第12話

大塚の自宅に着いた後私とナツトは夕飯を済ませて話し合いを行なった。

此処暫くはリクとも連絡は取っておらず、今彼がどうしているかさえ分からないと告げると、ナツトは私の顔を見ずに窓側の椅子に腰を掛けて耳だけをこちらに傾けて聞いていた。


リクとは近いうちに時間を見て会った時に離別することを告げると話したが、そう上手く事が進む事は無いと返答してきた。一度でも肉体関係で結ばれた仲は簡単には引き裂くことは出来ない。リクの方も何か考えているに違いないから、今はここで全ての答えが出るものではないと言ってきた。


「何時も思っているんだけど、ジュートは何故親近感を覚えた男と関係を持ちたがるんだ?」

「……」

「答えられないってどういう事?そこが分からないんだよ?」

「あまり深い意味など無い。だが、リクもまた身寄りとは縁を切らざるを得ない状態にあると告げていた」

「何が発端で?」

「キャバレーで働いていた頃、仕送りをした際に差出元がその店からだった事がバレたらしく、再会した時に事情を説明して自分は男色だと告白したらしい。それから疎遠になった。」

「そんな人ならこの世にごまんといるじゃないか。ジュートだって今身寄りがなくて俺と一緒に居るだろう?殆ど言い訳にしか聞こえない」

「最後に会った日、彼の自宅に手紙が届いてたんだが、脅迫状だったんだ。差出人は不明。ただ、今の店で働いている所で出入りしている人物だという事は想定できているみたいなんだ」

「それをジュートが何故関わる?向こうの勝手じゃないか。第三者が顔を出す必要もない。今すぐ別れてくれ」

「別れたら、お前も俺の元に帰ってきてくれるか?」

「……考える」

「俺もお前が嫌いになってリクと関係を持ったんじゃない。自分の過ちは深く反省している。悔い改めるから、また一緒に傍にいてくれ……」


ナツトは立ち上がり寝室に行き荷物を取り出して片づけをしていた。疲れたから先に寝ると言い布団を敷いて襖に背を向けて横になった。


それから数時間が経ち、私も彼の隣に布団を敷いて就寝しようとした時、目覚めた彼が私の腕を掴んできて、隣に入ってきていいかと甘えてきた。私は迷わず良いと返事をすると思い切り身体に抱きついてきた。

本当は今回の出来事で独りでは気持ちの整理がつかずにいてもどかしさを感じていたという。店主の妹夫婦の所に居た時、彼らの仲を垣間見れた時私達の事を思い重ねてその画を眺めては羨んでいたと話してきた。


私の行動のいい加減さをどう受け止めればよいのか、兎に角考える時間が欲しかったのだと訴えて、己の逆上した事にまだまだ幼稚さを感じると言い、私の手を握りしめてきた。彼の頭を優しく撫でると微笑んでくれて肩にもたれて静かに眠りについた。


一ヶ月ほど経った或る日の休日。事前にリクに連絡を取り目黒の自宅に訪ねた。チャイムを鳴らしてもなかなか出てこなかったのでドアノブを引くと開いたので、彼の名を呼びながら居間へ入っていくとベッドに横たわっている彼の姿が目に入ったので近寄ると、顔に数か所 あざができていて腹を抑えながら苦しそうに息が上がっていた。


何があったのか尋ねると先日脅迫状を送ってきたとみられる人物に昨夜呼び出されて、路上で口論となった後数回殴られてきて傷を負ったという。見覚えのある人物でやはり店に出入りしている者だと言っていた。

警察には連絡をしたが未だ行方不明のままだという。病院で手当てをした方がいいと告げたが、暫く自宅で療養していたいと言い、私は居間の引き出しにあった救急箱を出して、流血している傷口の手当てをしてあげた。


「自分で防御できなかったことが情けない」

「そんな事は無い。ところでその人物とは面識はあるのか?」

「前に働いていた店で出入りした奴だ。僕を指名で呼んでは酒を交わしながら色情に触れてきた。色狂いに近い野蛮な相手だった。オーナーも出入り禁止にしてもしつこく僕に付きまとってきたんだ。或る日を境に来なくなったから安堵していたが……今になってまた近づいてきたことには恐ろしさを感じたよ」

「暫く外に出るのも不安だな。用心した方がいい。」

「少し我儘わがまま言ってもいいかな?」

「何?」

「昨日から何も食べていないんだ。何か作れそうかな?」

「分かった。買出しに行ってくるから待っていて」


近くの商店街へ食材を買いに行き自宅へ戻り台所の並びになる棚から鍋を取り出して、といた白米を火にかけて入れ粥を作ることにした。

出来上がる直前に溶き卵としらすを入れひと煮立ちして火を消し、お椀に装った上から万能ねぎをまぶした。

ベッドの横にある小型の食卓に粥を持っていきリクに差し出すと立ち込める温かな湯気に顔が綻び、ひと口ずつゆっくりと食べ始めていた。


「……美味しい。粥なんて何時以来だろう。」

「食欲があって安心したよ。数日分の食材や惣菜も冷蔵庫に入れておいたから、後は任せるよ」

「こんな時にすみません。貴方が居て良かった。助かります」

「ナツトにも今回の事は伝えておく。油断は出来ないからな。俺達を頼ってくれ」

「ありがとうございます」


彼と会話を交わした後私は自宅に戻り、ナツトに報告して彼の様子を見させてほしいと頼むと承諾してくれた。

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