71話 銀色の配信
「ほ、本当は
そう言って
「僕ね、図書委員をやってたのには理由があって……放課後の図書室で、読んだ本の内容を落ち着いて妄想できるからです。仕事をしながら楽しめる、だから図書委員をやってたです」
「な、なるほど」
どんな妄想をしていたのかは敢えて聞かないでおこう。
「僕はずっと一人で本ばっかり読んで……だからいつか、本で読んだ世界に行けたらなって思ってたです」
「あ、それはわかる。俺も漫画とかアニメに登場する世界に行けたらなーって夢想することはあった。だからゲームとか好きだったし」
緑豊かに芽吹く草々、そして眼下には無数の【天秤樹】が生えている。
まさに異世界じみた風景を一望できるロケーションだ。
「願うしかなかった僕が……今はこうして、夢見た世界にきてるです」
にこりと小さな笑みを浮かべ、銀色の光彩を放つ瞳で俺を見つめる
「一人で妄想の世界に入り浸って、地味で、隠れて裏アカやるぐらいしかない僕だったのに……
「お、おう。月花が今楽しいなら、あのとき
「だから
そう言ってさらにちょこんと近づいてくる
互いの肩と肩が触れ合い、それから月花の頭が俺の肩にそっともたれかかる。
んんん……ちょっと、ちょっと近すぎませんか?
サラサラの銀髪で鼻孔をっ、くすぐるのやめてくれませんか!?
強すぎる刺激のせいで俺の中の理性が悲鳴を上げている。
「今、この瞬間も、僕が夢見た……妄想してきたワンシーンだって言ったら、
「どう思うって……よ、よくわからない……」
月花の急接近によって声が上ずってしまった。
時々、こういった距離感バグを発揮する月花だが……今日はいつもと雰囲気が違うように感じた。
それが余計に俺を動揺させてしまう。
だが、月花は慌てる俺をじっと見上げながら、さらにずいッと胸元まで押し上げてきた。
「
推しに弱い……。
確かに推しの願いなら、どんな無理難題でも応えたいといった衝動はあるかもしれない。
なぜだ?
答えは簡単だ。
推しの存在が俺の心を満たしてくれるからだ。
「ねえ、
「お、おおおう」
「これで僕と七々白路くんの二人きりで配信できるです、って言ったらどう思うです?」
「えっ……んんん、便利になった……?」
「他に思うことは何です?」
「んんんん……わからない」
答えをにごすと、月花は『んーっ』と唸る。
やばっ、かわいい。
「ナナシロくんとウタちゃん先輩は……心の音で会話できるって、本当です?」
「あぁ……まあ……なるべく使わないようにはしてるけどな」
「羨ましいです。ずるいです」
「どうしてだ?」
「僕だって、
「あっ、いや……
「僕も聞いてみたいです。ダメですか?」
月花はうっすらと
「えっ、いや……ダメじゃないけど、どうやって……?」
「こうやって、です」
その瞬間————
ぴとっと月花の顔が俺の左胸に押し当てられた。
それは柔らかく、ほのかに甘い匂いと共にやってきて————
うわうわうわうわうわああああああああああ……。
ものすっごくいい匂いだし、腕になんかっ、柔らかすぎるボリューミィなのが当たってるし、やばいやばい!
しかも月花はなぜか片耳を押し当ててっ、うわ!
俺の心拍音が爆音で聞こえてる!?
「おっきいです」
月花は頬を染めながら上目遣いでこちらを見てくる。
ちょっと月花さん、そんなに太もも周辺をさすらないでください!?
ちょ、ちょっ、もう少し上にいったら俺のエクスカリバーにたどりつきますよ!?
「おっきいです」
な、ナニが!?
やばやばやばやばああああああ、俺の理性はもはや崩壊寸前ですよ!?
「ぴよっ!」
「きゃっ」
「おわっ!?」
理性が吹き飛ぶかと思われた瞬間、突風が俺たちを包み込んだ。
「ぴぴっ?」
なんとピヨのはばたきにより、なぜか
まさかの翼ばさばさ風おこし!
理性じゃなくて月花が吹き飛んだ!
月花は突然のことに動揺しながらも、空中で何回転もバク宙を決めて綺麗に着地。
続いて俺の頭にピヨがぽふっと着地する。
「ぴっ」
なんだかちょっと得意げなぴよ。
というか俺を救ってあげた感をだしている。
まあ、ある意味救われたのかもしれない。
欲望のままに月花とどうにかなっていたら……。
一体、どうなってしまったのだろうか。
月花のたわわに実った双丘を、本能のままに揉みしだく代償。
それは果たして————
「ちょっと、
「あっ、やっ、ごめん!」
「興奮しちゃうです。
「えっ、まじで?」
第二ラウンドスタートおおおおおおおお!
しかし、心の邪念をピヨが察知したのか、次は俺が吹き飛ばされるターンだった。
◇
『にゅにゅーっと登場☆ ぎんにゅうです!』
グラビア魔法少女VTuberの『ぎんにゅう』。
彼女が突如、
常日頃から彼女のワガママボディにお世話になっているリスナーたちは、ちょっとした好奇心からその配信を覗く。
すると————
:ぎにゅー隊、登場!
