『パーティ①』

石田カナは我儘だ。欲しいものは絶対に欲しいし、自分のものになったら手放さない。だから誰にも渡さない。ヤンデレ気質があるのかもしれない。



でも、それでもよかった。石田カナは我儘で傲慢でずる賢い――と、言われても仕方がない性格をしているが、そんなことはどうだっていいのだ。



愛する人と一緒ならそれでいい。

たとえそれがどんなに歪んだ愛だったとしても――。



△▼△▼



仕事は順調だった。妊娠してから復帰した職場では、周りの人たちも優しくて働きやすい環境だった。父親も何も言わないし、幸せだ。子育ては大変だが、その分だけ頑張ろうと思うのは――、



「(透さんとの子どもができたから……)」



そう思うだけで力が湧いたし、仕事も頑張れる。不思議だと思う反面、これが恋なんだなぁとも思った。そして今日は久しぶりの休みなので、久しぶりに喫茶店へ行った。



このお店には何度も来ているのだが、いつも同じ席に座ってしまう癖があった。窓際の一番奥にあるテーブル席である。そこは日当たりがよく、暖かい場所なのだ。

注文したコーヒーを飲んでいる時だった。



「よっ。お久しぶり」



聞き覚えのある声がして顔を上げると、そこにはスーツ姿の男性がいた。周りから見たらめっちゃくちゃカッコいい人に見えるだろう。実際、周りにいる人達からはチラ見されていたりする。


しかし、カナにとっては――



「お久しぶりね、鈴木……ああ、鈴木じゃなかったわね。氷室になったんだっけ?」



「ああ。そうさ。念願の結婚が出来たんだぜ?一応、石田……じゃなくて松崎に報告しようと思って来たんだよ」



そう言いながら氷室春人はドヤ顔を浮かべる。別に自慢することではないのだが、何となく腹立たしかったので、



「痛っ!デコピンすんなって!」



思わず、デコピンしてしまった。

春人はカナの婚約者だった人だ。今は婚約破棄をしてそれぞれ別の人嫁いでいる仲だし、遠慮もなく話せる関係になっているのだが――。



「で?わざわざ私の休みを潰してまで、何をしたいわけ?くだらない内容だったら怒るけど?」



「そんな重要な要件じゃないって…たださー、透さんだっけ?その人にカナをお願いーって言われたからさ……」



「……?どういうこと?」



意味がわからなかった。そんなことを春人に言う透もそうだが、何故それを春人が承諾するのか……分からなかった。すると春人は苦笑いをしながらも、



「俺も意味がわからなかったんだけど。理由を聞いても意味がわからない答えしか返ってこないしさ…面倒くさいから、呼んだわ。俺だって貴重な休みなのに……」



「透さんが私に?マジで?てゆうか、あんたと透さん知り合いなの?初耳なんですけど!?」



「まあ、色々と、な。てゆうか、この役割俺じゃなくて――」



ブツブツ文句を言っているが、カナには分からない。どういうことだろと思っていると、



「あ……もう…出来たんだ。これ、俺がこいつのこと連れ出す意味あったかな……」



「ちょっと待ってよ。話が見えないのだけど?」



意味が分からず混乱していると、春人は会計を済ませ、店へと出ていった。



△▼△▼




「ね、ねぇ、あんたに奢って貰うとか私が惨めになるだけじゃん!」



「いや、今日はいいって。それにお前の旦那から頼まれてるし」



何処に向かっているのか全く分からないけど、春人はついてこい、と視線で訴えかけてくるため仕方なくついていくことにした。

暫く歩くと、とあるホテルに着いた。



「……何でホテル?まさか私のことを襲う――」



「んなわけねーだろ。和馬以外は抱かない主義だから俺は」



「ちょっとした冗談じゃん……。でもなんでここ?」



「パーティだよ。パーティ」



「何のパーティよ……?」



パーティと言われてもいまいち想像出来ない。一体どんなパーティなのか考えているうちに、



「そういうのいいからささっと入れ。お前は今日の



「……私が主役?何で?え?どゆこと?」



訳が分からなかった。春人がここに連れてきた意味も、自分が主役だということも、何もかも理解出来なかった。春人が『ささっと入れ』と言ってきたため、とりあえず中に入った途端――。



「……へ?」



目の前に広がる光景を見て、一瞬固まってしまった。そこには大量のドレスがあった。どれもこれも綺麗なデザインのものばかりだ。



「えーと……これは?」



「あ、俺、先に行ってるから。ドレス担当のスタッフに聞けよー。終わったらスタッフが案内してくれると思うし」



そう言って春人はそそくさと行ってしまった。残されたカナは――。


「はい。では、メイク担当の者が来るまでこちらでお待ちください」



スタッフの指示に従って椅子に座ってメイクをさせられ、ドレスも選んだ物を着せられ、髪をセットされて、



「では。ここに来てください。ここにみなさんがお待ちですので」



と、言われて付いて来た場所は会場だった。



「今日って何の日だったっけ……」



こんなパーティに呼ばれるような記念日なんてないはずだし、真面目に心当たりなんて――と、思いながらも、カナは扉を開くと――。



パンッ!パァン!! クラッカーの音と共に紙吹雪が舞い散った。そして、そこには――。



「カナ」



中心に立つのはスーツ姿の透が花を片手に持ちながら微笑んでいた。状況が全く分からず、ポカーンとしていると、



「カナ、誕生日おめでとう!」



ニッコリと笑みを浮かべながら祝福してくれた。



「た、誕生日……?あっ!!」



そういえばそうだった。すっかり忘れていた。自分の誕生日を。

すると、春人はニヤリと笑い、



「だから言っただろ。今日はお前が主役だって」



そう言いながら春人は笑いながらそう言った。

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