男 食物連鎖③

「ぎゃ。」「ぶっ。」「ごべっ。」「でゅ。」「ほげ。」「ふぬ。」



 「ふぅ。これで終わりね。」


 うららは、30人以上の強盗団バンディット達を一瞬で無効化した。真のトゥルー友情コムラーズにはその素早い動きについていけなかった。うららは四方八方に高速で移動して、次々と敵が倒れていったのだ。正面にいた敵の数人は春人が風の弾丸で足を撃ち抜いていた。


「嘘だろ。俺達は死を覚悟したんだぞ。」

 

「そんな馬鹿なっ。装備からして、強盗団バンディット達は間違いなく強いのに。」

 

「強いとかじゃ、もう比較にならないのよ。春人さんはともかく、うららさんの動きは、人間技じゃない。」 

 

「信じられない。春人の兄貴。いったいどういう事なんですか? 俺達と同じレザーランクの冒険者なんじゃ?」

 

「うーん。騙しててごめんな。俺達は自分達の実力以上に評価をされてしまい、初心者なのにアイアンランクの冒険者に昇格させられてしまったんだ。だから、パーティー戦もそうなんだけど、すっとばしたレザーランクの冒険者達がどの程度なのか知りたかった。一緒に冒険をするのも楽しいと思ったしね。」


「……実は初心者で過大評価のアイアンランクですって。どこがだよっ兄貴! この実力ならアイアンランクでも足りないよ。ベテランの黄金ゴールドいや、白金プラチナランクと言われても不思議ではない。」


「うんうん。さっきのコユキちゃんの魔法も含めて、春人さんやうららさんも全員が強すぎます。ヴァンサン。俺達、物凄い人達とお知り合いになったんじゃないのか?」 


 春人は真のトゥルー友情コムラーズのメンバー達がいつの間にか敬語になっている事が気持ち悪かった。せっかく仲良くなれたのに、距離を置かれた気分だ。 

  

「なんだかよく分からないけど、敬語はやめてくれよ。それに冒険者のランクを全て知っているわけではないから、ピンと来ないな。」

 

「……兄貴がそういうなら敬語はやめるけど。……通常、人間はペーパーから白金プラチナまでの10段階。その上もあるにはあるが、おそらくは片手で数える程だよ。70%以上の冒険者はレザー以下だけどね。」


 明らかに年上の人に兄貴と呼ばれる事にも抵抗があったが、話が進まないので春人はスルーする。

 

「なるほどねー。では、強盗団バンディットを縛るのを手伝ってくれるかい?」

 

 ヴァンサンは春人から手渡された縄を、真のトゥルー友情コムラーズのメンバーに配っていた。

 

 春人は、強盗団バンディット達を鑑定しリーダーらしき人物の前に移動していた。


「答えろ。お前等はなぜこんな事をしている?」

 

「……生きる為に仕方なくです。」


「自分達さえよければ、他を皆殺しにしてでも生きるって事だな。」


「殺すつもりはなかったんです。ただ、そう言って戦意喪失にして楽に金を奪うつもりでした。俺達は盗賊でも強盗団バンディットでもない。アルペンルートの西側イヒドスラムに住む冒険者です。」 


「は? それを素直に信じると思うか? 冒険者だと言うなら、なぜこんな盗賊まがいの事をしている?」


「今、アルペンルートには浸食地帯から危険な魔物が大量に押し寄せています。その原因は浸食地帯にあったワイバーンの住処から、ワイバーンが消えた事が原因です。それにワイバーンは危険な魔物ですが、浸食地帯の食物連鎖の頂点でもありました。この世界ではランクの高い魔物程、肉が美味いという特性があります。住処を通れなかった大物も含め、今までワイバーンのご馳走だった高ランクの魔物もアルペンルート側にやって来ています。」


「……う。それで?」


「高ランクのモンスターがうろついているので、アルペンルートの冒険者は仕事が出来ないのが現状です。特にイヒドスラムに住む貧民達にとっては、重大な損失です。同じく貧困に苦しんでいる者同士助け合って生きていましたから。稼ぎ頭の俺達の稼ぎが無くなれば、多くのイヒドスラムの貧民が生きて行けません。その中には孤児が多いんです。」


 春人はがっかりした後で、うららにだけ小声で「ワイバーン討伐が原因みたいぞ。」と言う。

 

 「……なるほど。それで装備が整っているから、ヴァンサンに強盗団バンディットと間違われたって事だな。……だが困った。話を聞いていて吐きそうだよ。それで、そのランクの高い魔物肉は食べらるの?」


「もちろん。市場に出回れば高級品です。」


「分かった。それなら魔物退治は、こっちでなんとかするよ。な? うらら。」


「もちろんよ。私達に任せて。はははは。」 


 二人は、魔物達を討伐するつもりだったが、ワイバーンを倒した事を言いたくなかったので、魔物肉が食べられるのかと理由をつけた。

 

「もうこんな事は絶対にしないと誓うなら、お前達も解放する。」

 

「本当ですか? ありがとうございます。」


強盗団バンディット達が春人の言葉を聞いて泣き出している。本当は悪い奴等ではないんだなと思った春人は、怪我をしている者を回復し、リーダーに金貨1枚を渡して解放した。  

  

「これで食べていない者や子供達を優先して飯を食わせてくれ。」

 

「「ありがとうございます。」」

 

 

強盗団バンディット達がいなくなると、春人は真のトゥルー友情コムラーズに相談する。


「ヴァンサン達は、ずっとここら辺の街で冒険者をやるのか?」


「そうだね。俺達はラグエルやアルペンルート周辺で冒険者をやっていくつもりだよ。」


「ヴァンサン。あいつらの問題を解決する必要が出来た。寄り道をしても良いかな? それと今回は俺達がメインで討伐をするけど、強い魔物が来たら継続的に狩ってあげてくれないか?」   

  

「兄貴。寄り道は良いけど、継続的にというのはどういう意味だい? さっきの冒険者集団は、明らかに俺達よりも格上だよ?」


「それは俺に考えがある。飯でも食べながら話さないか?」

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