第15話

 ボッズが気を失った瞬間に俺は剣を振りかぶった。


 ボッズを殺せば、俺は妖精契約を解除されるかもしれない。


 それでもいいと思った。


 俺が剣で斬りかかった瞬間に魔法の壁で跳ね返された。


「終わりじゃ!本当に殺し合いをさせるわけがないじゃろう。どっちが勝っても止めとったよ。ふぉっふぉっふぉ!」


 ……冷静に考えれば、そうなるか。

 だがボッズがいる限りアイラの危険は無くならない。


 アイラが泣きながら俺の胸に飛び込んだ。


「う、うえええええええんん!生きててよがったよおおおおおお!」


 俺に歓声が鳴り響く。


 ファインたちが俺に駆け寄って来た。


 こうして、夏休みが始まった。




 ◇




【ボッズ視点】


 私はベッドで目を覚ました。


 負けたのか。


 負けた?負けた負けた負けた負けた!


 フィール!許せない!

 この私を騙し、卑怯な手を使って私に勝った気になっている!


「フィールはどこだ!!!」


 手下が走って来る。


「フィールは王家の馬車に乗って出かけました」

「学園を出たのか?」

「そのようです」

「どこに行った?誰と行った?」

「そ、そこまでは」

「行き先を調べろ!探せ!今すぐ動けええええ!!!」


「ひ、ひいい!今すぐに!」


 フィールは学園の外にいる。

 マーリンさえいなければフィールなど敵ではない。


 フィールを殺す。


 アイラは強引に俺の女にする!


「私は!負けていない!あんなものは決闘とは呼べない!フィールの卑怯者が!」




 ◇




【フィール視点】


 俺とアイラはヒロインが用意してくれた馬車に乗り学園を出た。

 ファインのハーレムパーティーと4人の護衛によりアイラの故郷で両親を乗せて俺の住む辺境を目指した。

 当然父の病気は聖女が治した。


 辺境に3人を送る事でボッズの魔の手から遠ざける狙いがある。


 俺はアイラとその両親と共に馬車に乗る。


「今回は助けていただき、本当にありがとうございます」

「夫の病を治して頂き、感謝しかありません」

「いや、まだ安心できないし、治してくれたのは聖女だ」


「いえいえ、アイラからすべて聞きました。何度もアイラを救って貰ったと、しかも妖精契約を結び、戦えば強く、学科は学園卒業レベルだとか」


「フィールは強くなったよ!後はアイラとフィールが結ばれればすべて解決だね!」


 チンカウバインは馬車の中を飛び回る。


「それは良いですね。ぜひ、こちらからお願いしたいです」

「どうかアイラを貰ってやってください」

「そういう話は無事にバイブレーション領にたどり着いてからにしよう」


「フィールは私と結婚したくないの?」

「そういうわけじゃ、でも、ボッズが追ってくる可能性もある。というか追ってくる可能性の方が高い。落ち着くまで油断はできないんだ」


「落ち着いたらいいのかな?」

「そうだな、落ち着いたら話をしよう」


 俺は胸騒ぎがして馬車の窓を開けた。

 後ろから50名ほど、馬に乗った集団が追いかけてきた。


 先頭にボッズがいる。


 護衛やファインたちも戦闘態勢に移った。


「俺が前に出て風魔法を使う!最初は俺とボッズの撃ち合いになるだろう!」

「フィールうううううううう!見つけたぞおおおおお!」


「サイクロン!」


 俺は上級風魔法で竜巻を発生させた。

 竜巻の範囲攻撃を使えば向こうも撃ち返してくるだろう。


 だが、ボッズはサイクロンを使わず、ラインフィールドを使い、サイクロンを突き抜けて飛び込んできた。


 ボッズの後ろを走っていた部下がサイクロンの餌食になっていく。


「あいつ!部下を見捨てたのか!」

「フィールうううううう!」


 ボッズが俺に飛び込んできた。


「震えろ!振動剣!」

「馬鹿め!攻撃した瞬間にカウンターを受ける!」


 俺の振動剣がボッズの結界にヒットした瞬間、ボッズの結界が乱れ、結界の中にカウンターの風攻撃が発動した。


「ぐほおおおおお!!」

「ラインフィールドは風の流れで結界を作る魔法だ!俺の振動剣は風の流れを狂わせる!」


 俺の振動剣がヒットするたびに結界の形が歪み、カウンターが誤作動し、ボッズが結界の流れに捕まって弾かれる。

 ボッズはラインフィールドを解除した。


「俺をラインフィールドだけの人間だと思うなよ!風の魔法剣!そして風魔法で速力をアップさせる!」

「それは俺の方が得意だ!」


 ボッズが3度斬られて地面に倒れる。

 護衛の兵士が前に出た。


「ボッズと倒れた手先の処理は我らが行います!我らの任務はボッズから皆を守る事!これは我らの任務です!」


 ファインたちは手伝うと言ったが護衛は頑なにそれを断った。


 俺達は護衛と別れてそのまま故郷を目指す。





【護衛視点】


「姫様は行ったか?」

「ああ、おい!ボッズが目を覚ますぞ!」


「ううん、ここは?なぜ私に剣を向けている!私は伯爵だ!」

「ボッズ・ウインドソード、貴様は姫と精霊契約者の命を狙った。しかも俺達が連行しようとする中、暴れて逃げ出そうとした。その為俺達は仕方なく追いかけ、剣で斬りつけた。ボッズは死んだのだ」


「なに、を、言っている?」

「よくある事だ。貴様のように国を傾ける存在は連行中に不幸な事故が多発する」


 ボッズの腹に剣が突き立てられる。


「ぐぼお!ぎざまらああぐおおおおお!」


 何度も剣を突き立てるとボッズの息が止まった。


 ボッズは民の恨みを買う行動を取り続けた。

 ボッズが恨まれ勝手に殺されて済む話なら良いが事態はそう単純ではない。

 貴族への恨みは王家への恨みに変換される場合がある。


 そうなれば反乱者が発生し、鎮圧の為に兵士が駆り出される。

 兵士としては戦争や争いが起きず、平和だが必要とされ続ける状態を好む。

 

 更にボッズは姫騎士様と妖精契約者を殺そうとした。

 仮に誰かが殺されていた場合護衛をしていた我らの責任となる。


 今は護衛が4人だけの状況だ。

 多くの奇襲者を真面目に連れ帰って正式に裁こうとしたとする。

 その途中で脱走されようものなら我らが責めを負う。


 ボッズも、ボッズの手下のほとんどもここで殺す。

 そして意識の無い者を2~3人だけを連れ帰り、情報を引き出す。

 これが一番安全なのだ。


「後はこいつらを縛って連れ帰れば任務は達成だ」

「ああ、早い所、帰ろう。早く酒が飲みたい」

「まだだ、ボッズが間抜けに逃げようとして殺された噂を流す」


 念のため、我らが責められないように街に噂を流す。

 こうする事で安全度は増す。


「その任務、酒場で引き受けるぜ!」


「まあいい、だが、まずは都市にこいつらを引き渡す。それからだ」


 兵士の報告により、ボッズの死は学園中に広まった。


 

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