第六章 107 転入生はどうしても目立つ
「今日からこの2-1に入ることになった、カリナ・カラーさんです。みなさん仲良く一緒に学びましょうね。では自己紹介を御願いします」
「お、あ、あた、『あたし』はカリナ・カラーと申します。皆様これから宜しくお願い致します」
グリーンのロングヘアをした先生に促されて、ぺこりと頭を下げる。貴族の令嬢の挨拶、カーテシーだっけ? あれをやらされないで良かった。この短いスカートだと全部見えてしまう。直前に聞いておいて安心したよ。知らずにやってたら痴女だった。
「「「「「おおおおおおおおおーーー!!!」」」」」
「やったぜ! 欠員が出てたから3分の1の確率でウチのクラスだった!」
「謎の美少女姉妹の真ん中が(゜∀゜)キタコレ!!」
「マジで美人だ、これで勝つる!」
「うわー、本当に美人! 同じ女性でも格が違うわ!」
「あの不思議なツインテールみたいなクセ毛が可愛い!」
「赤毛に毛先が金色とかお洒落ー!」
うわー、思ってたよりも元気で強烈な反応だなあ。まあでも第一印象は悪くないみたいだし良かったのかな? 日本の学校で新入生とかいても、すーんって感じだもんな。この世界の人達はリアクションが新鮮だわー。
「えー、そして私がこのクラスの担任のリディア・ジェラルダインです。宜しくね、カリナさん。そして座席はー……、あ、一番後ろの窓際のリーシャさんの隣が空いているので、そこに座って下さいね」
「あ、はい。わかりました」
二段になっている大学の講義室の様な造りの教室の、4つある5人掛けのデスクの前から見て右側の一番後ろ。1クラスは20人構成の5クラス編成。40人を相手にしなければならない日本の学校よりは授業がやり易そうだ。この辺りは上手く運営しているな、アリアのやつは。
個性を尊重するには欧米の少人数クラス編成の方が好ましい。まだ歴史が浅いとは言え、良いとこ取りで運営しているんだろう。帰ったら褒めてやるとするか。
設置してあるデスクの真ん中の階段を上がり、黒板に向かって左手の窓際にある空席に座る。ジロジロと思春期の男子に生足やらを性的な目で見られるのはツラいが、想定内だ。我慢ガマン。
制服の胸元は、アリアに手直しして貰ったけどパツンパツンだ。首のリボンを少し緩めてシャツのボタンを2つ程開けている。苦しいんだから仕方ない。胸だけ魔力コントロールで縮めることもできなくはないが、中途半端に体型を調整する方が疲れるのだ。だから我慢。席に着いたらブレザーのボタンを一番上だけ外す。漸くちょっと楽になった。
「よろしくね、カリナさん。私はリーシャ・ヴァレンタイン。
明るい
「あ、『あたし』はカリナ・カラー、すぐ北東の中立都市リチェスターから来ました。よろしくね」
差し出された手を握り、握手する。細いが、掌に剣だこができているのがわかった。剣術を頑張っているのかな? 手を放して、黒板の方を向く。
「んー、今日の予定は午前中が体育と、剣術演習、午後からはマナーの講義ですね。カリナさんはまだ不慣れですので皆さん色々と気を遣ってあげて下さいね」
「「「「「はーい!!!!!」」」」」
なんかみんな若いから元気はつらつだなあ。学生にありがちな陰湿なこととかなければいいんだけど。しかし体育があるのか、一応必要なものはカバン、に見せかけて
「カリナさん、行きましょうか。更衣室はこっちだよ」
「あ、ありがとうリーシャさん」
手を引かれて更衣室に移動。その間も沢山のクラスメイトに話しかけられて自己紹介をされたけど、一度に憶えられない。徐々に覚えていくとするか。
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長い廊下を渡って、女子の更衣室内へ。参った。これは目に毒だ。割り当てられているロッカーを開けてカバンを入れる。そしてその中から取り出したように見せかけて体操服を異次元倉庫から出す。はあ、苦行続きだな……。
