209 気分は拒否反応
それからは2人で色々な出店を回って林君や柳沢君、山形さんといった同級生に買い物をしつつ挨拶することができた。
カナやんがたこ焼きを作っている陸上部の出店には暗黙の了解で2人揃って行くのは控え、そろそろ解散しようかと考えていると、
「白神先輩! すみません、ちょっといいですか?」
聞き覚えのある声で呼びかけられ、振り向いた先には柔道部の出店があった。
ホットドッグを販売しているその出店から出てきた
「お2人で回られてる時にすみません。お願いがあるのですが少しお時間いいですか?」
「ええ、どうぞ。せっかくの後輩の頼みだし」
「ありがとうございます!」
研究医生同士ということで面識はあるらしく、笑顔で答えた壬生川さんに道心君は嬉しそうにお礼を言った。
「実はチャラミツの奴が競技場で占いの館をやってるんですけど、あんまり客が入ってないので行ってあげて欲しいんです。占いは無料で、相性診断もあるのでカップルで行けば喜ぶと思います」
「へえー、
再び知り合いの後輩の名前が出て初めて知る事実に驚いていると、
「……あの、壬生川さん?」
「あ、あたし絶対行かないから! ごめんね!!」
壬生川さんは身体をわなわな震わせてそう叫び、そのまま女子バスケ部の出店のある方向に逃げ去っていった。
彼女は以前計良君にナンパされて以来彼に怯えているとは聞いていたがここまで拒否反応を示すとは思わなかった。
「あー、申し訳ないです。本当にチャラミツの奴は……」
「こちらこそせっかく誘ってくれたのにごめん。1人で行ってもいいのかな?」
「全然大丈夫ですよ! 差し支えなければ他の2回生にも宣伝してあげて欲しいです」
「OKOK、また友達に会ったら教えとくね」
そう答えると道心君は柔道部らしい所作で礼をして出店に戻り、彼は友人想いの心優しい人物なのだろうと感じた。
計良君は医学生にしては軟派な(チャラい)男子なので人を怒らせてしまうこともあるが、何だかんだで友達から大事にされている彼もまた人柄のよい人物なのだろうと思われた。
そのまま一人で競技場まで歩いて広々とした屋内に入ると、展示場が設けられているスペースとは反対側の壁際に「占いの館」らしきテントが設置されていた。
近くに行くとそこには看板が立てかけられていて「無料! 最新AIによりあなたの身の回りのことを占います!」「AI相性診断やってます!」といった興味深い宣伝文句が並べられていたが、場所が悪いのかお客さんの姿は全くなかった。
「失礼しまーす」
「ようこそおいでくださいました……って白神先輩じゃないっすか! お久しぶりですー!!」
入り口の布をめくってテントの中に入るとそこには占い師というよりは
医学部1回生にして硬式テニス部員の
「いやー、来て頂けて嬉しいっすわ。どうせなら恵理ちゃん先輩と一緒に来て欲しかったですけど」
「ああ、壬生川さんなら計良君の名前聞いた途端に逃げたよ」
「そこまでっすか!? 流石に傷つきますよ……」
今年4月に開催されたオープンキャンパス委員の新歓立食パーティーでナンパして拒絶されてから今に至るまで壬生川さんに避けられていると知り、計良君は真剣に落ち込んでいるようだった。
彼は美女と見れば誰にでも声をかける性格だがもちろん悪意があってやっている訳ではないので、それで女の子に避けられ続けたら確かに傷つくだろう。
「ごめん冗談冗談、本当は出店の当番で来られなかっただけ」
「いいんですよ先輩、俺はもうこれぐらい慣れて……ううっ……」
冗談ということにして元気づけようとしたが、計良君は事情を分かっているらしくそのまま占いのテーブルに突っ伏していた。
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