第21話 実力と怒りと
戦っている姿を見ながら、私は逃げようとするやつらを狩る。手加減なんて私も茜もしない。する必要性を感じない。
「な、何だよ…そのでたらめな強さ…」
圧倒的に叩き潰していたら、下っ端の一人からそんなことを言われる。ボロボロになりながらまだ立とうとする、意志の強い馬鹿だ。
私はどう言おうかと、乱れた髪をかき上げながらゴミを見る目でそいつを見下す。そして、口を静かに開いた。
「知らないわよ」
その一言とほぼ同時にそいつから立ち上がる意思がなくなる。それはそうだろう。圧をかけた目から逃れることは誰一人叶わないのだから。
「…でも、何で対処できなかったのかなぁ…」
「ん?」
半分以上を戦闘不可の状態に追い詰めたところで、茜がぼそっとつぶやく。私はそのつぶやきを無視せず、「確かにね」とつぶやいた。
「おそらく局所的な能力封じ、だとは思うけど。未来視できる人が気付いて、葵さんを逃がしたんでしょう。それなら、どれだけ素の力も強くて戦い方を知っていたとしても、能力者との圧倒的な実力差をひっくり返すことはかなわないから」
「私やお嬢に影響ないのは、お嬢が守ってくれてるだけかぁ」
「何もしてないから、あんたの戦闘力は能力に頼らずとも十分すぎるんでしょうよ」
私の推理に納得した茜はそんなことを言う。私は元々能力を持たないから特に影響がないだけ、何だけど身体強化してるよねって戦い方しているから効果が切れてる説も十分にある。だとしても、その間に徹底的に叩きのめせば行動不可になるし。よく考えられているよねぇ…。
にしても、能力封じか。触れたり小さめのエリア指定なら使えるという人を選ぶ能力筆頭で、しかも保持者の少ないレア。判明すれば国が安全のために保護するから、なぜ裏組織の一員になっているのか…。
「えっ、そうなんだ。…ま、いいや。後数人だよ、お嬢」
「えぇ。…避難は済んでるようだけど、私の怒りは収まらなくてね。…死んじゃったらごめんなさいね?」
一人の首を絞めながら襲ってくる奴らを軽々しくかわし、茜はその人たちをこっちに擦り付けようとする。私としては全然かまわない。
周りを見れば、組織の人たちは誰一人いないように見える。そして、指揮官は彼が回収してくれている。死なせずに情報を吐かせるためだ。こうなれば、もう完全に独壇場。
「――平和主義と言っている割には、キレたらそう言うのは無いのかしら」
「あれ、いたのね」
私は一人もいないと思っていたため、その聞いたことある声に少し驚く。それは、葵さんにお姫様抱っこされたままこっちを見る澄玲の呆れたツッコミだった。
それをちらっと視界の端で確認した私は、そう言って一人仕留めながら笑う。全く、なんでまだここに居るんだか。止血してたって意味無いの分かっているだろうに。…お人好しだなぁ…。
「澄玲、早く手当てしてもらうのが一番よ。後、別に人殺しにためらう部分は無いわ。言ったと思うけど、殺さないと変わらないのであれば殺す。殺そうとしなくても致命傷でその後命落とす馬鹿も多いし。ちゃっちゃと病院いけって忠告するんだけどねぇ…」
そう言い切った瞬間、私の腕に羽交い絞めにされた奴から首の骨が折れる音がする。ははっ、いい音鳴らすじゃん。
「…狂気ね。それで平和が一番とか…。まぁ、良いわ。情報が手に入るのであれば好きにしなさい。葵、連れて行きなさい」
「狂っちゃってるかもねぇ…」
葵さんが澄玲の指示で能力を使ったのを空気の揺れだけで知ると、そのまま折ったやつを地面に放り投げ、自分か敵か分からない血の付いた手で頬をぬぐう。そして、乾いた笑いが口から出る。
「ハハハ…。理性、保っているつもりだったんだけどねぇ。ナイフ取り出した時点で、負けだったかなぁ?」
茜からの返事はない。ただのひとり言だ。奴らも一人として返事を返してこない。気付いた時には護衛用に持っていたナイフを、私は太陽の光にかざす。いつ付いたかも分からない血が、ゆらりと怪しくきらめいた。
それを口元に持ってきてくすっと笑う。そこにはもう立っている者はいない。完全な勝利だった。
「――作戦を完了いたしました」
その言葉を聞いて、ナイフをすっと降ろす。そして、ちらっとそっちを見た。
