#18 仲間たちとの初めての戦闘
ベンチへと辿り着くと、五、六箱あったピザはもう最後の一切れしかなくなっていた。
まさか、平らげたのか?この子が……
手足のか細い少女は、その最後の一切れをぺろりと口に入れ飲み込んだ。
「あはは……」
笛野宮さんは空箱をこちらへ見せて、困り眉で笑った。
「美味しかったか?」
鈴木レイジが訊いた。
「うん。美味しかった。」
「それはよかった……」
そう言いながら鈴木レイジの顔は、心底悔しそうにしわくちゃになっていた。
すると少女、鈴木ユウリは僕のほうを見て言った。
「安心して。私たちの戦いが終わったら、フィブラがまたピザを買ってきてくれる。」
「え、ああ……。……?私たちの戦い?」
「戦うでしょ?これから一緒に動くなら、私のことも知っておいたほうがいい。」
少女はスマホをこちらに見せながら、ダウナーな声で言った。
「ああ、うん。」
「サクラダはよく”ああ”って言うんだね。好きなんだね、”ああ”って言葉が。たくさん使ってあげてね。」
「いや、そういうわけじゃないけど。」
「なら、もっと返事のばりえーしょんを増やしたほうがいいよ。」
「ああー、あ。…………はい。」
すると笛野宮さんは言った。
「ユウリちゃんのフェノウェポンはレイジ君のそれに比べて奇襲性が高い。敵同士の実戦ならともかく、私たちは仲間だ。がちがちの殺し合いに発展されたら非常に困るから、今回はフェノウェポンの仕様を先に話させてもらうね。いいかな?」
「うん。それがいい。」
鈴木ユウリは頷いた。
「おい!それはつまり、俺の力が弱いってことかよ!?」
鈴木レイジは笛野宮さんに言った。
「そんなことは言っていないよ。私はユウリちゃんが強いからすごいねー!えらいねー!って言っただけだよ。」
「フン!じゃあいいけどよ!」
鈴木レイジは嬉しそうに鼻息を鳴らした。
笛野宮さんは気を取り直して話し始めた。
「まとめて話そうか。レイジ君のフェノウェポンは自由自在に出力を増減できる脚力と、フードを被っての火吹き攻撃が特徴の、PHENO-WEPON
ユウリちゃんのフェノウェポンは翼による飛行能力と、桜田君のサイズ・サウダーデでいうところの鎌の刃の部分に近いような光の形をとって発現するツメによる攻撃が特徴の、PHENO-WEPON
型番が同じ0-2なのは本人たちが一緒がいいと言ったからだと、笛野宮さんは付け足した。
鈴木ユウリはベンチから立ち上がるとフェノウェポンを起動させ、翼竜を連想させるような翼を出した。
「二人とも、パーカージャケットのような衣類が合わせて発現するね。これはサイズ・サウダーデでいえば持ち手の部分にあたる。」
「それじゃ始めよう?」
鈴木ユウリはそう言って、地割れではちゃめちゃになったコートの上を軽い足取りで跳ねながら定位置に向かった。
僕も、転ばないようにどうにか歩いていく。
そして、笛野宮さんがホイッスルの効果音を再生する。
鈴木ユウリは、その細い体躯に似合わないほど屈強な翼をはためかせたと思うと、上空へと飛行した。
本当に……飛んでる……!
