第17話 最初の協力
私が違和感を感じた西の方にある公園に、取締組織のトップである澄玲や他のメンバーと共にやってきて、着々と対策が進んでいた。
「それじゃあ、まずは避難準備と囲い込みをしていかないと。何をするかなんて分からないのよね?」
スムーズに準備をしていくメンバーを見ていたら、私は澄玲にそう確認される。
「えぇ。狙いは能力でしょうけど、それ以外は特にこれと言った特徴が無いから」
「分かったわ。それなら、このまま進めていいわね」
私の答えに澄玲は頷いて、メンバーの作業風景の方へと視線を動かす。その視線を追いかけるように、私も視線をそっちの方へ戻した。
「…。あっ」
しばらくは何もなく、イベントはスムーズに始まろうとしている。その瞬間、私は怪しい一つの影を視界にとらえ、そう声をこぼした。
「ん?どうしたの、奏音」
「あ、いや。ちょっと嫌な予感がする人を見た気がして」
…見たことない顔だとはいえ、あの組織と関係ないなんてことはないだろうな。
言葉を濁しつつ、私はその影の動いた方へと視線を動かしていく。今の人、どこ行った?
「…見失ったか…。澄玲、イベント始まった後が本番かも。様子を見に来ただけっぽい」
悔しいけど、相手としてはこちらを見に来ただけであり、まだやるつもりはないということだろう。なら、イベントの騒ぎに合わせて一網打尽が狙いかな。
「それなら、始めさせた方がいいわね。スタッフには情報を伝達しておきましょ。その対策でいいかしら?」
「良いと思う。包囲網が出来ているのなら、逃げることはできないから」
「…分かったわ」
澄玲は私の話を聞いて、すぐに指示を出す。そして、少し神妙な空気の中で、イベントが始まった。
とりあえず、今は取締組織の実力を信じるしかない。いざとなれば、私の方の仲間たちに頼ればいい。
「――今のところは問題ないわ。えぇ。…そうね、怪しい動きをしている人がいたら警備を動かして頂戴」
…横で、澄玲は警備の人と話している。ここまで油断できないイベントがあっただろうかって感じだね。
ちなみに、バトルの方は観客を巻き込んで大盛り上がり。いろんなタイプの能力者が遠距離、近距離関係なく戦っていく。もちろんトーナメント式で、ここから約一週間は続く大がかりなものになっているみたい。これはチラシを見て得た情報だけど。
「…見てる分には楽しいんだけどなぁ…」
遠くからではあるものの、そんな楽しい試合を見ながら私はそうぼやいた。
そりゃあ、この後に事件が一個起きるってほぼ確定している状態で見てるんだもんねぇ…。気が休まらないったらありゃしない。
「そうよね。とはいっても、毎回このバトルイベントはこんな感じよ。ちなみに、午前の部の最後と午後の部の最後に毎日、ただの交流戦が開かれるの。参加者の中で希望があるか、観客の希望があって実現する夢のバトルがね」
「ん?そうなんだ」
私のぼやきに反応した澄玲は、そんなことを教えてくれる。交流戦が醍醐味と言っていいらしい。なるほど、それで観客を逃さずに金を巻き上げる感じか。流石は無法地帯って言ったところかな。
…日がかなり傾いてくる2時過ぎ、そろそろその交流戦が始まるといったところ。つまり、一番人が集まり、実力のある希望者が前に出る。ここが一番の狙い目か。
「えぇ。というか、今回はトップ争いをいつもしている2人が戦うらしいわね。ほら、あそこで準備しているのが見えるでしょう。…それに、人も集まってきたわね」
「見えたわ。…澄玲、注意してて。後、警備を動かして。何かあったらスムーズに避難誘導に動けるように」
澄玲が私の方を見た後、ステージ脇で準備運動をしている2人組を指してそう説明してくれた。
なら構えるしかない。この人だかりの中に何人組織の連中が混じっているかなんて流石に私には分からないし。…はぁ、これはいろんな意味で大乱闘になるな…。実力がどうのこうのって言ってる暇ないだろうし、面倒なことにまた首突っ込んじゃったか。
「分かったわ。すぐに連絡入れる」
「よろしく。…あ、勝負始まるね」
澄玲にそう伝えた直後、試合開始のコングが鳴り響く。それと同時に大きな歓声が会場に響き渡った。すごいうるさいけど。
