第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 27

 僕がセントラルドナムの半分。

言わば自分の半身を先輩にさしあげて<パートナー>にした?

シスターー藤原がそんな不穏当なことをお気楽に口にする。

先輩が蕩けるような笑みを浮かべて肯いてる。

それは良いけれどさ。

たちまち他の三人がキャイキャイとハイトーンで大騒ぎだよ?

適当なこと言いやがって。

後始末が大変なこっちの身にもなってみろってんだ。

<お気に入りの姫方>って言う使えそうなワードを使って四方に角を立てず丸く収める。

帰るまでにそんなストーリーをでっち上げなけりゃならないんだぜ。

僕は今すぐ遠くへ旅に出たくなった。

 

 「まあ、まあ、皆さん落ち着いてください。

毛利さんが円君のパートナーという意味は、あくまでドナム的立ち位置の事です。

毛利さんのドナムも中途半端ですが、他のお三方とは違って円君との接触が無くても発動します。

データベースの出す結論としては、毛利さんはやはり円君の“分かたれた半身”。

セントラルドナムの半分を託されたメインパートナーと断言できます。

あくまでもドナム的視点では他のお三方はサブパートナーと考えるべきかと」

アイドル気取りの考え無し老媼(ろうおう)が火に油を注ぎやがった。

先輩が深くうなずいて胸に手を当て目を閉じる。

それは皆んなへのあからさまなマウンティングサインとも受け取れるよ?

先輩も先輩だよ。

勘弁してくれ〜。

 橘さんが今この場で世界を終わらせてやろうかと酷薄な笑みを浮かべる。

三島さんが恥ずかしい秘密をそんなに暴露してほしいのかと唇を歪めて笑う。

秋吉が今からパーソナルを書き換えて差し上げますと涼やかに微笑む。

有り難いことに今の所三人の怒りの矛先はシスターだけに向かっている。

シスター藤原は顔面から汗を垂れ流して再び白くなる。

だが千年生きてきたお局様の意地を見せ今度は何とか踏みとどまった。

 「あ、あくまでも円君と皆さんのドナム的な繋がりの構造を論理的に解説しただけです・・・よ?

愛情の軽重や人間関係の深浅とはまったく関係が無いのですから。

皆さん、どうぞお平らかに・・・。

そんなに年寄を苛めないで下さいまし」

シスター藤原が心にもないババ臭い逃げを打ちやがった。

シスターはめちゃめちゃ強い照明か雨の日の薄暗い室内なら中学生でも通りそうな相貌を歪める。

そうして秋吉よりいっそ幼げな心もとなさを面に浮かべてみせる。

したたかな老婆だよ。

 そういえば以前先輩が僕との関係について。プラトンの饗宴を引き合いに出して怪しげな自論をぶっこいていたことを思いだした。

男女は元々はひとつの存在だったのがある時二つにちょん切られたそうな。

離れ離れになった男と女は失われた片割れを探し求めているとかなんとかかんとか。

“分かたれた半身”と言う言葉が皆の怒りのツボにはまったのは、先輩が振りかざすそんな自説のせいだったろうか。

 「ドナム保持者には、二人でセットにならないと能力を発現できない。

そうした共役パターンが時々見られるのです。

共役のパートナーは必ずしも異性同士とは限りません。

むしろ同性同士のパターンの方が多いくらいです。

わたくしのデータベースには・・・。

そうですね。

一方は他者を不安に陥れ、もう一方は安心を与えると言うドナムを持ったペアが居ました。

それぞれ単独のドナムも力がありましたが、ふたりで同時に力を使うと強力な洗脳が可能でした。

秋吉さんも単独ではドナムを使えない訳ですから。

共役パートナーを円君と考えれば、洗脳と言う意味では似たような効果を持つドナムですね。

同様に橘さんと三島さんのドナムもパートナードナムの特殊パターンと言えるでしょう。

立場と形は違えど。

毛利さん以外の方々も、共役パートナーと言う点では同じですよ?」

平静を装ってはいる。

だが、話題を逸らすことで火消しを図るシスター藤原の声は、終始震えっぱなしだ。

「それで、引っ越しの件は?」

そんなシスター藤原にお構いなく僕は尋ねてみる。

シスターは僕に視線を合わせにっこりと笑おうとしたけれど、上手くいかず目は泳いでいる。

「現今のドナム理解のままでは多分できません。

というよりそうした前例がありませんから研究もされていないのです。

・・・ドナム史上、円君と“マドカズエンジェルズ”のような例は初めてでしょう。

と言うことはこれから何百年も先に、何か経験したことのない事態が起きないとも限りません。

円君の無意識の変化・・・。

引っ越しや部屋の模様替えも、あるいはあるかもしれません。

私と致しましてはです。

こうして千有余年も生きていると色々断ち難い御縁や暖めたい関係。

大切な思い出なども多いことですし。

リセットはちょっと勘弁なのです。

皆さんとご一緒させて戴いて。

それこそ石橋を叩いても容易には渡らない安全運転をしながらですね、

千代に八千代に続く楽しい未来へとドライブしとう存じます。

もちろん橘さんがお辛いリセットをなさらずに済むよう。

円君のドナムの研究にも精進したいと存じております。

ですから皆様。

どうぞ決して短慮に走る事なく。

御力を私共にお貸しくださいまし」

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