39話 百合ライブ~推したちに襲われる~


 拝啓。

 母さんへ。

 俺は翼の生えた美少女になりました。

 髪の毛はおしゃれな純白ロングのようです。


 七時間。七時間だけの辛抱です。


 はい、自分でも何を言っているのか理解できておりません。

 なにせ先ほどまで股の間にあった確固たる象徴は消え失せ、やけにスースーしております。

 そして失った物もあれば得る物もありました。


 ははっ、これが代償?

 等価交換ってやつですかね?


 今や俺の胸部には丸みの帯びた魅力的な丘が二つ存在しております。

 それは誠に立派で、きるるんやそらちーもそれはそれは大層なものをお持ちですが、俺のはそれ以上、ぎんにゅう未満といったロマンが詰まっております。


 はいっ。

 どうしてそんな事がわかるのかと言いますと……。


「あちゃー困ったね。あたしのより少し大きいよ。これじゃブラ貸せないか。汚れても大丈夫なように着替えは持ってきてたんだけどなあ……」

「僕のだと少しゆるいです。んー、きるる姉さまの方はどうです?」

「私もそらちーと同じでFカップなのよ。だから……ナナシちゃんの癖に生意気ね? お仕置きされたいのかしら?」


「ひぐぅっ!?」


 ここは天国か地獄か。

 いや、多分、天国なのだろう。


 なぜなら目の前で、推したちが上半身だけといえ下着姿で俺を囲んでいるのだから。

 だが、きるるんよ。

 

 やめっ。

 くっ。

 つまむなっ。

 コリコリするなっ。


 なんだっ、この……身体全身に電撃が走るようなっ、か、快感!?



「た、たのむ、やめて、くれ……た、たのむ」


 人目のない部屋に押し込まれ、推したちの体温が感じられるほどに近い。

 近すぎる。


貴女あなたがブラなんてつけなくていいって不遜な態度を取るからよ? どう、これでわかったでしょう? こすれちゃうと痛いんだから。あら? あらあら? 女の子になっちゃう変態さんにはご褒美だったかしら?」


「声だけどうにかできればってお話だったのに、執事さんはさすがです」


「まあ、都合よく声だけっていうのもね。むしろ七時間だけでも女体化できるとか、あたしはすごいと思うなー」


 はいっ。

 そんなわけで例のヤミヤミ対策で、仕方なく、本当に仕方なく俺は『天使の涙』を使用してみたのだ。

 ヤミヤミとのコラボ目前になっても、【にじらいぶ】ではナナシちゃん声対策は一向に良い案が出なかったから……苦渋の選択で女体化するはめに……。


 するとどうだろう。

 推したちははしゃぎにはしゃぎまくっています。


「しっかし、執事くんの白髪は指がすーっと入ってサラサラだね? ちょっと羨ましいでやんすなあ」


「ぼくは綺麗な羽根が素敵だと思うです。あっ、ピクピクしてます。えっ、くすぐったいです? えーもうちょっといじるです!」


「ナナシちゃん。男の時も思っていたのだけれど、貴女、お肌が余計に透き通っているわよ? 一体どんな乳液を使っているのかしら? ここをつねれば白状するのかしら? それとも、ここをなでればいいのかしら? もしくはここをさすってあげればいいのかしら?」


「うっ……あっ……あ、あの……やめっ……うぅぅ……」


「うーん? 執事くんかわいすぎな」


「お羽根もふわふわで気持ちいいです」


「もう一生、女の子のままでいましょう?」


 推したちの眼が据わっている。

 やけに息が荒い気がする。


 俺は目が回りそうなになるけど、どうにか退避しようとする。しかし彼女たちの腕や足、やわい身体がまとまわりついてくる。

 くぅぅぅぅぅぅぅぅっ。

 俺が女体化さえしてなければ、色々失った状態でなければあああっ喜べたのにいいいい。


「ひっ、ぐっ」


 俺は推したちが満足するまで遊ばれた。

 女の子って怖い。






「え、ちょっと、あんたたち……何やっとう……ちょっと聞いとる!? ガチの百合だったっちゃ!?」


 俺が推したちにもみくちゃにされ、ピクピクとほうけた頃になって聞き慣れない声がこだまする。

 どうにかそちらへ視線を向けると、黒髪にブルーのメッシュを入れたロングツインテール美少女が立っていた。年のころは俺たちよりやや下、中学二年生あたりだろうか。

 そんな彼女が若干引き気味で俺たちを凝視している。


「あっ、よる。やっほー」

「ヤミたんですか……? VTuberの皮とすっごく似てます!」

「ヤミヤミね。ここまで生身の姿で来たことは評価してあげるわ」


「いやいやいや、あんたらねえ……もう『突撃! 記録魔法で【にじらいぶ】の闇を暴け』って、うちじゃすでに配信始めとるけん! どうしてくれるん?」


 えっ。

 ツインテールさんは爆弾発言をかます。

闇々ヤミヤミよる】は自分の両目を指さして配信中だと、そうおっしゃるのですか。


「そんな、くんずほぐれつな恰好で……ギリギリ服を着てるからよかったもんの、うちのチャンネルBANされたらどうするつもりだったん!」


「勝手に配信を始めるヤミヤミが悪いわね?」


「あーもー……【にじらいぶ】はガチ百合なのかとか、ナナシちゃんの超乳は普段どうやって執事服の中に隠していたのかとか、こっちのリスナーが大興奮ばい!」


「あら、さっそく暴露できてよかったじゃない? ご満足かしら?」


 そんなヤミヤミときるるんのやり取りを聞き、ハッとする。

 俺はすぐさまつぶやいったーをチェックした。

 すると1位から5位はこのようなトレンドになっていた。


#ヤミヤミにじらいぶ暴露

#にじらいぶの性事情

#百合ライブ

#隠れ巨乳のナナシちゃん

#ナナシちゃん実は天使だった



「あは、あはははは……」


 笑うしかなかった。

 ものすごく盛り上がっていた。

 しかもなぜかみんな好意的だった。


 俺はこの時、真理を悟る。

 きっとエロは世界を救うのだと。


 でも、それを知るには……大いなる代償を払ったのだ。



「とにかく、そこのほうけちゃってる執事ちゃんをどうにかしてあげたらどげんかしちゃったら?」


 ヤミヤミは評判とは真逆で、ひどく同情的な声音で俺をかばってくれた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る