「…あ、お疲れー。お嬢、今完全にトリップしてるから後にしてあげてね」
「茜…。お前、また約束破ったな」
「えー、今回は私悪くないよー?だって、先にお嬢が守ってきた大事な人たちに手を出したこいつらが悪いんだしぃ」
私の現状を茜がかばい、彼が怒る。無茶したときに見る光景だと、少し安心したのと同時に、こんな現状を見たら妹たちが幻滅するだろうなと苦い笑みを浮かべる。
「…それはそうだが、こうなると中々戻ってこないのは知っているだろう」
「うん。まぁ、まだ瞳が正常だから、今日は軽めで済んでるんじゃないかなぁ。ねぇ、お嬢。具合はどう?無理そうなら抱きかかえて連れて帰るけど」
呆れながら言う彼を置いて、茜が私の目の前まで歩いてくる。そして、私と視線を合わせてそう聞いてきた。
「だいじょーぶ。あ、ありがとうね。おかげでこっちの屑の処理に集中できたよー。あ、こいつらの処理もついでに任せていい?構成員たちだろうけど、もみ消しをセットで。できるよね?」
茜の手を借りて立ち上がり、私は彼の方を見てそう感謝をする。そして、屋上にある死屍累々を見て追加で仕事を出した。
彼はそれを聞いてため息をつく。まぁ、そうなるよねぇ。
「まだ完全に戻ってきてないですね。今日は早く寝ることをお勧めします。ここは処理しておくので。茜、後は頼みますね」
「戻ってきてるわよ。ただあんたたちを目の前にすると、取り繕う必要性を感じないからこうなるだけ」
彼のそんな言葉に思わず言い訳をする。久々に暴れたからってそんなことを言われる筋合いはないはず。彼は私の言い訳に笑って、処理に移る。
「まぁ、今日は久しぶりの屑処理だったからねぇ。お嬢、私のお姫様抱っこで帰ろっか。私の能力ならすぐだし、良いよね」
「じゃあ、頼もうかな。よろしくね、処理の方」
「…分かりました。今日はゆっくり寝てくださいね」
彼に手を振って、私は茜のお姫様抱っこで本部を後にする。かなり疲弊していたのか、私はその移動中に意識を手放した。
ー翌日ー
日が差し込むまぶしさに私は薄っすらと目を覚ます。かなり無理して動いていたのか、体を動かそうとして生じる痛みに顔をしかめた。
「うっ、痛…」
「あ、おはよう。大丈夫かしら、朝ごはん作ったのだけど」
「…アル?おはよ、朝ごはん食べる…」
痛みで起きれなくなっているところで、アルが顔を出して質問してくる。どうやら、茜がアルを呼んでくれたらしい。看病するなら養子縁組をしているアルが最適、なのは分かるけど…。
「なんか、複雑そうな表情を浮かべているわね。何かあった時にカバーできるのは私ぐらいしかいないんだから、仕方ないでしょ。…ご飯持ってくるから寝てなさい」
「…別に何も。ありがとうね、アル」
私の何かを感じ取ったアルから少し文句が来る。私は視線をそらし、そんなアルにそう返した。
アルは私の返事を聞いて一旦部屋から出ていく。その後ろ姿を見ながら、私はぼんやりとする。
「…あー、本当に筋肉痛…。体が動かないねぇ…」
腕すら動かせない現状にそんな言葉が口をついて出た。まぁ、仕方ないんだけど。なぜ、学校で複数の依頼をこなした時より筋肉痛がひどいんだろうか…。
「そう言えば、皆は大丈夫なのかなぁ」
私は痛む体をそのままに、昨日の皆を心配する。完全に起き上がれなくなっている人や、助け来るまでの間ずっと防壁を張っている人も居た。澄玲だってただならぬ量の血を流していたし、妹たちも立ち上がれなくなっていた。
…そんな状況を見て、私の理性の枷が外れかけたんだよね。あの時、本当に飲まれいたら、私は命を落としていた可能性がある。…いや、筋肉痛のこの状態はかなりやばいんだけどね…。
「…病院から連絡は特になく、様子を見に行ってくれてるメンバーからは皆元気そうよ。数日様子見で入院したら軽傷組は帰れるらしいわ。まぁ、美咲たち一部の高ランクメンバーはもう少し退院に時間かかる見込みがあるそうだけど」
お盆を抱えたアルが部屋に入りながら私の疑問に答えてくれる。そっか…。一応全員無事か…。
「それなら安心だわ。…って、退院が遅れるってどういうことなの?もしかして…」
「何人かは今回の事件で普段通りに能力が使えなくなり、美咲たちは血が足りず、また限界まで立ち続けた影響で起き上がれない状況。だとは聞いたわね」
