22話 推しとオーロラキャンプ飯
『君の手首もきるるんるーん☆ 手首きるるだよー♪』
『にゅにゅーっと登場☆ ぎんにゅうですっ』
本日は【ぎんにゅう】チャンネルにとって初配信である。
前回は【手首きるる】チャンネルで魔法少女VTuberとしてデビューを果たしたが、ぎんにゅう自身のチャンネルが開設されてから配信はされていなかった。
ショート動画で『九尾を(お胸に)乗せてみた』とか『ダンジョンを全力で走ってみた』だとか微妙に際どいものしか上がっていない。まあ、男性諸君の本能によって再生数は全て100万再生超えである。
何はともあれ今回の初配信は事前に【手首きるる】とコラボすると告知し、なおかつ前回の女神解放から【夢の雪国ドリームスノウ】がどうなったのか、といったリスナーの好奇心を刺激する内容となっている。
これにはきる民やぎにゅー隊だけでなく、
特に冒険者界隈も注目していた。
『農園をすることになったわ!』
『フェンちゃんと共同運営です!』
:予想の斜め上すぎて草
:こんな寒そうなところで植物が育つのか?
:2人とも新衣装おめでとう!(1万円)
:白いもこもこのコート? から見えるおみ足がああああ
:コートの上からでもわかるスタイルの良さよ
:ふさふさのロシア帽もかわえええええ
:コサック帽が似合い過ぎてる件
:もこもこスカートもええな
:控えめに言って最高(3000円)
:防寒力をかなぐり捨てて可愛さを取る、だがそこがイイッ!
『あ、あの、この衣装はっ、僕のデビューお祝いって、ナナシさんが裁縫してくれました!』
『うちの執事は万能なのよ。【雪羊】の毛を使って、なんとかって
『きるる様。【神を
『わかってるわよ。そういうのは秘密にした方がいいのよ』
『失礼しました。しかしこの配信を見てくださっているリスナーのみなさまにはお伝えしたく』
『ま、まあいいわ! みんなわかったわね!? ここだけの秘密よ!?』
:秒で拡散しておく
:きるるんが
:グッジョブナナシちゃんww
:神を彩る裁縫士って……まあきるるんもぎんにゅうも女神には違いない
:それな
:それよりさっきからナナシちゃんの画角がちょこちょこ下向くよな
:鍋?
:なんか煮込んでね?
:おいおいおい……また飯テロの予感……
:ぎんにゅうの初配信もマイペースにこなしてゆくナナシちゃんwwww
『そんなわけで、今日はぎんちゃんデビューを祝して! オーロラキャンプ配信するわよ! ほら、ナナシちゃん! あっち向いて!』
きるるんに促されると視界はぐるりと回転し、純白の雪原に切り替わる。
そこにはキャンプ道具がずらりと並び、雄大な景色を背景にテントまで張ってある。
そして何より目を引くのは————
『り、リスナーのみんなにもっ! えっ? あっ、ファンネームで言う? あっ、ぎにゅー隊のみんなにも、綺麗な景色を見てもらいたくて、その、僕たちはここでキャンプします!』
『よく説明できたわね、ぎんちゃん! そうっ! 幻想的なオーロラの下、みんなと一緒にお喋りを楽しむわ!』
:俺もいきてえ
:圧巻のオーロラ日和やん
:生で見たらやばそう
:いや、オーロラも綺麗だけどさ
:そこに横たわってるめっちゃでっかい鳥が気になるのは俺だけか?
:なんか死んでるよな?
:10メートル、いや翼を広げたら15メートルはあるんじゃないか?
:おいおいおい! あれって【
:鳥類で最大級のモンスターか!
:翼竜ケツァルコアトルよりも巨大って噂の!?
:【絶剣】さんの動画で説明されてたけど、遭遇したら上位冒険者のパーティーですら全滅必至らしい
:A級モンスターだよな……
キャンプ場の近くには仕留められたばかりの大怪鳥がこと切れていたので、リスナーたちに動揺が走る。
なぜそんな死体があるのか、その答えは簡単だった。
『きゅー?』
『グルルルルルゥゥゥゥ……』
二頭の巨大な神獣、もはや災厄級と指定された九尾とフェンリルの存在が全てを物語っている。つまりは二頭が獲物として捕らえたもの、それが【
『で、ナナシちゃん。本日のメニューは?』
『はい、シチューです。しばしお待ちを』
きるるんの問いかけに応じつつ、料理をそそくさとこなすナナシちゃん。
配信画面は自然とナナシちゃんが調理する手元になってしまうので、きるるんとぎんにゅうが映らなくなってしまう。しかし不満を漏らすリスナーは驚くほど少なかった。
なぜなら、きるるんが上手く料理についての話題をどんどん振っていたから————ではなく、それ以前に美味そうだったからだ。
『それは何を煮込んでいるのかしら?』
『きゅーとフェンさんが狩ってくれた【鳳凰コケッコアトル】の胸肉です。鶏がらの元をしっかり
黄金色に
『そ、そっちの白い鍋の方は何ですか?』
『こちらは、雪じゃがと雪にんじん、雪ッコリーと雪玉ねぎ、それに【雪羊の乳】を煮込んでいます。それに胡椒と白ワインを少々』
ほくほくのじゃがいも、ごろっとしたにんじんとカリフラワー、そして薄く切られた玉ねぎ。それら全てがとろけるクリームの中で踊っている。
:おい、あの鶏肉ぷりぷりすぎんか?
