宮本 樹里
花
第1話 宮本 樹里
シャワーを浴びる。温かな湯気がお風呂場全体に行き渡り、鏡は曇った。
その鏡をボディソープの着いた手のひらで拭うと、アタシの全身が 鏡に映し出された。
アタシは自分の体が嫌い。だから体を洗う時は、沢山の泡で愛でるように撫でる。そうするとなんだか肌がツルピカになれるような気がする。
湯船にポチャンと浸かる。甘い入浴剤の匂いがした。
「ふぅー」
思わずため息がこぼれる。
白い肌の肩に、胸元に、湯船のお湯をかけてあげる。
お風呂あがりは、お気に入りのボディクリームで全身を滑らかにしてあげる。
適量を首すじに、胸元に、腕に、アタシの腕が届く範囲で、上半身全体にぬる。
次は下半身。
足に直接クリームを付け、足元から上に向かってマッサージ。肌のツヤや弾力を確かめる。
もちろんヒップも同じように念入りに…。
「キレイになーれ。キレイになーれ」
呪文のように唱える。
毎日の日課だ。
アタシは現実を受け止める為に、もう何年もいや、生まれた時から頭を悩ませている。
頭と言うか、ハートかもしれない。
✤✤✤
アタシの名前は【宮本 樹里】。高校3年生。
身長が172センチある。コンプレックスの中の一つだ。
ある日、従姉妹の結婚式に出席する為に東京に行き、違う従姉妹の務めているエステに遊びに行く途中で、「モデル興味無い?やってみない?」
と、名刺を渡されたのだった。
アタシの家は東京から新幹線で3時間もかかる場所にあるし、バリバリの農家だ。お米を作っている。自家製野菜も作っている。
アタシも物心着いた時には、田んぼを手伝っていた。
春に苗を植え、初夏から真夏にかけては水の管理をし、あちらに水が行かないように、自分の田んぼに来るように、朝から夜まで水の取り合いをしている。
秋は農繁期。稲刈りがある。例え天気が良くても前の日に雨が降ったり、稲に着いているお米の粒の状態が悪ければ、稲刈りは出来ない。
天気との相性が良くなければ、稲刈りは出来なかった。
父親はいつもカリカリしていた。兼業農家ともあって、タイミングを見計らい田んぼの管理をしていた。
そんな父親に叱られないように、母親と3才上の姉と、アタシは、いつも父親の機嫌を伺っていた。
そんな家からアタシは早く出たかった。
3才上の姉、瑠璃は、授かり婚で19才でお嫁に行った。
『授かり婚』なんて名前が着いていると、アタシは何だかカッコよく聞こえた。それと反対に、アタシが家に残らなければならないの?と疑問を持った。
瑠璃が彼氏を連れて来て、赤ちゃんが出来たので結婚したいと言った時は、ひどい修羅場になった。
クソが着く程真面目な両親は、怒りを抑えられず、特に父親は今時珍しいく、テーブルをひっくり返す程怒りをあらわにしていた。
そんな時にたまたまである。
従姉妹の結婚式に招待され、東京に行き、時間があるからと寄り道程度でエステに行く途中だった。
「モデル?ですか?」
アタシはすぐに反応した。
「そう、モデル。さっきから歩いて来るところを見ていたけど、とても姿勢がいいし、なんか光る物を感じたんだ。インスピレーション?みたいな…」
そう言ってアタシは彼から名刺を渡された。
高校2年の夏休みの出来事だった。
【吉田 和希】。彼の名前が書いてあった。
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