第18話 貴族社会は魔法が全てじゃない
「というわけなのですよ。ユーグ殿。酒に酔った状態でチキンレースをするとはあなたの息子殿は良い趣味をお持ちなのですな」
「ははは。もちろん。ディオは自慢の息子ですから」
俺の目の前では父上とドース公爵様が会談を行っていた。一見すると、2人は仲睦まじくしているように見える。
だが、実際はそんなもんじゃねぇ。ドース公爵様は俺がチキンレースをする趣味があることをほめているが、もちろん、言葉通りにとらえてはいけない。
貴族つっうのは、遠回しな表現が大好きだ。だから今のも、嫌味で言っている。その証拠に、父上の顔は真っ青だ。
俺はチキンレースがきっかけでドース公爵様の馬車を壊してしまった後、ドース公爵様と一緒にヴィクトル領に連れてこられた。彼はもともとこの辺りに用事があったようだ。
父上と俺がしでかしたことを話し合うのに付き合えということらしい。当然俺に拒否権なんてねぇ。断れば俺は一生貴族として社交界にはでられない。
仮にヴィクトル辺境伯領の次期後継者であってもだ。それだけドース公爵様の影響力は大きい。
「まぁ、ディオ君も人の子ですからね。私は寛大な人間です。馬車は王国でも指折りの職人に作らせた特注品だったのですよ。しかし、私はディオ君を許しましょう。彼は未だに少年の心を持つ稀有なお方です。それに免じましょうとも」
これも嫌味でしかない。おそらく、俺のことをガキ扱いしている。このまま彼に弁償しなければ、俺は社交界にでられなくなるかもしれない。
「いえいえ。流石に私の家の者がドース殿の所有物を壊してしまった以上、弁償はいたしますとも。特注品とのことですし、賠償金の数はこれくらいでいかがでしょうか」
父上は金貨が入った袋をドース公爵様に手渡す。ドース公爵様は袋の中から金貨を取りだし、数を数える。
中に入っていたのは、大金貨が50枚だった。これだけあれば、馬車の修理もできるに違いねぇな。
だが、ドース公爵様は納得した様子を見せない。
「ユーグ殿、私は最近魔道具を集めることが趣味になっているのですよ」
「素晴らしい趣味ですな」
父上が両手をすり合わせながらごまをする。
「そんな中、私はこんなものを最近購入しましてね」
ドース公爵様はカバンの中から水色の水晶球を取りだした。
「これはいったい?」
「見ていてください」
そういうと、ドース公爵様は水晶の中に魔力を流す。すると、水晶にとある風景が浮かんできた。
「こ、これは……」
父上の額から大きな汗が流れる。
水晶に浮かんできた風景は、なんと俺がドース公爵様の馬車に激突する瞬間の光景だった。
「これは記憶水晶と言いましてね、このように風景を記憶させることができるのですよ」
「便利でよいですな。ドース殿、少し席を離れてもよろしいですかな?」
「もちろんですとも」
父上はやがて別の袋を持って戻ってきた。
「ドース殿、これはほんの気持ちなのですが」
新たな袋はドース公爵様に手渡される。中に入っていたのは白金貨が10枚だ。白金貨1枚は大金貨10枚と同じ価値だ。そうなると、白金貨10枚は大金貨100枚分の価値があることになる。
「これはありがたい。ユーグ殿とはこれからも
「ははは。こちらこそよろしくお願いいたします」
ドース公爵様は屋敷を出ていった。痛い出費にはなったがなんとかなりそうだな。まぁ、あれくらいの金、俺が領地を受け継げば簡単に取り戻せるだろう。
「この馬鹿者が!!!」
そんなことを考えていると、右ほおに衝撃と痛みが走った。
「父上……」
俺は父上に殴られたようだ。
「この儂が必死にためた金をこんなことのために浪費させおって! お前はなにを考えているんだ!」
なるほど。確かに余計な金を払わせてしまったことは申し訳ないと思う。けれど、なにも殴らなくてもいいだろうが。なんだか腹が立ってきたぞ。
「うるせえ! あんなはした金、俺が爵位を継げばすぐに稼げるに決まってんだろ! 俺は希少な雷魔法が使えるんだよ! 父上、俺はあんたみたいな平凡な男じゃないんだよ!」
そうだ。俺には希少な雷魔法がある。火魔法とかいう平凡なスキルしか使えない、父上とは違うんだ!
「まさかお前がそんな愚かだったとは……。貴族社会は魔法だけが全てではないことを知らんのか」
「ユーグ様、大変です!」
その時、扉を荒々しく蹴り上げ、屋敷の執事長が入ってきた。
「何事か!」
「サンスーシ学園と王都の騎士団が玄関に来ておりまして……。そ、その……」
執事長は気が動転しているのか、上手く言葉がでてこないみたいだ。
「ええい! この忙しい時になんだというのだ!」
「その……彼らはディオ様を複数の犯罪をおかした罪で捕まえに来たと言っているのです!」
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