まぁ、それでも杞憂なだけでちゃんと勝敗がついて昼休憩に入ればそれで良いんだけどね。
…ま、そんなこと言ったらフラグ回収するわよね。まったく、どうやらそうはいかせてくれないみたい。
「…はぁ。やっぱりそうなるよねー。澄玲」
試合が盛り上がったところで、なんと組織の一人がいきなり乱入。もちろん気が散るし、なんでそんなことするのってなるから、もう会場は手がつかないレベルの騒ぎとなった。
澄玲は私の声かけに頷くと、すぐにレシーバーで指示を入れる。
「えぇ。…避難誘導を開始して。駐車場まで流れたら、そこからは準備終えた車から帰らせるように頼める?えぇ、お願いするわ。こっちは犯人を追いかけるから、よろしく」
その様子を見て、私はどうしようかなと考える。会場の方はトップ争いのあの2人はSと言ってもいいレベルだし、任せてもいいかもしれないけど…。
とはいえ、そのレベルの危険度ならわざわざ行こうとしないだろうし。そういうことよね。
「澄玲、私は行くけど一緒に行く?」
「いいわよ。でも、大物を逃すことにはならないかしら?」
「んー。ま、多分行けるんじゃないかしら。見たところ、これ以上人員いるとは思えないし」
仕方ないなと思って私は澄玲に声をかける。澄玲はすぐに反応して、そんなことを聞いてきた。
わざわざそんな状況にする必要はないし、大物は逃さない。なぜなら、仲間の一人に動いてもらってるからね。
「…まずは、逃げ道を作るか」
すっと私は逃げる人々を避けて、奥の方へと駆け抜けていく。
そして、あの2人の元へと辿り着いた。
「(…気絶させるだけでいいか)」
「お、おい!何してんだ嬢ちゃん。正義だなんだ言うなら逃げてくれよ!」
近づいてくる私を見て、男性の片方がそう叫ぶ。どうやら、相当テンパっているらしい。ま、それはそうか。ランク的に見ればAからSの実力がある2人の男性が押されているんだから。
「大丈夫よ。私と澄玲さえいれば十分だから。…澄玲、敵は10人だから半分任せていい?」
「別に良いわよ。それより、一人で行けるようなら他を探して倒してくるけど」
「なら、先にここを抑えた方がいい。避難しずらくなっているから」
混乱の中避難しようとする観客や出場者に対して、どこかの組織の連中が非常にいい連携でどんどん気絶させていく。
澄玲はそんな景色に唖然としてるけど、きちんとやるべきことは理解しているらしい。私の言葉にすぐに頷いた澄玲は、避難誘導に紛れつつ、その連中を倒していく。
「半分は残しておいてよ、澄玲」
「取られたくないなら早く来なさい。これぐらい、相手にすらならないから」
半分って言ったのにと文句を言う私に、澄玲はにこっと笑ってそう言い返してくる。弱いからって、手柄を全部横取りするそっちが悪いでしょうが…。
「…な、何だよ。あの2人は」
澄玲の横を通りすぎ、私は残っている敵を倒す。そして、きれいに誘導できるように、すっと手を横に伸ばして混乱している人に微笑みかけた。
そんな私と澄玲の連携を見て、後ろから動揺する声が聞こえてきた。ま、そんな反応するのが妥当か。仕方ないよね。
「(一応こっちは収まったけど、頼んでいた方はどうなっているんだろうか)」
誘導を警備に任せつつ、私は笑みを浮かべたままスマホを開いた。通知は…1件。友梨からの連絡かと思ったけど、どうやら頼んでいた相手からの連絡みたいだ。私はその通知を押し、メールを開く。そして、その内容に私はふふっと思わず笑いをこぼした。
「(良かった。…でも、結局拠点は一つだけじゃないのかぁ…。あー、もう…)」
何とか今回の計画の主犯を捕獲できたと、淡々とした一言だけで安心ができる。やっぱり、私の仲間は頼りになるわぁ…。目的が分かっているからずっとついていくって言ってくれただけはあるよ、あの人たちは。
…私はそこで目を動かして列の状況を確認する。とりあえず、落ち着いただけあって誘導はスムーズに進んでいるみたいだ。でも、イベントが再開することは無いんだろう。あったとしても、色々と運営陣が対策を講じた上での後日やり直しがベストだと思うけど。
