第5話 左手の指輪

 一緒に出かける事は出来なくとも、平日は毎日家に帰ってくるヒロ。二人とも会社から帰ってきたら一緒にご飯を食べて、楽しくおしゃべりをする。ナナは少しずつ気持ちを切り替えた。

「大丈夫。買い物くらい、一人でもできる。こうやって、毎日ヒロと会っておしゃべりが出来ればそれでいい。私達はずっと一緒に暮らしていくのよ。ヒロがいくら男の人と大恋愛をしても、この国が同性婚を認めない限り、ヒロがこの家を出て行く事はないんだから。」

 しかし、ナナの思いも虚しく、ヒロはナナを打ちのめす。

 ある日曜日の午後、家に帰ってきたヒロの指に、ダイヤモンドの指輪がはめられていた。

「あれ?それ、どうしたの?もしかして、品川さんからのプレゼント?」

ナナが大袈裟に驚いてみせると、ヒロははにかんだ。

「うん、そう。」

可愛い、とナナは素直に思った。嬉しそうにはにかむヒロ。左手の指輪を右手で

そっと包みながら。

「あのね、ナナ。実は、品川さんにプロポーズされたんだ。」

ヒロがそんな事を言った。

「え?プロポーズ?」

ナナは何をどう考えればいいのか、よく分からなかった。親友に恋人が出来て、プロポーズされたと言われたら、おめでとう!と言うのが普通だ。だから、今それを言うべきなのだろう。いや、でも何かが違うような・・・。

「ちょっと待って。プロポーズって、つまりヒロと品川さんが結婚するって事?」

「うん。」

ヒロは相変わらず嬉しそうだ。本当ははしゃぎたいのに、我慢して抑えているように見える。

「いやいや。でもさ、ヒロは私と結婚してるんだし、日本では男性同士で結婚って出来ないでしょ?」

二重婚も同性婚も、日本では認められていない。

「そう。だからね、僕たち台湾へ行って結婚する事にしたんだ。それで・・・ナナ、お願い!僕と離婚して。」

ヒロが両手を合わせ、拝むように目を閉じてそう言った。

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