第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 24

 確かに。

先輩と三島さんは手を繋いでいるけどいつもみたいに僕には触れていない。

先輩と三島さんの完全同期を久々に見たけれど、僕が間に居なくても同期してる。

と思った刹那。

ふたりはスッと手を離しそれぞれが改めて僕の手を握る。

そんなふたりに安心したのだろうか。

橘さんの面が、いつもの少し幼く感じられる優し気なかんばせに戻る。

そのことで彼女が戦闘モードから通常モードに切り替わったことが分かった。

 

 「やだなぁ~藤原さんも梶原さんも、それに萩原さんまで人をバーサーカーかなんかを見る様な目で。

照れちゃいますよぉ~」

橘さんがバーサーカーなら先輩と三島さんはワルキューレの役回り?

と言うよりはヘカテー<死の女神>とサマエル<死の天使>がコンビを組んだような感じ?

バーサーカーよりきっと怖いよ?

と思ったら僕の両の手が強く握り込まれたよ。

・・・かなり痛い。

「誰一人欠けることなく、私たちがいつまでもみんなで幸せに暮らせるのなら。

そうであるのなら。

千年も万年も私なんて借りてきたネコそのものですよぉ~。

だけどぉ~戦略的に考えたらですよぉ〜。

今この場で後顧の憂いを断っちゃうのもありかなぁ〜。

なんてちょっぴり思っちゃったんですよぉ〜。

藤原さんやついでに萩原さんと梶原さん、なんならこの病院のOFU関係者全員を殲滅しちゃってもですよぉ〜。

私たち的にはアキちゃんの力を借りれば全然心配いらないんですよぉ〜。

プランⅮの2なんですけどねぇ〜」

橘さんに話を振られた秋吉は、その場ですくっと立ち上がる。

スタンディングオベーションを受けたバイオリニスト、秋吉晶子の真骨頂を発揮だな。

秋吉は生き生きとした美しい笑顔で嬉し気な一礼をしてみせる。

一方的な殲滅戦、虐殺を洗脳で揉み消すことに何のためらいも見せない女子中学生って・・・。

それってどうなの?

「アキちゃんも乗り気だし。

ルーさんどうしましょ?」

秋吉の挨拶を眩しげに見ていた橘さんが『今日のランチは何にします?』くらいな軽い口調で先輩に尋ねる。

「今は未だ。

未だその時ではありませんよ?

プランDの1でよろいしいかと」

先輩の澄んだ声音は女神の様に神々しい。

傍の三島さんが穢れなき天使の笑みを浮かべている。

 名字に原の字が付く桜楓会の三人組が、今にも卒倒しそうな表情で固まった。

ある意味、そのまんまで分かり易い橘さんより。

秋吉の屈託のない笑顔や先輩や三島さんの清澄な笑みがいっそう怖かったのだろう。

 “あきれたがーるず”は僕の知らない楽屋裏で様々な状況を想定していたのだ。

想定に対する対策には、過激な攻勢防御も策定されてたってこった。

森要や夏目聡司の事があったからね。

うら若い娘が持っていちゃ絶対におかしい覚悟を、各人既に固めていたようだ。

僕はなんだか申し訳ない様な情けない様な気持ちで胸がいっぱいになり、少し涙ぐんでしまったよ。

 

 青ざめた後、死体の様に白くなりかけていたシスター藤原が気を取り直したかどうかは分からない。

だけどミレニアムなド根性だけは健在だった。

「・・・新規リクルートでこんなに恐ろしい思いをしたのは、大江山の酒呑童子を勧誘に行って以来・・・。

いえあんなの今となってはお友達を夜遊びに誘う程度のことにしか思えません。

OFUと桜楓会が皆さんから全く信用されていないことは良く分かりました。

私の心を読んだばかりの三島さんや毛利さんにまで、面と向かって牽制されてしまうなんて。少しへこんでしまいます」

シスター藤原は目を伏せて小さな溜息をつく。

「“マドカズエンジェルズ”の皆さんがご用意なさっているケーススタディがどのようなものなのか。

私は知りませんし教えてくださいとも申しません。

それらが全て全く無意味になることを、今この場で天にまします我らが父にかけて誓いますとも」

シスター藤原は椅子から立ち上がると床にひざまつき何やら祈りを捧げる風情で手を組んだ。

さすがはお祈りのプロだけあって真摯ななりふりだ。

もっとも、シスターの出自を考えると。

巫女姿で祝詞を上げる方がよりリアルに誠意を示せたろうにね。

そこんところは昭和風なアイドル的ビジュアルを優先させた手抜きかも。

シスターと巫女。

僕的には甲乙付け難いと思うだけどな。

今度は手を握り込まれるだけではなく、両脇に強力な肘鉄砲を食らった。




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