18話 図書館ダンジョン
「うそ……永久にステータス力+1になったわよ!?」
「本当です……ぼくたち、成長しない魔法少女なのに、力がみなぎる、です!」
それから2人は見つめ合い、互いの喜びをかみしめるようにハグし合った。
きるるんは決して得られない成長を獲得したのだと、感慨深げに目を閉じている。
二人の様子から、魔法少女にとって力を得るのはとても喜ばしいことなのだと伝わってくる。
「諦めなければ……限界なんてないのね……」
「限界を決めつけるのは自分、だったのです……」
「……ナナシには感謝しないと、ね」
「……
2人の魂のこもった百合展開はなかなかに美しい。
これで口に食べかすがついていなければ完璧なのだろうけど、そこは御愛嬌だ。
「きゅきゅっ?」
おっと、ハンバーガーの美味そうな匂いに刺激されたのか、ブレザーのポケットに潜んでいたきゅーが顔を出す。
「えっ? きゅーってそんなに小さくなれたのね!?」
「言ってなかったか?」
きゅーはリスぐらいのサイズにもなれる。
「聞いてないわよ!?」
「わあー今日はちっちゃなもふもふさんですね。やっぱり配信で見るより、生きゅーちゃんの方が断然かわいいです」
「くきゅきゅっきゅー?」
なんと、きゅーにしては珍しく銀条さんの方へと自ら飛び込んで行った。
その着地先はぷるるんと盛りあがった銀条さんの……たわわな谷間付近だ。
す、すげえ……きゅーが乗ってるのに、なんて安定感。そして平然とそれを受け入れて、きゅーを愛でている銀条さん。恐ろしい子。
「きゅううきゅーん」
おっと、銀条さんの頬についたハンバーガーの残りをペロペロ舐めておられる。
あーあー、一生懸命にぺろぺろしちゃって。
「きゅっ、きゅっ」
きゅーは今日もかわいいなあ。
そうか、そうか、美味しいか。
あれ?
そういえばきゅーのやつ、前回はあんなに銀条さんを警戒していたのにどういう掌返しだ?
「ちょっ、どうして私は触らせてくれないのに銀条さんはいいの!?」
「きゅうーくきゅきゅっきゅううきゅ?」
なるほど。
前回の時は【九尾の金狐ヴァッセル】になったばかりで気が立っていたと。
しかも今はハンバーガーを待ちきれなかったと。
食べ尽くしたきるるんよりも、わずかに残っている銀条さんに飛びつくのは道理だな。
それに、きるるんに触れてほしくない理由もあって————
「きゅーきゅきゅうううん」
「あー……なんかきるるは血生臭いってさ。銀条さんはミルクの匂いがするってよ」
「そんなあぁぁぁぁあ」
膝から崩れ落ちるきるるん。
メンヘラ堕ちするきるるんも推せるぞ。
「くきゅううー?」
「ん……まて、きゅーがまた何か言ってる……なになに、獲物の匂いがする? ハンバーガーの肉として使ったミノタウロスの匂いじゃない?」
その発言にきるるんと銀条さんに緊張が走る。
無論、俺もだ。
【異世界アップデート】が来てからモンスターやダンジョン、そして異世界に繋がるゲートなどの出現は日常茶飯事となった。
それでもモンスターが街に侵入できないよう、色々な工夫がなされている。
しかし、国内で時々モンスターが出現し、甚大な被害を及ぼすニュースがあるのも事実。そんな時、近場の魔法少女が急行したりする場合もある。
彼女たちは経験者だ。
「近くなのかしら?」
「変身が無駄にならなかったです」
「かなり近いらしい……きゅー、案内してくれるか?」
「きゅきゅっ」
立派に揺れるゼリーの上に乗ったきゅーは快諾。
「んん……図書室の中?」
資料室から出れば、夕日が窓から差し込む図書室が目に入る。
どこか異世界に繋がっていそうな影が本棚に伸び、静寂に包まれた空間は確かに不思議な感じがする。
とはいえ、それはいつも通りの図書室だ。
