三体の神と掟と人間と~目的の為なら手段は選ばぬぞ~
桜桃
序章
第1話 鬼と出会い
―――――――ん。
なんだ、俺は今、何をしてる。
柔らかい場所で横になっているような気がする。体を動かすと、ふわっとした柔らかい感覚。これはベットか?
重い瞼を開けて、上半身を起こすと、体にかけられていた白い掛け布団がずるりと落ちた。
「何が…………」
「起きたみたいじゃのぉ。体の方は大丈夫かや?」
っ、女性の声?
周りを見回すと、見覚えのない部屋の中に、一人の女性が俺の方に微笑みかけながら立っていた。
部屋は図書館のように、本棚が壁を隠し立ち並んでいる。天井にはシャンデリア、俺が寝ていたベットは、上位ランクの人達が寝ていそうな豪華な物。
床はフローリングで、魔法陣のような模様が描かれていた。
忙しなく辺りを見回している俺に、女性は近づいてくる。やば、さすがに失礼だったか。
「あの、すいません。無視したわけでは……」
「気にせんで良い。慣れん地で戸惑うのは仕方がないからのぉ」
当たり前のように俺が座っているベッドに腰掛けた女性は、薄い笑みを浮かべている。
色白の肌に、大きめの神主のような服。でも、少しアレンジされているな。ズボンは七分丈の物で、色は全体的に黒。
白銀の髪は肩くらいまでの長さ、俺を見てくる瞳は赤。あ、でも右目は黒だ。オッドアイという物か。
そして、俺が一番気になっているのは、人間にはあるはずもないものが額から二本、前髪の隙間から生えている角。
「これが気になるか?」
女性は額を指さしながら、楽し気に問いかけてくる。まるで、俺の心の中を読んだようなタイミングで聞いて来たから、さすがに心臓が跳ねてしまった。
「
ケラケラ笑いながら話す内容では無いですし、気軽に触りませんよ、怖いので。
それより、ここはどこなんだ。何で俺はこんな所にいる、今まで俺は何をしていた。
思い出そうとしても、霧がかかった様に頭の中がもやもやして思い出せない。思い出せるのは、俺の名前と年齢と。あとは性別…………他が、思い出せない……だと??
え、家族構成は? 友達とか、今まで歩んできた人生とか。
……………………駄目だ、なにも思い出せない。
「無理に思い出す事はない。ゆっくりとでよいぞ、童は主がここに住むことには大歓迎じゃからな」
「……………………貴方、何か知っていますよね」
「初めて声を聞いたかと思いきや、開口一発目がその言葉でよいのか? もっと違う言葉でやり直しても良いぞ」
「なんでもいいです。ここはどこですか、貴方は誰ですか。なぜ俺はこんな所にいるんですか、俺の記憶をどうしたんですか」
「まぁ、落ち着くのじゃ。時間はたっぷりある、ゆっくり話そうではないか、人の子よ」
俺の焦りなど眼中に無いのか、女性はまぁまぁという手つきで、俺を落ち着かせようとしてきた。
落ち着いてなんていられないっての。俺は本当にこの状況がわからないんだ、教えてくれ…………。
「まぁ、それでも情報は少しでも欲しいと思うかぁ。では、まず、一つ目の質問から答えようかのぉ」
懐から一本の煙管を取り出し、口に咥えると、空中に白い息を吹かす。
この人――いや、人ではないか。角がある生き物で定番なのは鬼とかかな…………。
この人のことすら、何も分からない……。
「半分正解じゃ」
「…………せめて、俺が口に出してから答えてください。驚くので」
「それは失礼した。これで童が何者かはわかったのぉ」
いや、わかってないから。半分って言ってるじゃん、もう半分はなんだよ。
「次は、ここがどこかという問いじゃが。ここは、童の住処である調書所と呼ばれている所じゃよ。童が勝手に呼んでいるだけじゃがな」
「何なんですかそれ…………」
「童はこの世界に干渉できんからのぉ。童が勝手に作るしか住処がなかったんじゃ、仕方なかろう」
「それで、この豪邸…………? 王族が住みそうなほどの広さの豪邸? 勝手に作ったのに? それは、なんか、すごいですね」
「童じゃからのぉ」
「はぁ…………」
この鬼と話していると、マジで疲れる。それに、俺の質問に答えているようで、答えていないんだよなぁ。上手くかわされているような気がする。
「次に、主がなぜここに居るか。それはな、主が童の豪邸の前に倒れていたからじゃよ? 童が強制的にこの部屋の中に連れてきたわけではないから、疑うようなことせんようになぁ」
「……………………俺の記憶はなぜ無いのでしょうか」
記憶さえあれば、何故ここに居るのかわかるはず。
俺がこんなところに自分から来るはずないし……。
「あぁ、それはなぁ…………。今は答えられんのじゃよ」
「……………………え? な、なんで?」
「今はまだ早いという事じゃ。まっ、安心せぇ。主が望むのなら、元の世界に戻す事も可能じゃ。じゃが、今は童に協力してくれんかのぉ? 協力してくれたら、帰すことも考えるから、頼む」
「……………………え?」
立ち上がり、鬼は両開きの扉に向かう。俺が戸惑って動けないでいると、ドアノブを握りこっちを向いた。
「そうじゃ、童の名前を伝えてなかったのぉ。童の名は”ハン”。これからよろしく頼むぞ、”
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