第34話 会議の進行役って何気に優秀だったりする


「問題ないのよ。確かに魔導書は強力だし、価値が高いものだわ。けれど、バラード家でこれを使いこなせる人間はあまりいないのよね。護衛目的で雇っている魔術師も基本的に攻撃魔法特化で、魔導書を分析して魔法を使うような人間じゃないもの」


「確かに。魔導書を分析できるような人間は世捨て人のような人間で人里離れた場所に住んでいるか、学園に引きこもっていますからね。商業を営んでいるバラード家が関わりを持つのは難しいでしょう」


「その通りだわ。だからこそ私は【魔道具作成】スキルを持ち、魔導書の解析もできるフレアをかっているのよ」


「分かりました。それで、私はなにをすればその魔導書を頂けるのでしょう」


「近々次のバラード家当主を決める会議が開かれるわ。けれど、今のままだと次の当主は私でなく、長男であるジェーンが当主になってしまうの。そこで、私はジェーンの一派を捕えることに決めたわ」


「つまり、武力で当主の座を乗っ取ると。そのために強力な魔法を扱えるフレアを利用したいわけか」


 なにやらきな臭い話になってきたな。


「ラースの言う通りよ」


「理解しました。それで、いくつか質問があるのですが……」


 フレアはキャサリンにジェーンを支持している人間が誰なのかや、彼らが雇っている兵士などの情報を聞きだす。


「なるほど。分かりました。私はキャサリンお姉さまに付こうと思います」


「良いのか? 兄弟や親族とも殺し合いになる可能性もあると思うんだが」


「構いません。ずっと私を部屋に閉じ込めていたバラード家の人間に思い入れはありませんから」



 ◆❖◇◇❖◆



「これより、バラード家当主を決める会議を始めます」


 進行役の男が一声を上げたことで会議は始まった。僕とフレアはキャサリンの近くに立っている。護衛という名目でだ。おまけに、フレアは認識阻害のローブを被っている。


「ふん。次の当主はこの私、ジェーンに決まっておるだろう。何しろ、私はこの家の長男なのだぞ! 長男が優先的にこの家の当主となるのはバラード家のしきたりではないか!」


 声を上げたのはでっぷりと太ったバラード家長男のジェーンだ。


「全くである! 私も次の当主はジェーン殿が適任であると思っているのである」


「あら、それは奇遇ですこと。ワタクシもジェーン以外、この家をまとめることはできないと考えていましてよ」


 ジェーンの派閥に属する次男のグレアと四女のローズマリーが同調しだす。


「この二人もこのように言っているのだ。決まりではないか」


「確かにジェーンを次期バラード家当主にすることはこの家の伝統に乗っ取っておりますな」


 進行役がゆったりとした動きでうなづく。


「ならば尚更、この私以外の人間が当主になるなどあり得ないな」


「しかし、今は亡きコギノ様は遺書を残しておりまして。それによると、次の当主にはジェーン様ではなく、キャサリン様を据えるように書かれておるのです」


「なんだと!? いったい何故なのだ!!!」


 驚いたのはジェーンだけではない。会議の参加者たちがざわざわと騒ぎだす。


「静粛に。今からその遺書をお見せします」


 手元を大きく映しだす魔道具により、進行役が持っている遺書があらわになる。そこには確かにキャサリンを次の当主に据えるよう書かれていた。


「信じられん。この私を差し置いて、そこの女狐が次の当主だと!? 父上は目が腐っていたのではないかね」


「はぁ。まさかあなたは自分がお父様から好かれていたとでも思っているのかしら。残念ながら腐っていたのはあなたの方なようね」


「私のどこが腐っておるというのだ! バラード家で私は一番多くの金を稼いでいるのだぞ!」


「その通りである! キャサリンは二番目に多くの金を稼いでいるものの、稼いだ金額はジェーンと大きく差が開いているのである!」


「何を言い出すかと思えば。私は基本的に真っ当な取引しかしないもの。そんなハンデがある中でここまで稼いだのだから褒められるべきじゃないかしら」


 真っ当な取引しかしてないねぇ。フレアからの情報によると、必ずしもそうとは限らないようだが、当然黙っておく。


「まるでジェーンが汚い取引をしているかのような言いぐさですのね!」


 ローズマリーが擁護する。


「だってその通りでしょう。証拠もあるわ」


 キャサリンの合図をもとに、僕はあらかじめ渡されていた書類を彼女に渡す。


「少し拡大鏡をお借りしますわ」


 キャサリンは進行役の男から魔道具を借りると、書類を会議の参加者たちに見せる。


「もしやこれは……」


 途端にジェーンの顔が真っ青になる。


「皆様ご覧ください。こちらはジェーンがこれまで行ってきた不正なビジネスの証拠書類ですわ。違法薬物や国から認可を受けていない奴隷の販売によって彼は儲けておりますの。もちろん、グレアやローズマリーなども一枚かんでいますわ」


 会議場は再び喧騒に包まれた。


「噓だ! 私はそのような不正を働いた覚えはない!」


「私もである! 神に誓ってそのようなことをしていないと明言するのである!」


「きっとこの書類はキャサリンが偽造したものに違いありませんわ!」


 ジェーンたちは口々に弁明しだした。


 カンカンカンカン!!!


「皆さん静粛に! 両者の主張が食い違っているようですので、私の魔法、真実を聞く耳トゥルー・オブ・イアーを使用します」

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