十話 『鈴木春人』

春人視点です。BL描写があるので注意してください



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鈴木春人はこの世の全てを手に入れた男

だった。

容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能。おまけに実家は金持ち。まさに完璧という言葉が相応しい男で、周りからは羨望の眼差しを向けられていたし、異性からもモテていた。



側から見たら正に勝ち組。だが、本人はそんなものどうでも良かったのだ。

欲しいものは手に入れる。金も女も地位も名誉も。ただ一つ、手に入れられないものがあるとすればそれは――。



「春人……おはよう!」



そんなことを思っていると、突然背後から声をかけられた。

振り返るとそこには親友である氷室和馬がいた。彼は春人の数少ない友人の一人だ。

彼もまた春人に負けず劣らずのイケメンであり、爽やかな雰囲気を醸し出している好青年といった感じだ。

身長も高いため女子ウケも良いらしい。



「和馬、おはよう……」



「おはよう……なんだけど……お前またあそこの女子高生手を出したの?……ったく、程々にしとけよ?春香も心配してたし」



春香。春人の双子の姉であり、和馬の彼女でもある少女の名前だ。

彼女はムードメーカーでありクラスの人気者。そして何より優しくて思いやりのある性格の持ち主だ。そして和馬の彼女だ。初めて聞いた時ひどく驚いたし、嫉妬した。




別にそれは親友が取られてしまった……という感情ではない。その逆だ。だって春人は和馬のことが好きなのだから……という気持ちを自覚してしまったからだ。



あのときの気持ちは今思い出しても気持ち悪い、と思った。だって春人は男に恋をしたのだ。しかも親友に。和馬は自分のことを『親友』としか思っていない。そんな奴に恋をしていると知ったときから春人は女に手を出す機会が多くなっていった。



だけど、何度手を出しても満たされない。忘れようとした。だけど、できなかった。あいつらとやっている時でも脳裏には絶対に和馬が思い浮かんでしまう。このままではいけない。早く忘れたいのに、と思ってしまう程春人は和馬のことを思っていたのだ。



正直言って複雑な気分ではあった。自分が好きな相手が他の誰かのものになってしまったし、よりにもよって双子の姉に取られてしまった……と頭の中でそう思いながら、



「……お前だけには言われたくねーよ。この前だって彼女いる癖に女子からお菓子貰ったんだろ?」



春人がそう言うと、和馬は少し慌てた表情になる。ゾクっとした。春香にも見せていない表情をもっと自分に見せて欲しい。泣いている顔も笑っている顔も和馬なら愛せるのに、と思うがそんな思いは絶対に口にはしないと決めている。




「…あれはその……勉強教えてくれたお礼だったし……断るのもどうかと思ったし」



「ふーん?そうなんだ。彼女いる癖にそんなことするだなんてやり手だなー、どうせベッドの上でお勉強したんだろ?」



「いや、何言ってるの!?普通に机の上だよ!?」



仲の良い友人と周りには見えるのだろうか?春人はそう思いながら、心の中でため息を吐いた直後……



「……はい!席に着いて」



先生がやってきた。…成宮茜。春人達の担任の先生だ。茜先生は生徒達から慕われている。



美人で頼りのある先生と一度やってみたいと思う生徒も少なくはなく、ちょかいを出す奴もいたがその生徒達は停学を食らう羽目になっていた。



とかいう春人も実は先生を手を出そうとした一人なのである。しかし、先生を手に出そうとした生徒達が停学を食らっていた為先生に手を出すのを諦めた。和馬もこの学園生活を終わらせてまでやりたくはなかった。



だって和馬と話したり遊んだりするという時間は女とやる時間なんかより優先することだ。それは『やり手』の鈴木春人ではない。普通の男の子でいられる普通の時間なのだから……



「…石田カナです。よろしくお願いします」



そんなことを思っていると、声が聞こえてきた。……転校生だろうか?しかし、転校生だというのに事前に情報が入ってこないとは珍しい……とも思ったがそんな考えはすぐ掻き消され、目の前の少女のことを見てしまう。



「(……美少女)」



お世辞でも何でもない素直な感想だった。この容姿を見たら、誰だって『美少女』と答えるだろう。



「(……綺麗だな。この子を襲ったら、この子はどんな声をしてなくのだろう?)」



それはほんの興味だ。和馬みたいに奇妙な魅力を感じていた。



「(……少しだけからかってみるかな?)」



どうせ、一夜限りの付き合いになるだろうけど。春人はそう思ったが……このときの二人は知らない。まさか、あんな関係になるなんて……だけど、彼女たちがそれを知るのはもう少し後のお話…

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