:ん? ここはどこだ?
:なんかでかい卵があるな?
:牧草地かここ?
:牧場に素朴で可愛い巨乳娘……イイッ!
農家の娘風、純朴なオーバーオール姿のぎんにゅうが佇んでいた。
相変わらずご立派すぎるぷるるんが、オーバーオールの胸下に圧迫され、余計に魅惑のたわわを強調する結果となってしまっている。
『今日はドラゴン牧場を作るための配信です!』
:ど、ドラゴン?
:ついに牧場経営を始めたぎんにゅうw
:なんか
:りちぎに卵を囲むように藁を敷き詰めて……あれでええんか?
:へっぴり腰で、必死に意味のないところを
:一生懸命なのは伝わった
:へえ、イイ感じの厩舎じゃん
:竜舎か?
:あー俺もぎんにゅうとスローライフしてえ
:はっ! もしやこれは、ぎんにゅうなりに考えた新しい癒しコンテンツ!?
『ぎんにゅう様。日差しが強くなってまいりましたので、水分補給はしっかりお願い致します』
『はーい! わっ、冷たい牛乳! ありがとです、執事さん!』
ナナシちゃんの計らいにより、ぎんにゅうは腰に手を当てながら、ゴクゴクと元気よく牛乳を飲み干す。
そんな微笑ましい光景にリスナーたちもにっこり。
『すぐには竜の卵たちは孵らないです。でも、これからゆっくり観察してゆくです~! みんなも一緒に、もーもーもー!』
なぜかぎんにゅうは人差し指をピンと立て、頭の位置に添えて牛の真似をする。
:かわよ
:ドラゴン牧場……いいな
:幼竜から成長を見守れるのは楽しみ
:ドラゴンの生態が公開されるとか何気に初じゃね?
:さらっと快挙を果たしてゆくww
:やっぱこういうところが【にじらいぶ】だよなwwww
:そういえば、ぎんにゅうがソロで
:今日はナナシちゃんと2人きりなのか
:ヤミヤミの暴露配信の時に『ナナシちゃん目当てで【にじらいぶ】に入った』とか言ってたけど……
:ぎんにゅう、2人きりのチャンスだからって変な気を起こさないよな?
:それはフリか?
:暴走するのか!?
:まあ見てみたい
:ほんとそれ
:ナナシちゃんとくんずほぐれつ……イイッ!
:なんか事件起きないかな
『んん……あっついです』
リスナーたちの期待が高まる中、ぎんにゅうはおもむろにオーバーオールのサスペンダー部分を肩から外した。そしてさらに下に来ていたTシャツを脱ぎ始めた。
するともちろん————
たわわに実った双丘がお披露目されてしまう。
もちろん大事な部分はビキニに隠されているが……ん、ビキニ!? と、リスナー全員が釘付けになる。
白と黒の模様が入ったホルスタイン柄、巨乳
牛ビキニからこぼれおちそうなぷるりんが、暴力的なまでのエロさを醸し出す。
『もーもー?』
そんな恰好で小首を傾げられてしまえば、全男性が前かがみになること間違いなし。
:おいおいおいおいぎんにゅう、やってやがるwwww
:これは完全にあからさまな確信犯だろw
:いや、これは計画犯だなwww
:ナナシちゃん相手にその誘惑の仕方はwwwww
:いやっ、俺たちはおったつよ!?
:い、いけんのか!?
:おいおいおい、ナナシちゃんにしては画角がブレてるぞw
:動揺してるのか?
:いや、まじでポロリする可能性もあるのを考慮して、すぐにぎんにゅうが見切れるように備えているのかもしれない
:確かにナナシちゃんはプロフェッショナルだからな
:それでも俺たちにぎんにゅうのエロ可愛らしい姿を堪能してもらうため、ギリギリを攻めるナナシちゃん
:グッジョブナナシちゃん そして最高のおかずをありがとうぎんにゅう
:ああ、俺は今、ぎんにゅう牛ビキニとゆったりドラゴン牧場してる~
:字ズラだけみるとマジで意味わからんけど俺たちにはわかる。最高だよな
:あーまじで脳破壊されるわ
:何もかもが開放的だぜ~
:ぎんにゅう見てるとマジで何もかもどうでも良くなるからいいよなあ
:ほんと平和な気持ちになる
『もーもー? 執事さんにも牧場を手伝ってほしいもー?』
『ぐ、具体的には何をすれば……よろしいでしょうか?』
『もーもー? お乳しぼり、です?』
『ひえっ』
こうしてぎんにゅうが突如、画面に急接近したところで配信は途切れてしまう。
そしてつぶやいったーには
#ぎんにゅうとドラゴン牧場
#ぎんにゅう牛ビキニ
#ナナシちゃん貞操の危機
見事トレンド入りを果たし、1位から3位に君臨してしまった。
◇◇◇◇
あとがき
ぎんにゅうの新しいイラストを公開しました。
近況ノートにアップしてあります。
作者のTwitterには、ロゴ入り高画質版をアップしてあります。
@hoshikuzuponpon
よかったら覗いてみてください!
◇◇◇◇
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