僕はフェノウェポンを、今度はすぐに起動させる。
こんな足場で無暗に移動するのは得策ではない。
幸い相手はツメで近接攻撃するしかないので、近づいてきたとき確実に迎え撃つことに専念しよう。
鈴木ユウリはすぐさま、とてつもないスピードでこちらに急降下してきた。
しかしその時だった。
「桜田君!伏せて!!」
笛野宮さんの声。
そちらを向くと、なんと黒いフードを被った鈴木レイジが炎をこちらへ射出せんとするところだった。
は!?と思いながらも、僕は鎌を傘のように頭上に向けつつ、伏せた。
すると、グギィイイイイイイイイッッ!!!!!!!っという、明らかに人ならざる絶叫が、僕の背後でエコーするように響いた。
振り向くと、巨大な化け物が二体いた。
一体を鈴木ユウリが鋭い爪で頬をきりつけ、もう一体は鈴木レイジの炎が直撃してのたうち回った。
そこにいたのは、コンクリみたいなグレーの肌に釘でも打ちつけたかのような丸い模様。歪な花びらのようにも、縛り付けられたみみずの集合体のようにも見える鼻先。
そんな化け物だった。
僕が少し化け物たちから距離をとると、鈴木ユウリ、そして鈴木レイジが隣に駆け付けた。
「なんであんなでかい音に気づかねえんだよ!?地面からでけえ音出して出てきてたじゃねえか!」
鈴木レイジは僕に言った。
そんな音は全く聞こえなかった。
目の前の戦いに集中しすぎてしまっていたのだろうか。
「ご、ごめん」
僕はつい謝った。
「謝る必要はないよ桜田君」
「笛野宮さん」
笛野宮さんの声が、フェノウェポン越しに聴こえてきた。
「そいつら、どうやら周囲の音を打ち消す特殊な超音波を出しているみたい。
対象にできる範囲は狭いから、同時に打ち消せるのはせいぜい一人みたいだけど……いや、二体いるなら二人か。
でも、そんなのもはや関係ないね。三人のフェノウェポン同士をフェノメナルニューロンを介して直接繋げた!これで私たち同士の会話には問題ないはずだよ!ただし環境音が聴こえなくなる恐れは未だある。気をつけて。」
「はい、ありがとうございます!」
僕は返答した。
「うん!
……たった今、当該フェノメノン二件を”コンクリートモーラー”と命名する。
桜田永時、鈴木礼歯、鈴木結履、以上三名は対策にあたること。」
笛野宮さんは通達した。
「フンっ、ちょうどよかったぜ。これで三人揃っての初めての戦闘といくか!!」
僕も鈴木兄妹も、武器を構える。
左右から二体のコンクリートモーラーが迫ってくる。
突然背後から細い腕に掴まれた。
「!?」
直後、僕の体は鈴木ユウリのか細い腕に上空へと投げ飛ばされた。
「うわあああああああああ~!?」
真下で、レイジとユウリがコンクリモーラーの攻撃を下がって避けるのが見えた。
レイジは片方を地割れで足止めし、既に燃えている方をユウリがかく乱する。
僕は自身のフェノウェポンを、バイクのマフラーから噴き出す排気のごとく光芒を噴出させ推進、まず燃えていないほうのコンクリモグラを巨大な鎌で切り裂いた。
しかし切り裂いたモグラの身体は液体のようにぐにゃりとうねり、上半身と下半身が同時に僕へと襲いかかろうとする。
すると横から火炎放射。
コンクリートモーラーの身体は、灼熱に焼かれて溶け落ちた。
「残ってる方はもう外側に火がついてるから、あとは中身までぶっ切るだけだ!!」
僕は割れた岩場を飛び、鎌を振り上げる。
燃え盛るコンクリートモーラーの体へ着する前に、巨大にした鎌を振り下ろした。
切断。
その勢いで自身の身体を宙返りさせられながら、後方を見る。
真っ二つになったモグラの化け物の身体は、溶け落ちていく。
そしておそらく僕の体も、このままだと頭から地面に激突する。
「うわあああああああ~!?」
叫んだ直後、トスっという音とともに何者かに受け止められた。
それは鈴木ユウリだった。
「あ、ありがとう」
「……」
ユウリは僕を降ろした。
するとそこに鈴木レイジがやってきた。
もしかしたら、妹に触れるんじゃねえ!とか言われるのかな。僕は抱き止められた側なのに。
「おい」
「何?」
僕が訊き返すと、彼は拳を軽く僕の近くに向けた。
「やったじゃねえか、エイジ!」
レイジは、にいっと笑った。
僕は一瞬あっけにとられたが、すぐに自分も拳を突き返した。
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