気分は基礎医学
輪島ライ
プロローグ
1 気分は崖っぷち
3000万円というのがどれぐらいの金額かを実感して生きられる人は多くないし、僕自身も普段は昼食に使うお金ぐらいしか計算していない。
学生食堂の500円の定食なら6万回、大学近くの1000円のラーメン(ライス付き)なら3万回食べられる! とか考えても何一つ有意義なことはない。
この3000万円から高くて4500万円、安くて2000万円ぐらいの金額を常日頃から脳内に留めて生活している人々が日本には存在していて、具体的にはどういう人々かというと、
「ええっ、来年からの学費払えないってどういうこと!?」
『ごめんねえ、大体お父さんが悪いの』
「2回生から卒業までだから、あと2500万はかかるぞ……」
『留年しなければね♪』
「冗談言ってる場合かっ!」
私立大学の医学部医学科に通っている学生と、その保護者である。
医学部受験ブームの昨今、二年間も浪人して入学した
長いようで短かった1回生の日々が終わり、進級が無事決まった翌日の午後。
僕は実家の母からの電話に驚愕していた。
愛媛県松山市で皮膚科のクリニックを開業していた父は3か月前に心筋梗塞で急逝し、その時は僕も大学を忌引で欠席して実家に戻った。
葬式や相続の手続きは無事に終わり、生命保険金のおかげで残された母と僕が暮らしていくのに不都合はないと聞かされていたのだが……
『私だってお父さんが愛人の事業の連帯保証人になってるとは思わなかったもん』
「そりゃそうだけど、相手に賠償金払わせるとかできないの?」
『音信不通で、借金取りにも警察にも何もできないらしいわよ。とりあえずお父さんのお墓は取り壊して貰うことにしたわ』
これである。
母は薬剤師として地元の薬局で働いているし、生命保険金のほとんど全額をつぎ込む形で父の借金は返済できたが、母の収入だけではとても私立医大には通い続けられない。
「お金がないって言っても、3月中には学費払わないと退学だよ!」
『そこが問題なのよねー。何とかならない?』
「奨学金とか学資ローンはあるだろうけど、今の今まで調べたことないよ……」
『流石に退学は困るから、ちょっと教務課の人に聞いてみてくれない? 私も色々調べてみるし』
あっけらかんとした態度はともかく母のアドバイスはもっともだったので、僕は即座にワンルームマンションの下宿から大学に向かい教務課の事務室へと走った。
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