ちらっと着替えている子達の服装を見ると、上は白い体操着に下は
「カリナさん、着替えないの? 顔も真っ赤だよ」
「え、あー、いや、ちょっと恥ずかしいなー……と」
着替えながらリーシャが体を此方へ乗り出して来る。下着だし、これはこれで見てはいけない気分になる。しかもこの子もスタイル良いから余計にだよ。
「大丈夫。カリナさんスタイル抜群だからきっと似合うよ。学院長とか先生によると、これが今一番『ナウい』運動服なんだって」
「あ、いや、そういう意味ではなくて……」
『ナウい』とか、絶対アリアの影響だ。まごついていると、他の女子まで集まって来て、ワイワイと着替えさせられた。ウチのPT連中もそうだが、女子の距離感が怖い。キャーキャー言いながら、容赦なしに胸やら尻やら触って来る。
足元は膝下までの白いソックスに地球でよくある様な紐で結ぶ運動靴。取り敢えず何とか着替え終了。慣れないといけないんだろうけど、慣れたら慣れたで問題がありそうだな、これ。男としての尊厳を徐々に失っている気がするんだが。
もう着替えで疲れた。そして校庭の広い芝生の運動場に到着。ソッカーの施設まであるし、野球とかができそうなダイヤモンドもある。もう何でもアリだなこりゃ。担当教師の下へとみんなで集合して、点呼。リーシャの隣に体育座りだ。
「私が体育担当のシオン・アレクセイだ。カリナ・カラー、これから宜しく。見ての通り私はハーフエルフ。まあ種族など気にすることではない。生徒達の種族も千差万別。厳しく楽しく体を鍛えよう。貴族は人々を率先して守る義務もある。そして健全な体に健全な精神は宿る。じゃあ先ずは準備運動してから軽くグラウンドを10周だ。その後は100m走のタイムを計って、5対5のソッカー。負けた方には罰ゲームだからな。では始め!」
黒いジャージを着た金髪ショートカットのシオン先生はまさに体育会系って感じの人だ。やっぱ微妙に和風ぽいな、ハーフエルフの名前って。しかもエルフなのに魔法系じゃなくて体育会系とかどうなんだろうか? 取り敢えずリーシャと二人でストレッチをして校庭を走る。
胸は固定してあるとはいえ、普通に走ると重いんだよなー。そして離れたところから男子連中が此方をチラチラと見ている。思春期だから仕方ないよな……。だがシオン先生が大声で男子を怒鳴りつける。
「コルアー! 男子ぃ! いやらしい目で女子を見るな!」
いや、無理でしょ。思春期にその要求は……。まあ見られるのはあんまりだけどさあ。クラスは男女10人ずつ。この世界では男女の身体的能力差はないけど、やっぱ思春期だし分けるよね。それにしてもお尻にブルマがズレて食い込んで来て居心地悪い。それを指で正す度に罪が加算されていく気がする。
10人の集団の中団に入って目立たない様に走る。みんな結構体力あるなあ。でも体を鍛えておいて損はないし、良いことだ。そして余裕があるからみんなが走りながら話しかけて来る。
「ねぇねぇ、カリナさんは何処から来たの?」
「えっと、リチェスターだよ。ここから北東にある中立都市」
「クラーチの王様の推薦なんでしょ? どういう関係?」
「んー、遠い親戚みたいな感じかな?」
「この時期に入学なんて珍しいね。最近貴族になったの?」
「まあ……、そんな感じかな?」
「入学試験の実技凄かったよねー。今迄は何をしてたの?」
「うーん、冒険者かな……」
「マジでー?! ランクは?」
「え、えー、び、Bかなー?」
怒涛の勢いでの質問攻め。走りながらだってのに、みんな元気だなあ。上手く誤魔化しながら答える。SSランクとか言う訳にはいかないし。しかしクラーチの推薦とか何処からバレたんだ?
