第17話 決戦前夜に心が揺れる

 イベント前日。


 今夜はゲームじゃなくて普通に配信すると決めた。


 理由は色々あって一人で抱え込むのを嫌った僕は、パーティーメンバーの二人に断りの連絡を入れたのだった。


 普通なら最後まで練習をするんだろうけど、喋りたい気持ちが勝ってしまったわけだ。


「ほんじょーの配信はあくまでもスタンダードであり、ちゃんとルールを守っていることをお約束します! と言うことで、今夜は予告したとおりただ話す配信です」


『よお』

『やっと元に戻ったか』

『練習の方は大丈夫なんか?』


「はいそっちは何とかなりそうです。僕の未来を左右する一件ですから」


『最近炎上に触れてない』

『まあコンテンツ不足とは思ってたから、ゲーム実況も視野に入れていいんじゃない?』

『そもそも毎日炎上が起きるわけじゃないんだから、その時々において最適な行動をすればいいと思う』


 僕の配信スタイル。


 炎上を擁護するのが新鮮で人を集めたわけだが、毎日擁護で配信することが出来ない。


 過去の功績がすごい人なら引き延ばしまくって何回も話せるけど、藤井ユイのような案件だと一回二回が限界だ。


 だから考えてしまった。


 僕がAmaterasuに入ったら違うことをするんじゃないのかって。


 あの時は勢いに任せちゃったけど、冷静に考えれば「会社に言われたことをやる」わけだ。


 あーだのこーだの言われて、なんか報告書? をまとめたりして。


 それは僕が望んでいたことなのか?


『どうした黙って』

『緊張してるんか?』


「あぁすみません。みなさんの中にはお仕事をされている人がいると思いますが、やりたくない事を任せられたときどうしてますか?」


『やりたいとかやりたくないじゃない。言われたら黙ってやるんだよ』

『出来ません。ってのは通用しないからな? やれって言われたらはい! と返すだけ』


 ストレートだなぁ。


 やはり僕にサラリーマンは難しい。


「僕は今後、みなさんが望む配信ではなく、言われたことをやるだけの配信になるかもしれないのです」


『どういう意味?』

『案件を多く受けるってことか?』


「細かい事はそのうち話します。ただ気になったので……」


『ほんじょーは子供だから配信で食っていけるように土台を固めた方がいい。通用しなくなって働こうにも、職歴のない中途半端な年齢だと正社員採用は夢のまた夢になる』

『本当は働きながらの方が無難だよな。ほんじょーの年齢だから出来てるまである』

『えっなに今日は固い話しするの?』

『いつもと違って面白いだろ』


 職歴、夢、年齢か……


『俺はほんじょーの配信応援するよ。年下だけど好感持てるし、いきなりイベントに飛び込むのとか破天荒で面白かった。たぶんほんじょーっておとなしい性格だと思うけど、行動力にギャップがあってある意味尊敬してる』


「嬉しいですねそう言ってもらえると。明日も頑張れそうです」


 和楽わらくさつきさんが言っていた「みずきちゃんがいるから難しい」の意味がわからなかったけど、僕たちの連携はバッチリだ。


 会長はみずきさんが今後やらかす可能性があるから、僕に任せたのかもしれない。


 いずれにせよイベントに出る以上、最善を尽くす。


 でもやっぱり会長に認められて契約まで至りたい。違う景色を見たっていいじゃない。


 社会不適合者のクソガキがバズって成り上がったら、それもまた「夢」がある。





 だから今日も明日もスタンダード。



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