「窓際近くの棚に何かあるみたいだ……ん、この本から匂いがする?」
「きゅっきゅー!」
俺は慎重にきゅーが指摘する本を手に取ってみる。
そして本を開いた瞬間————
ページが勝手にバラバラとめくられ、その1枚1枚が飛び出す。
無数にページが宙へ舞い、俺を包み込もうとする。
ん……何か一瞬、城のようなものが見えたような————
「ナナシちゃん! 離れて!」
俺をナナシちゃんと呼ぶ当たり、ここからは完全に仕事モードのようだ。
巻き上げられたページは俺が離れると全て本へと集束されてゆく。
「ダンジョン……です……」
「うそ……こんなところに、新ダンジョン……?」
「そう言えば聞いた事があります。七不思議の一つで、図書室から消えた生徒がいるって……」
「私たちが入学する前、事件になってたわよね」
「だからうちの図書室を利用する生徒数は少ないのです……この、本型ダンジョンのせい?」
ごくりと唾を飲み込む銀条さん。
そして対象的にきるるんは興奮しているようだ。
「ピンチはチャンスよ」
「おい……まさか」
「
「つまり……一流の冒険者が後続として助けにくるから、最低限の安全マージンはあると……?」
「そうよ。それにデビューは派手にしないとね、ぎんちゃん?」
「ぎ、ぎんちゃん?」
「そうよ。未発見のダンジョン配信、それだけでも世間の注目を浴びるわ。あなたのデビューをお披露目する最高の舞台じゃない?」
「お、お金になりますか?」
「もちろん! デビュー配信は私のチャンネルで
「は、はい!」
「私は……ぎんちゃんのYouTuboチャンネルを作って……事務所管理と本人管理の合同設定にして……よしよし、あとは私の配信画面の概要欄にぎんちゃんのチャンネルURLを張り付けて……」
相変わらず仕事が速い。
「普段はエロスクショしかアップしない【ぎんにゅう】ちゃんが、まさかの生配信よ? それだけでもフォロワーは沸くのに、コラボ相手は今をときめく【手首きるる】よ? しかも未発見だったダンジョン初見攻略。話題性が抜群すぎる三拍子なのよ」
「そ、そうですか……?」
「そうよ。それより挨拶を考えないとね? ぎんにゅう、ぎんにゅう……下ネタすぎるのは控えてほしいから、ぎんぎんとかは却下ね……『にゅにゅーっと登場、魔法少女VTuberの【ぎんにゅう】です!』とかどうかしら?」
「い、いいかも、です?」
いやいや、かなりださいぞ!?
「うんうん。名前も覚えやすいし挨拶にもからめやすい、イケるわね! 私の担当カラーが赤だから、ぎんちゃんは銀ね!」
うちのお嬢様は相変わらず仕事熱心だった。
というか
さて、雇用主が頑張ってるのだから俺も
特に食材関係が充実にしていなければ、ここは却下するべき案件だ。なにせ、いつ出れるかもわからない場所へと潜るのだから。
俺はアイテムボックス内の食材を確認してゆく。
んー……昨夜から仕込んでおいた煮込み具材もあるし、下ごしらえが必要そうな食材は……あらかたOKか。
ダンジョン配信となれば先ほどのように悠長に調理する時間がないかもしれない。サッと完成させられるラインナップは確保しておくべきだ。
「自分の有能さを呪うべきか? それとも推しに美味いものを食べさせたかった己の欲望を嘆くべきか?」
アイテムボックス内は万事問題なさそうだ。
「なにブツブツ言ってるの? ほら、配信を始めるから、私を————」
それから銀条さんを引き寄せ、可憐な笑顔を咲かせる。
「私たちを見なさい」
「あ、あのっ、僕たちを見てください」
堂々と笑う【手首きるる】と、気恥ずかしげに微笑む【ぎんにゅう】。
俺の視界を通して————
推したちと
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