:むしゃぶりつきたい
:食材は鶏肉以外は真っ白だな……?
:この具材はあれか、うん、あれしかないな
:クリームシチュゥゥゥゥゥウウ!?
:あったまりそうだな
:
:……美味そうでしかない
一体、どんな食べ物になってゆくのか?
どんな味がするのか。
リスナーたちの期待と興奮、そして食欲を駆り立てる。
『はい、ここで鶏がらスープを2割ほど混ぜます』
:混ぜたああああああああああああああ
:まろやかな白いシチューの中に黄金の隠し味が融合されてゆくううううう
:しかもここで鶏肉の投入うううううう
:羊乳に鶏肉本来の旨味を消させないいいいいい
『【雪溶けほろほろクリームシチュー】でございます』
『ゴクリ……』
『お、美味しそうです』
2人の美少女がクリームシチューに釘付けである。
無論、リスナーたちもだ。
それから美少女2人は、とろーりクリーミィなシチューをはぐはぐと食べ始める。
まずはゴロッとした雪野菜から。
『んぐっ……乳の甘味と野菜が……もぐっ、よく
『……こりこりの食感、雪ッコリーはあったか美味しいわ』
『雪じゃがっも、あつあつでっ、あっ身が崩れてっ、あっ、バター? ひ
『……歯ごたえのあるしっとりした食感が絶妙ね。まさか天然のじゃがばたが仕込まれてるなんて驚きよ。バターもクリームシチューと相性抜群だわ』
『んーんー、はぐっ、うん、んっんっ、ほふぅ……』
『……酸味と甘みが各雪野菜にマッチしてるわね。これが雪玉ねぎの魅力ってやつかしら?』
『んっ……! もきゅっ、もきゅ、もきゅ、もきゅ……はふぅ……』
『鶏肉のコク深い味わい、ぷるっとした食感から、ほろほろとやわらかい口どけ……これが極上の鶏肉ってやつなのね……』
:え、もうやめてもらっていいですか?
:これ何の拷問?
:俺も食べた過ぎるウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!?
:頼む先っちょだけでいいんだ
:ほんと先っちょだけだから
:一口だけなwwww
:しかし美少女2人による飯テロとは……控えめに言って最高では!?
:ずっと見ちゃうよなあ
:ぎんにゅうが微妙にエロい吐息連発でエロい
:きるるん上品に食べてるけど、シチューを口に運ぶ手が異様に早いのすこ
:俺、美味しそうに飯食ってくれる女子が好きなんだ
:わかる
『暖かい物のお後は、お口直しのアイスにございます』
『どんなアイスなのかしら?』
『はい。こちらの【雪見もちもち】と申します』
そう言って、ナナシちゃんが出したのはぷっくりとした雪のようなアイスだった。
ナナシちゃんの声音は自信に満ち溢れている。
そんな様子が余計に、メインデッシュを終えたのにも拘わらずリスナーたちの食欲を刺激してしまう。
『このままシンプルにいただくのもよし、このように熱めの
エスプレッソをかけられた【雪見もちもち】は、当然溶け始める。
そのまま混じり合い、
だが一体、どんな風味がするのか。
どんな味なのか。
リスナーが抱く幻想と想像は計り知れない。
『んーっ! んっ、んっ、んんー……はにゃぁ……です』
『溶け、
どうやら、病みつきになるお味だったようで。
『くきゅっ、きゅきゅきゅー?』
『ガウッガルルルルゥゥゥウ?』
『あーわかってるよ。きゅーとフェンさんの分ももちろんあるよ』
この後、九尾とフェンリルが尻尾をふりふりしながら【雪見もちもち】にがっつく様子がなんとも微笑ましい配信となった。
◇
—————————————
【雪溶けほろほろクリームシチュー】★★☆
基本効果……即座に
★……永久にステータス
★★……30分間、全属性耐性(小)を得る
★★★……永久にステータス
【必要な調理力:150以上】
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