最終話 いつまでも変わらないこと
今は夜11時を過ぎており、美波のご両親は初人を連れて既に寝室へと戻っている。
リビングのソファに腰かけている俺に、隣にいる美波はそっと身体をもたれかからせた。
「本当に、私の無理なお願いを聞いてくれてありがとう。そのお礼と言うとあれだけど……今夜、どう?」
美波の柔らかい肌の感触に、俺は自分の中にふつふつと湧き上がる感情に身を委ねたいと思った。
何も言わずに彼女の両肩に腕を回すと、俺はソファの上で彼女とキスをした。
しばらく見つめ合ってから俺と美波は手をつないで夫婦の寝室まで歩いた。
自らダブルベッドに寝転んだ美波を見て、俺は上から覆い被さるようにベッドに身を投げ出した。
そして、2人だけの時間が始まり……
「ぱー、んまー」
始まりかけた所で、寝室の扉を開けて小さな何者かが侵入してきた。
今起こっていることを瞬時に理解し、俺と美波は慌てて体勢を整える。
「
「あーい」
ベッドから降りて息子を抱き上げた美波は、既に俺の恋人ではなく一児の母の姿だった。
初人は昨月まで祖父母の寝室に置かれたベビーベッドで寝ていたが、よちよち歩きができるようになったので今では祖父母と同じベッドで寝ていた。
美波のご両親の若い夫婦への配慮により普段は親子3人で寝ていなかったが、初人は寂しくなると自分から両親の寝室まで歩いてくることがある。
「じゃあ……3人で寝ようか。美波、今日はありがとうな」
「こちらこそ。初ちゃん、子守唄歌ってあげるね」
「んまー」
ベッドに川の字になって寝ながら、俺は美波が小さな声で歌う子守唄に耳を傾けた。
先ほどまで美波と愛し合おうとしていた欲求は薄れてしまったが、すやすやと寝息を立て始めた初人の姿に、俺は自分は世界の誰よりも幸せな男だと思った。
美波は俺の妻であり恋人であり、一緒に子供を育てていくパートナーだ。
そして、今も昔も変わらないこととして。
俺にとって美波は、世界で一番大切な存在なのだ。
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