第8話 なにが自分を動かすのか
十二月三十日。
年の瀬が迫った今日、僕は東京に訪れていた。
あれから藤井と話し込みAmaterasu側に今回の件を報告している旨、イベントへの参加を認められた連絡を受けイベント会場である渋谷の第一スタジオまで来ている。
なんか、あれよあれよと話しが進んでここまで来ちゃったな。
てか東京って冬でも暖かい。
道行く女の子はスカートから生足出してるし、パリコレみたいな服装の人ばかりで外国に来たみたい。
僕が田舎者なのがバレたのか、色んな人から睨まれちゃった。
時刻は十二時四十分。
十三時開始だからもう入らないと……。
「こんにちは。どちら様でしょうか?」
ドアを開けると受付の女性が話しかけてきた。
「えと、配信者のほんじょーって言います。藤井ユイさんに依頼され来ました」
そう言うと女性は驚いた表情を見せ「お待ち下さい」と言い残しどこかへ消えてしまった。
そんな変だったかな。ちょっと傷ついちゃった。
「お待たせしましたほんじょー様ですね。こちらをどうぞ」
「あっ……どうも」
渡されたのは名札ホルダー。ご丁寧に配信者ほんじょーって書いてある。
「間もなく開始ですのご案内します」
女性に促されスタジオへ進む。
中は大勢の人が集まっていて奥には巨大なモニター、スピーカー、TVで見るようなカメラがずらりと並んでいる。
「こちらにどうぞ」
その中で僕は後方の関係者席に案内された。
インキャの僕は一人でいたいからもちろん人のいない場所に腰掛ける。
「あー、あー。テスト中テスト中」
「~~~~♪ ~~~~~~♪」
すごいなこの光景。
人の数も凄いけど設備もヤバい。
なんでこんなとこに来てるんだろ。
正義感のカケラもない僕がなけなしのバイト代を下ろしてまで東京に来るなんて。
勢いって大事だけど、勢いつきすぎて止まれなくなったのかな?
それとも配信者としてのプライド?
それだけで行動できるのならなんで在学中に動けなかったんだろ……。
いけない。慣れない環境にいるから変なこと想像してる。
遊びに来たんじゃない。藤井と約束したことを思い出せ。
ここにアンノウンが来てるはずだ。
藤井はミラー配信してるから分かり次第アンノウンの名前を教える。そしたらAmaterasu側で対処するって算段だ。
ただどうやってアンノウンを見つけるかだ。これだけは不明のまま。
「カシャ!」
「ん?」
気づいたら一列後ろに人が……端っこに座ったのに近く来ないでよ。
「あぁすいません。仕事用に撮っただけです」
「あー、いや大丈夫っす」
着崩したスーツに足を組んでる姿。随分偉そうな雰囲気だったな。目つきも悪いし。
「ご来場のみなさまにお願い申し上げます。ライブ映像はこの会場も映りますので、携帯電話が鳴らないよう電源を切るほか、マナーモードへの設定をお願いいたします」
アナウンスが入りそのタイミングで残り時間がモニターに映された。
あと三分か。
あっ忘れてた藤井に準備出来てること教えないと。
『会場います』
『はいこちらも準備出来ています』
『今のところ怪しい人物はいません』
『承知しました。引き続きよろしくお願いします』
これで良し。
いよいよ始まるな。パッと照明が消えるとBGMが鳴り響き――
「みんなー見てるー! 今日は待ちにまったAmaterasuメンバー三人の新衣装発表だよー! まずは私、
「毒舌担当、
「Amaterasu妹担当の
「Amaterasuリスナーのみなさまこんにちは。藤井ユイです」
モニターから飛び出そうな勢いで可憐な女の子たちが現れた。
「今日は藤井ユイちゃんとのコラボでーす! いつも制服着てるユイちゃんが着物姿になると世の純情な男性が倒れるかも知れません」
……通話の時と変わらない声してるな。
このイベントは強行出場だし割と荒れてるって聞いたけど、あんましダメージないのかな。
☆★☆
あれから一時間経過した。
大変困った事にアンノウンを見つけられないまま、イベントは進んで行く。
あと一時間……どうする?
「チッ……藤井普通に話してんじゃん」
そう言うのは後ろに座る人。
ハッキリ聞こえないときもあるけど、時々何か言っている。
にしてもマズい。なんか動きないかな……。
ん? ケイタさんからDMが……これは……
『ほんじょーさん! 今アンノウンが投稿した写真です!』
添付された画像にはこの会場がバッチリ映っている。
やはりいたか!
……って待てよ!? 写真に写ってる人の服って……。
僕じゃんかこれ! 後頭部だけだけど絶対僕!
そうかあのシャッター音! コイツが、コイツがアンノウンだ!
藤井にDMしないと!
『藤井さんアンノウン見つけました! アンノウンが投稿した写真に僕が写ってるので間違いないです! 関係者席の後ろに座ってます!』
……返事は来ない。
あぁクソ名札ホルダーつけてたけど見えなかった!
どうにかして名前を見ないと……。
「よっこいしょ」
トイレ行く振りして見れないかな…………薄暗くて見えない!
次はどうする……
次は……
「イテっ!」
「お、おい何してんだよ。離れろ邪魔だ」
転んだフリして倒れ込んでやったぜ。
名前は……飯田!
飯田だった!
「すみませんでした」
「チッ気をつけろガキが」
よくやったぞ新! よくやった!
『飯田です。アンノウンは飯田ってヤツです!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます