず息を呑む。高い天井からは色とりどりのガラス細工が施されたシャンデリアがいくつもぶら下がり、壁には神話をモチーフにした絵画が飾られている。
床は大理石のような素材で覆われており、歩く度にコツコツという音が鳴り響くほど丁寧に磨き上げられていた。
そして何より目を引くのは、中央奥に鎮座する巨大な女神像だ。それは慈愛に満ちた表情を浮かべ、こちらを見下ろしているように見えた。どうやらこの石像が信仰の対象となっているらしい。
「へぇ~、なんだか優しそうな方だね」
「たしかに。いかにも神様って感じがするな」
神秘的な光景に見惚れた俺たちは、女神像に祈りを捧げたあともしばらく無言で女神を見つめていた。
と、不意にあることに気が付いた。
「(そういえば神域に呼ばれたときは神様の姿って見えなかったけど……この像ってもしかしてルミナ様だったりするんですか?)」
俺が尋ねると、脳内のルミナ様の声が答える。
《いえ、場所によって担当があるのですが、私は月と光の女神なので違います。ここはたしか――あっ、ちょっと!?》
ん? なんだ?
「フェン、急にどうしたの?」
「あ、いや。ルミナ様の声が途絶え――」
《やぁ、こんにちは!》
突如、背後から声がして振り返る。
「誰……??」
そこにはクセのある茶髪とクリクリとした緑眼の美少女が立っていた。
年齢は十代半ばくらいだろうか。白いブラウスの上に茶色のベストを羽織り、チェック柄のロングスカートを身につけている。
手にはバスケットを持ち、その上には布に包まれた卵のようなものが置かれていた。
「ちょ、ちょっと!? ここどこなの!?」
「あれ? ハピーさんも居なくなってる……」
いきなり現れた彼女の姿はともかく、辺りの景色まで変わっていることに驚きを覚える。
先ほどまでいた大聖堂の中ではなく、森の中にいたからだ。まるで魔法で幻覚でも見せられているような気分だった。
《はじめまして、我らの子よ~。ボクの名前は“幸運の女神”ラキィ! 一応、パルティアの守護神をやってるよー♪》
「守護神!?」
俺の疑問を感じ取ったのか、少女は笑顔でそう名乗った。その口調や態度から察するに、彼女は見た目通りの少女ではないようだ。ってことはもしかしてココは神域なのか?
でもどうして急に連れてこられたんだろう……。
そんなことを考えていると、ラキィ様がこちらをじっと見つめてきた。そして首をかしげる。
《あれれっ? なんで人形ちゃんまで一緒にいるのかなぁ? ボク、フェン君を呼んだつもりだったんだけど……》
「えっ?」
《んんー、彼の魂に引っ張られたのかな? ま、いっか》
その言葉に今度はこちらが首を傾げる番だった。
“人形ちゃん”とはマリィのことか……? するとマリィが俺の袖を引っ張る。
「ねぇフェン……」
「大丈夫だよ。きっと危ない人ではないと思う。……たぶん」
戸惑いながら答える俺をよそに、目の前の少女(?)はさらに続ける。
《ねぇ、聞いてよフェン君! ルミナちゃんったらずるいんだよ!》
「え? ルミナ様が?」
《そう! こないだの女神会で面白そうな子がいるとは聞いていたけど、まさかその子の旅に同行してるなんてさ。ボクはずっとここから出られないっていうのに~》
ラキィ様は腰に手を当て、不満を口にするとぷぅと可愛らしく頬を膨らませた。どうやらルミナ様とはお知り合い、というか親しい仲のようだ。
「あの、貴女は本当に神様なんですか……?」
おそるおそる、と前に出たマリィがそう
《うん、そうだよー♪》
その瞬間、緊張していたマリィの表情がぱぁっと明るくなった。
「わぁ!! 私、本物の神様に会ったの初めてです! あ、握手してください!」
おいおい、そんな軽い感じで神様に話しかけて大丈夫のか?
