89話 魔剣の創造主
銀髪赤眼の美幼女は白虎さんと俺たちを何度か見返してから————
時計塔の針の上でまたもやしゃがむ。そして彼女の足元にいる【
ん?
そのまま猫を凝視しているぞ!?
「言った通りがう。よくわからないやつがう」
白虎さんの言いようにも納得ではある。
納得ではあるけれど、このまま彼女を放置してハイサヨウナラとはいかない。
どのような角度で俺や【にじらいぶ】に興味を持っているのか聞いておくべきだ。
まず、先陣を切ったのは
「私は【にじらいぶ】の代表、
「……はじめまして。
【千獄の鍛冶姫】はテンポこそ遅いかもしれないけれど、意外にもまっとうな返事をしてくれた。
「……そちらの方はナナシさん、ですよね?」
「あ、はい」
「お二人とも、こ、こんにちは」
ぺこりとお辞儀する【千獄の鍛冶姫】に俺たちもお辞儀を返す。そしてお辞儀をし終って彼女を見上げると————
バランスを崩して時計塔から真っ逆さまに落ちそうになっていた。
どうやらお辞儀の勢いをあまって、危うく転落しかけてしまったようだ。
「びゃ、白虎! おろ、おろして……!」
「なんだがう。登ったはいいが降りられなくなった口がうか」
「は、はやく!」
「がうがうっと。どうせお前が落ちても傷一つつかないのに、何をそんなに怖がるがうよ」
どうやら【千獄の鍛冶姫】は【
「高所が……怖すぎて動けません、でした……助かりました」
そんな時に俺たちと遭遇したものだから、思考が色々とごちゃ混ぜになったのだとか。
「に……【にじらいぶ】の
「あら、光栄ね。私も……す、魔王ちゃんねるは参考にさせていただいてます。弊社のライバーである【ぎんにゅう】と、ファン層がかぶりそうにゃ気がしたので差別化を図るために、ですが」
彼女こそが、現状の
その登録者数は今や900万人超えで、もうすぐ1000万人に届くのでは? と噂されているトップYouTuberである。
そんな彼女から【にじらいぶ】を楽しく見させてもらっている、なんて言われれば社長の
「失礼だけれど、
「い、いちおう……僕、本人はそういう認識です」
銀髪から突出する双角は、【
どうか慎重に頼むぞ社長。
「左様ですか。お答えいただきありがとうございます……先ほど、そちらの白虎さんに【にじらいぶ】やうちのナナシに興味があるとお聞きしていたので、一応の確認させていただきました」
「あ……はい」
少しだけ悲しそうな顔をする【千獄の鍛冶姫】。
どうやらこちらが警戒していることに対して、多少なりのショックを受けているように見えた。
だからこそ、こちらの緊張を察したからなのか、次は彼女の方から口を開いてくれた。
「ぼくが【にじらいぶ】のみなさんに興味を持った理由は……すごいなって思ったからです」
「すごい、ですか?」
「はい。僕は配信中もろくにしゃべれません……でも、【にじらいぶ】のみなさんは、すごくトーク力があって……すごくすごく尊敬しています」
それから【千獄の鍛冶姫】は紅玉色の瞳を、チラリと俺に向けてくる。
「ナナシさんも……」
何をとは言わないが、なんとなく彼女は俺が裏でしていることを把握しているような気がしてならない。
「だから、これは僕からのほんの気持ちです————【
【千獄の鍛冶姫】が左手を虚空に伸ばすと、突如として空間が激しく歪む。まるで地獄と繋がったかのように、禍々しい漆黒のオーラが周囲を侵食した。
当然、俺と
「あ……えっと……僕が鍛えた魔剣たちを……受け取ってほしくて」
そう言って【千獄の鍛冶姫】は合計七本の武器を、【
「魔剣をくださる、のですか?」
さすがにこれは驚愕する他ない。
しかし無闇に受け取るというのも怖すぎた。
「このような立派な魔剣を無償で……? 誠に嬉しいかぎりにゃのですが、これほどの業物を無償でとにゃりますと、何か裏があるように思えてしまって……失礼ですが、何か見返りなどをお求めに……?」
「特には……ないかな。あっ、でもこの魔剣を使うも使わないも自由です。ただ、【にじらいぶ】のみなさんに合うように……僕が打ちましたので、使ってくれると嬉しいです」
そう言っておずおずと【千獄の鍛冶姫】は、七振りの魔剣や魔槍などを
パッと見ただけで誰専用の武器なのかわかってしまう。
それほどまでに【千獄の鍛冶姫】がよく【にじらいぶ】を見ていて、かなり想いが込められた魔剣だと伺い知れる。
俺は
【魔剣:
竜の炎と同等の美しさ、そして緋色に煌めく二振りの魔剣。
言わずもがな、多刀流で戦うきるるんのための得物だろう。二刀流仕様になっているが、きるるんなら使いこなせるはずだ。
【魔槍:
氷よりも美しい輝きを宿す銀色の魔槍。
これは〈
【魔甲:
優美ながらも武骨な青色の
そらちーの拳を守るために適しており、敵を砕く武器としても最適だ。
【魔剣:
漆黒の短剣は、艶やかな夜空のごとく静かだった。
闇魔法による静寂の先で敵の命を奪う、メンバー内でも割と非力なヤミヤミにはぴったりの得物だろう。
【魔杖:
暗く濃厚な紫色の儀仗は、鮮やかな存在感を放っていた。
振って殴るもよし、儀仗本来の効果を発揮させて歌魔法の
そして最後は【魔剣:無色の
その切っ先は、曇り一つない真っ白な
推したちを守るための、とっさの対応にも素早く移行できるはずだ。
「どうして……私たちにこのような貴重なものを……?」
おそらくだが、どの武器も一つ一億円はくだらないはず。
だが【千獄の鍛冶姫】は軽い口調で答えた。
「なんとなく……期待しているからだと、思います」
何を期待しているのか定かではないけれど、俺たちはとりあえず【千獄の鍛冶姫】の好意を受け取ることにした。
「————それに、面白そうだから」
最後に魔王ちゃんがこぼした一言は虚空へと消えていった。
◇◇◇
あとがき
謎多き魔王ちゃんですが、彼女が主人公の新作もアップしました。
のほほん寄りの物語となっております。
タイトルは
『ロリ魔王に転生したら人生ぜんぶ上手くいく! ~TS魔王ちゃんねるは、今日も元気に人類を虐殺(救済)します~』です。
作者のTwitterにも定期的に魔王ちゃんの漫画をアップしますので、よければ覗いてくださると嬉しいです。
@hoshikuzuponpon
#TS魔王ちゃんねる
◇◇◇
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