第26話 思ったより大物が現れたときのリアクションてどうすれば良いのか

「確かあの辺りだったはず。そうだよな?」


「きゅいー」


 シルが肯定的にうなづいた。僕とシル、それにフレアは再び《白亜の森》を訪れていた。当然、エラムの身体を回収しにだ。


「きゅいきゅい!」


 今度はシルが警戒するような鳴き声をあげる。


 ガサッ!


 目の前に魔物の集団が現れた。彼らは二足歩行のトカゲみたいな容姿をしている。


「リザードマンか」


「このレベルの敵なら私でもなんとかなりそうですね。【液状化】」


 リザードマンたちの足元が底なしの沼になり、彼らは沈んでいく。しかし、彼らは普段水辺に巣を作るような魔物だ。彼らは泳いで底なし沼を抜けだそうとする。


「させません。【疑似生命作成】」


 フレアは底なし沼の泥から複数のゴーレムを作りだし、彼らにリザードマンたちの手足を掴ませる。リザードマンたちはまともに手足を動かせなくなり、沼の中に沈んでいった。


「こんなものですかね」


「結構えげつないな」


「なにか言いましたか?」


 にこりと優しい顔つきでフレアは僕を見つめる。しかし、肝心の目つきは笑っていない。


「イイヤ、ナンデモアリマセン」


「どうして片言なのですか? とりあえず、《白亜の森》から出たら町で一食おごってください。気になっているクレープ屋があるのです」


「分かったよ」


 それですんで良かった。一応最近はそれなりに稼げているので、ご飯をおごるくらいは造作もない。


「凄い魔力ですね」


 ほら穴に更に近づくと、フレアが呟く。


「そうか? 僕はなにも感じないけど」


 探知眼を使うが、特に魔力は観測できない。


「あなたの探知眼は視界に入ってくる魔力を探知するものですからね。私の魔力感知は結界内の魔力なども感じ取ることができるのです」


「そうなのか」


 僕は鑑定眼でフレアのステータスを覗く。彼女からステータスを見る分には構わないと許可はもらっている。


 ―――――――――――――――――――――――

【魔力感知】……周囲の魔力を感知し、魔物などの居場所を突き止める。

 ―――――――――――――――――――――――


 これが彼女の魔法になる。ちなみに僕の探知眼はこんな感じだ。


 ―――――――――――――――――――――――

【探知眼】……目の中に入った微弱な魔力を感知し、魔物などの居場所を突き止める。

 ―――――――――――――――――――――――


 魔物や魔道具などは微弱な魔力が漏れでていることが多い。


 僕の探知眼はそういった魔力が目に入ることで探知しているわけだけれど、フレアの魔力感知は周囲に魔力があれば自動的に感知するので彼女の魔法の方が優秀といえるかもな。


 僕らはほら穴の中に入っていく。中では別れた時と変わらない姿勢でエラムが眠っていた。永遠の眠りだけどな。


「これが黒竜族なのですか」


 フレアはエラムをまじまじと見つめる。


「うろこや骨なら見たことはあったのですが、こうして黒竜族の身体を見たのは初めてです。これだけ状態が良いのであれば、本当に様々なものに活用できそうですね」


 そう言いつつ、彼女はマジックバッグに自分の魔力を流し込み、いじりはじめた。


「ふぅ。できました。これでドラゴンも回収できるはずです」


 フレアがマジックバッグをエラムに近づけると、エラムはマジックバッグの中に吸い込まれていった。



 ◆❖◇◇❖◆



 フレアに高いクレープをおごらされた後、僕らはフレアの店に戻った。2日後、マジックバッグからエラムを取りだし、作業場に横たえる。


 以前シルを作っていた作業場だ。フレアと話し合った結果、エラムを冒険者ギルドで解体してもらうことは諦めた。


 この前ゴブリンキングの魔石で騒ぎを起こしたばかりなのに、黒竜族の亡き骸なんて持っていったらどうなるか分からないからだ。


 そもそも、黒竜族の素材なんて貴重だ。冒険者ギルドを信用しないわけじゃないが、ギルドには非正規の職員も多いからな。


 怪我なんかで冒険者を続けられなくなってしまい、ギルドで安くこき使われている人間も大勢いる。


 そんな彼らの前に黒竜族の亡き骸を置いたらどうなるのかは火を見るよりも明らかだ。解体している最中にねこばばする奴が絶対にでてくる。


 例えるなら、飢えた狼の群れに霜降り肉を投げ込むようなものだ。そんなことをするわけにはいかない。


 なので、エラムの解体はフレアの伝手でお願いすることになった。彼女の伝手で解体に来る人たちは今日来るらしい。


「解体をお願いしたのはどんな人なんだ?」


 僕はフレアに任せていたのでよく知らない。


「ふふ。気になりますか」


「そりゃそうだろ。まぁ、フレアが信頼してる人間なら問題ないだろうけど」


「安心してください。依頼した方は定期的に私の作る魔道具をまとめ買いする人ですから。わざわざ私との関係を悪化させるようなことはしません」


 なるほどな。フレアの魔道具はそれなりに高価なものも多い。というか、そこらの魔道具店を売られている品よりも全体的に一割くらい割高だ。


 そんな彼女の魔道具を大量に買うということはそれなりに素性のしれた人なのかもしれない。


 チャリンチャリン。


 店の入り口にあるドアに取り付けられた鈴の音が聞こえてきた。


「来たみたいですね」


 作業場を後にして店の方へと歩みを進める。


 店内には金髪をロングにした背の高い女と護衛らしき兵士、更には複数の作業員らしき人たちがいた。広くないので店内はかなり人口密度が高くなっている。


「おっ! いたいた。お久しぶりフレア!」


 女が手を振り、フレアに声をかける。


「ええ。こうしてじかにお話するのは久しぶりですねナタリア様」


「もう! 私のことはナタリアで良いって言ってるでしょー」


 ナタリアと呼ばれた女は両手を腰につけほおを膨らませる。


 なんだろう。この人、長身で髪も長いからクールに見えるのに、言動は少し、いやかなり子供っぽく見えるぞ。


「ん? この人は誰?」


 ナタリアは僕を見つめて来る。


「紹介が遅れましたね。彼は冒険者のラース・ヴィクトル。黒竜族の発見者です」


「初めまして」


「ふぅん。きみがあのラース君なんだ」


 ナタリアは目を細める。

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