俺が初めて神様と対面したときなんて慌てっぱなしだったのに。まぁある意味ではマリィらしいというか、なんというか……すごい。
《あはは、喜んでもらえてボクも嬉しいよ~♪》
そう言って、満面の笑みを見せるラキィさん。
「ところで、その卵は何ですか?」
俺は気になっていたことを質問した。
《ああ、これ? これはね、スキルの卵だよ》
「スキルの卵?」
《そ、この子が無事に産まれるまでボクが面倒を見てるんだ~。だから気分転換に森を散歩するときも、こうやってカゴに入れて一緒にいるんだよ!》
なるほど、食べる用ではなかったのか。
それにしてもこの卵ってなんの卵なんだろう……。
「ちなみに中身はどんなスキルなんですか?」
《それはボクにも分からないよ。孵化してからのお楽しみ~♪》
マリィの質問に悪戯っぽい笑みを浮かべると、彼女はバスケットの中から布に包まれたものを取り出し、俺たちに見せてきた。
そこには色とりどりの石のようなものが並んでいた。大きさはバラバラだが、どれも綺麗な輝きを放っている。
「綺麗……」
「あぁ。まるで宝石みたいだ」
思わず見惚れていると、隣にいたマリィも同じように目を輝かせていた。
《しょうがないなぁ~。それじゃあ君たちに、もうすぐ孵化しそうなのを一個ずつあげる!》
「いいんですか!?」
「やったー! ありがとうございます!」
ラキィ様はその俺とマリィの手に一つずつ乗せた。ひんやりとした感触が伝わってくると同時に、それは手のひらの上で雪のように融けてしまった。
《その代わり、大事に使ってよね~!》
思わぬプレゼントに喜ぶ俺たちを見て、ラキィ様も満足そうに笑った。
俺たちはお礼を言うと、さっそく貰ったばかりのスキルを確認することにした。そして出てきた結果は以下の通りだ。
============
【レア度:SSS 】
============
……なんか凄そうな名前なんですけど!?
いやたしかに俺としては大歓迎なんだけど……いいのかな、こんなに簡単に貴重そうなものを貰ってしまって。
それにこの固有スキルか……他のスキルとは何が違うんだろう。どんな効果なのか解説を――。
「あれ? そういえばルミナ様の反応が無いな」
試しにルミナ様に呼びかけてみたが、反応は無かった。
そういえばここへくる直前に声が途切れたんだったっけ。いや、まさかラキィ様が何かしたのか!?
まるで昔からの友人のようにマリィと友達のように談笑しているラキィ様をジッと見つめると、その視線に気づいた彼女はエヘッと舌を出した。やっぱりか!!
《さぁ~って。フェン君達をひと目見るっていうボクの用事は済んだことだし、そろそろ帰ろっかな!》
「ちょっ!? 待ってください、俺たちをここに呼んだのはそれだけだったんですか!?」
あまりにもあっさりと帰ろうとする彼女に俺は慌てて引き留めた。すると、きょとんとした顔でこちらを見つめられる。
《え? そうだけど?》
「でもほらっ、もっとこう何かあるんじゃ……」
《うーん。なにかあったような気もしたけど、忘れちゃったからいいや! あっ、それとボクのことはルミナちゃんに内緒にしておいてね♪》
そう言うと、ラキィ様はウインクをした。そしてそのまま手をひらひらと振って立ち去ろうとする。
いやいやいや? どこまで自由でお茶目なんだよこの人!?
あのマリィですら苦笑いをしているじゃないか。
「なんだか思っていた神様のイメージと違うね」
「俺が最初に出逢った神様はマトモだったんだけど……いろんな神様がいるんだな」
そのまま霧のように姿が消えていく彼女を見送っている途中で、ふとあることが頭をよぎった。
「あ、あの!!」
俺の声にピタッと立ち止まり、ゆっくりと振り向くラキィ様。
「……あの、最後に一つだけいいですか?」
《うん? なになに~?》
こちらを振り返った彼女に向かって、俺は意を決して質問をぶつけた。
「どうして出逢ったばかりの俺たちを、ここまで親切にしてくれたんですか? こんな貴重なプレゼントまで……本当は悪い人間かもしれませんよ?」
そう訊ねるとラキィ様は一瞬だけ驚いた顔をしたあと、彼女は「なんだ、そんなこと?」と笑って答えた。
《ちゃんと見ていたよ。だってボクは、“
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