「あの現状的に無理はないか…」
アルの手を借りて体を起こし、ベッドの壁部分に体を寄りかからせる。痛いけど、ご飯は食べないと力が出ないから仕方ない。
でも、そうなるよねぇ。トラウマによる能力使用不可や、体に無理を言わせた長時間の能力使用は今後の生活に影響を与える。ま、どう訓練を積んだとしても、一生その能力は使えなくなる。って言うことはない。実力主義なのだから、技術がそれを何とかしてくれる。とはいえ、心が拒んでしまえば無理だけど。
「取締組織は国の中枢機関だから対応はするでしょうけどね。でも、何人が現場復帰できるか…」
「そこは本人たちの意識次第だね。私的には割り切れていた方がこれから先も楽だと思うんだけど。でも、どうしたって割り切れない子は出てくるでしょうね」
アルのその言葉に私はそう返す。私や仲間はそれはそれ、これはこれという考えの元活動している。そうじゃないと、手元が狂うし、こっちが死にかねないからね。
アルは私の言葉に首を縦に振ると、持ってきたお鍋を開けて器に盛って私の前にそれを出す。
「…これがご飯よ。一応、おかゆにしておいたわ。昨日のお昼からほぼ何も食べていなくて今の現状だから。食べられそうなら、もう少しちゃんとした食べ物を持ってくるわよ」
「あ、ありがとう」
「じゃあ、食べさせるから口を開きなさい」
「あ、はい」
アルの優しさに心があったまったところで、私はおかゆを掬ったスプーンを目の前に出される。そして、そう言われた私は素直に口を開けておかゆを食べる。
おかゆは、ご飯に卵を入れてシンプルな味付けとなっている。しかもほぼスープだから、軽くモグモグするだけで済むものになっていた。
「食べられるわね。…お昼はもう少しカロリー取れる奴にしても良さそう」
「飲み込む力自体はちゃんとあるから…。でも、優しい味で今の私に丁度いいよ」
「そう、ならいいわ」
ちょっと安心した様子でドンドン私の口に運んでくる。私はそれを素直に頬張る。おいしい…。
とまぁ、しばらく本当の親子かの如く甲斐甲斐しくアルに世話を焼かれた後、私は再びベッドに横になった。
「しばらくは食べては寝て体力を戻すことから始めないといけないわね。筋肉痛が良くなってきたら、正常に動けるようにリハビリがてら運動しましょう。…出かけられるようになるまでは、仲間がちゃんとお見舞いに行くから心配はいらないわ。取締組織がちゃんと仕事できる状態になるまでは、こっちでリカバリーするっていうのでいい?」
アルは私のベッドの横に椅子を置いて腰かけ、これからの話を聞いてくる。私は特にその計画で問題ないと首を縦に振った。
「大丈夫。むしろ、私が動けない分迷惑かけるわね。…あんたたちの部下を動かすんでしょう?」
「迷惑なんてないわ。3人それぞれ部下を動かしているから、自分たちの意思で。それに、こういう時ぐらいしか奏音の役に立てないって男2人気合い入れているわ」
「重いなぁ」
アルの報告に私はそう言って苦笑する。男2人のうち一人は指揮官を回収してくれた彼。アルの旦那さんで私たち姉妹の父親、戸籍上はね。あの人は無茶しない分、冷静な対処を持ち味としている。その分、良いと思えば全くもって手加減をしない冷酷な面もあるけど。
もう一人は、裏方を得意とする人で、私たちの中で一番の情報源を持っている。基本私の目の前に顔を出さないから印象は薄いけど。
「それだけ心配しているって言うこと。茜は苦笑しながら無茶させない様に監視に回っているわ。私が止めないと国が滅びかねないって」
「冗談でもなくやりかねないからねぇ…あの2人。まぁ、アルと茜もそうだと思うんだけど。こういう時は落ち着いてるよね、あんたたちは」
「無茶する2人のストッパーにならなきゃっていう意識があるのよ。
「無理だろうね…」
そっか、アルは名前で呼んでるんだったね。ちなみに、もう一人の名前は
何なら人前に出ないから呼び名がいらない疑惑があるのが彼なんだけど…ね。
そんなことを思いながら私は舟を漕ぐ。本当に眠くて限界なのだと悟らされる。そんな体に苦笑して、意識を手放した。
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