第3話「カチコミますわよッ、魔王城!(2)」


 目的地へと向かう馬車の中。

 夜食のサンドウィッチを完食した後、小鳥姿のハクトが淹れてくれた食後の紅茶を堪能していると。ひと仕事を終えたメイド服姿のシュゼットがようやく帰ってきた。


「ルミエラ様、片付きましたよ。ハクトはお戻りっ」

「ピィ!」


 ハクトは元気よく答えるなり、小さな翼をぱたぱた羽ばたかせて、シュゼットの頭の白いヘッドドレスへと潜り込む。あの中が、彼のいつもの定位置なのだ。




「……ところで、貴女は何を見つけたのかしら?」


 引き続き紅茶を楽しみつつ私がたずねると、シュゼットは澄ました顔で答えた。


「この馬車が狙われておりました」

「ふぅん、誰に?」

「馬に乗った盗賊団です」

「そう…………で、は?」

「確実に“何らかの組織”の息がかかっているかと。構成員は11名。服装は『野盗』を装っておりましたし、装備品から所属を判断することは不可能でした。しかし統率が取れすぎているなど明らかに不自然な点が多く……立ち振る舞いから見るに『騎士として訓練された部隊』で間違いないでしょう」

「まったく、詰めが甘いんだから……」


 どうせ相手は「たかが小娘!」とか舐めてかかってきたんでしょ。

 誰の仕業か、おおよそ想像できてしまうわねぇ。


「……それで貴女の対応は?」

「我々が屋敷を発った頃から、相手集団は後方数百mあたりを付かず離れずで追跡してきていたのですが、先ほど急にこちらとの距離を詰めつつ殺意をぶつけてきた……つまり『相手の体制が、監視から襲撃へと移行した』と感じとったため、それがしは速やかに迎撃いたしました」

「まさか殺してないわよね?」

「ご安心ください、ルミエラ様。馬も含めた全員を『我が一族の秘術』で眠らせた上で、道の横へと転がしました。さらに追跡用の使い魔も忍ばせておりますので、直に所属も判明するはずです」

「懸命だわ。まだここは我が伯爵領である以上、どこかの騎士を下手に殺してしまっては後が面倒ですもの……」


 相手は11名、しかも騎士として訓練された手練てだれ。

 にも関わらずシュゼットのエプロンには血や泥がついた様子はなく、先と同じく真っ白なまま。本人も涼しい顔をしているあたり、そこまで苦戦はしなかったらしい。


 そんなシュゼットがいるからこそ、“今回の計画”を実行に移そうと決めたのだ。

 彼女が隣を守っていてくれさえすれば多少の無茶もフォローしてくれるだろう。


「ねぇ、追手は他にいるの?」

「現状おりません」

「先の“盗賊団”とやらはどれぐらいで目覚めるかしら?」

「数時間程度は眠ったままのはずです」

「じゃ今のうちに距離を稼げば巻けるわね!」


 元々それなりの速度は出ていたが、念のため御者へ「可能な限り最初の目的地へ急ぐ」よう指示を出す。これからの私たちの動向を相手方に知られたくない以上、あまりついて来られるのはよろしくないもの。




 馬車のスピードアップを体感したところで、私は“本題”に入ることにする。


「先の話の続きよ。今回、対外的には『魔王討伐』を目的として出発したわけだけど『わたくしは魔王を倒すつもりはない』、そこまでは理解できたかしら?」

「はい、ルミエラ様」


 紅茶のポットを片手に頷くシュゼット。


「なら実際はというと、『勇者任命神託を王家に撤回させる』、これが最終目的よ」

「しかし相手は王家です。そう簡単にいくでしょうか?」

「いくわけないでしょ。前提として、我が伯爵家とユベール王家との勢力差は悲しいほどに歴然だもの。奴らと渡り合うためには、まず“それなりの勢力”を味方につけて協力してもらわないと、交渉の土台にすら立てないのが現実よ……他にも色々仕込んで、最終的には『“撤回せざるを得ない”と王家が判断するしかない局面』の完成を目指すわ。んで、そのついでにしてきちゃおっかなァ、なんてね♪」

「一儲け? この状況で?」

「あら、この状況だからこそよ! 別で準備していた事業計画のうちの1つが、たまたま“魔族絡みのヤツ”だったの。これをベースにちょこ~っとアレンジすれば、勇者問題も解決しつつ、元の計画よりも格段に収益アップできるはずなのよねぇ……あ、さっき話した貴女への特別手当ボーナスも、こっちの事業の利益をもとに算出する予定よ。うまくいけばいった分だけ割合で増額するわ!」

「なんと!! それは素晴らしゅうございますね……!」


 おっ、シュゼットが食いついた。

 ニヤニヤを隠しきれてないあたり、だいぶ前向きっぽいわね。



「ちなみにルミエラ様。一体どなたに協力を依頼するのでしょうか? 『ユベール王家に渡り合える程の勢力』となると必然的に相手が限られてくるはずですが」

「うふふふ……わたくしはね、するつもりよ!」


「えッ――」


 先とは一転。

 シュゼットの顔は一瞬にして青ざめてしまった。

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