「――澄玲、来てもらってもいい?ここにいる奴らはあの子たちに任せてもいいよね?」
「…奏音?べ、別にこいつらは任せて問題ないというか、そのつもりで彼女たちを連れてきているから大丈夫だけど」
スマホをしまって私は列から離れる。そして、気絶させた奴らを一か所に運んでいる澄玲に声をかけた。私のその言葉に澄玲は理解が出来ないのか、困惑した表情を浮かべる。
「何?私、変なこと言ったかな?」
「いいえ…。まぁ、良いわ。着いていけばいいのよね?」
「うん、そう」
首をかしげてそう聞き返した私に、澄玲は首を横に振ってそう聞いてくる。私はこくっと頷いて、歩き出した。行く先は、先ほど連絡をくれた人の所。場所は聞いてないけど、想像はつくし、いなければ電話をすれば済む。
「…澄玲、今回の事なんだけど」
歩きながら、私はふと一つ心配なことを思い出す。そして、その足を止めることは無く後ろをついてきている澄玲にそう切り出した。
「どうしたの?」
澄玲も足を止めることなく、そう聞き返してくる。
「きっと公言はするのよね?いくら西の街で起きた事件だとしても、取締組織が関係している以上は」
「そうね。可能な限りの説明を国から求めらると思うわよ。毎回、そうだから」
やっぱりそうよね。そうなるよね。となると、一番心配なのは私の協力体制について触れられるところだなぁ…やっぱり。
「…私の事について話す?」
「奏音の事?まぁ、そうねぇ…。私たちは協力者がいるのに、その人をないがしろにして自分たちだけの手柄を立てることはしない様にしているわよ」
「そう…だよね…」
私は澄玲の回答を聞いて、そっかぁと頭を抱えそうになる。実際、歩いているからそんな行動はとらないけど。
でも、それで首を縦に振るわけにはいかない。必要以上に目立つのは避けたいし、この立場を今手放すというのは流石にリスクが高すぎる。
「澄玲、わがままはどこまで通せる?」
「内容次第ね。どうかしたの?様子がおかしいように見えるわ、奏音」
「そう?まぁ、それなら一つ頼みたいことがあるの」
目的地が近いため、私は後ろを振り向いて足を止める。そして、真剣な表情で澄玲と向き合って、口を開いた。
「今回のこの協力の件、私やこれから会う相手の事とかについては一切口外しないでほしい。あなたたちの手柄になって目立つ分にはこっちにとってもメリットが大きいのよ」
それだけではないけど、取締組織だけがよく目立つ分にはいいことの方が多いのは事実。少し派手に動いてもその後取締組織がまとめてくれれば、完全に私や仲間が目立つことは無くなるからね。
「…なるほど」
私の頼みに、澄玲はそれだけ答えると考え始める。澄玲たちにも何かあるんだろうけど、これは譲れないから何とかしてもらいたいかなぁ。
「本当は一番先に言うべきだったんだろうけどね。事件解決の事で頭がいっぱいで、 この重要なことを話すのを忘れちゃってたわ」
「本当よ。それに、そんな条件を急に出されるなんて予想してなかったわ。…でも、こっちとしても予想している部分があるから、大丈夫よ。その条件、呑むわ。その代わり、この協力関係を続けてくれるとこっちとしても助かるんだけど」
急にこんな話をしてしまったことを謝らないと。と、私はそんな言葉が口をついて出てくる。そんな私に苦笑しながら、澄玲は最高の返事をしてくれた。まさか良いと言ってくれるだなんて思っていなかった私は驚いた表情を浮かべる。
でも、代わりに協力関係の継続を澄玲は条件として出した。うーん…。でも、この関係は長くて後2週間ほどしかないし、それぐらいならいいかな。
「わがままを聞いてもらうんだもの、それぐらいは良いわ。とはいっても、ずっとは流石にお断りよ」
私は澄玲の提案にこっと笑って首を縦に振って、その条件を呑む。でも、ただでうんとは言わない。だから、私は期間を提示することにする。
「建国祭が終わるまでの間なら協力する。それか、その魔法復活の件がひと段落するまで。それでいいならいいわよ」
…と。
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