「みんな結構余裕あるね。しんどくないの?」
「アハハッ! いつもこれくらい普通に走るからもう慣れたよー。カリナさんも余裕そうじゃん」
「まあ一応冒険者稼業で鍛えられたしねー」
「貴族は普通の人々の盾にならないといけないし、体力は基本だよー」
偉いなあ。地球の現代っ子は見習って欲しい。ゲームばっかりしてんじゃないよ、全く。質問攻めにあいながらグラウンド10周終了。誰も息を乱していないとは……。凄いなニルヴァーナの住人は。男子は20周らしかったけど、みんな楽々走っていたし、どうなってんの?
「じゃあちょっと休憩入れたら100mのタイム計るよー。水分補給とストレッチをしっかりやっときなー!」
シオン先生が大声で指示を出す。グラウンド近くに体育祭とかでよく見る様なテントが設置されていて、その下にいつの間にかドリンクがセットされている。この学院のスタッフの方々が準備してくれているようだ。でもこんなに至れり尽くせりでいいのだろうか?
薄味の果実ジュース的な飲物が紙コップに注がれている。良い感じでスポーツドリンクみたいだ。甘すぎずさっぱりとしていて潤った。
さて次は100m走か。前世では11秒切るくらいだったが、この体ではどうなるかな? 先ずは他の生徒の走りを見てから加減具合を考えよう。先生が準備している場所までみんなで走って向かい、リーシャの側に移動する。
「リーシャさん、みんなどのくらいのタイムで走るの?」
「え、うーん、10秒くらいかな? でもカリナさんは絶対速いんだろうなー。あ、あと私のことはリーシャでいいよ。さん付けだと余所余所しいでしょ?」
「えあ、うん、じゃあ『あたし』のこともカリナでいいよ。理由は右に同じ。でも10秒台って……オリンピック選手じゃん……」
「お、りんぴっく?」
「あ、いやいや、何でもないよ」
危ない危ない。地球の文化を口にしたらダメだろ。しかし、この世界でオリンピックやったら凄い記録出そうだな。スキルなしでも身体能力でとんでもないことになりそうだ。そんなことを考えていたら、最初の2人が走る準備を始めた。スタートピストルがないけどどうやって測るんだろう?
「じゃあ位置についてー! よーい……、スタート!」
普通に掛け声でスタートか、まあこの文化レベルじゃそうなるよね。しかし、いきなり速い速い。みるみる内にゴールしてしまった。先生は一応ストップウォッチみたいな懐中時計を持っている。あれで測定するんだろう。きっとアリア商会からの贈与品だろうな……。
「ミーナ、10.5秒、シシリー、10.4秒! いい勝負だったぞー!」
あの青い髪の子がミーナで茶髪の子がシシリーね。よし覚えた。
「リーシャ、誰が一番速いの?」
「うーん、今のところはあそこにいる銀髪ショートの狼獣人、ヴォルカが一番速いんじゃないかな。いつも9秒台を切るかどうかってところだしね」
「へえー、なら勝負してみたいなー」
「え、凄いチャレンジ精神だねー。じゃあ先生に伝えて来るよ」
タタタッとリーシャは先生のところに伝えに行ってしまった。折角だし、スキルなしで強い相手と勝負したくなるんだよね。こういう所はスポーツやってた人間のサガなのかもね。
リーシャが戻って来る。さてどうなるのかな?
「じゃあカリナとヴォルカ、折角だし勝負してみなー!」
「「「「「ええええええ!!!」」」」」
うわー、すごい驚きの声。そんなに意外かなー? ほっ、と起き上がってスタートラインに向かう。ブルマの裾を指を入れて正す。何この女子ムーヴ?
「へー、あたいと勝負したいなんて骨があるじゃないか。負けないよ、カリナ」
「こちらこそ。折角なら強い相手とやりたいしね、よろしくヴォルカさん」
「ヴォルカでいいよ。気に入った。負けても泣くんじゃないよ」
「うん、ベストを尽くそう」
ギュッ、と握手する。そして二人でスタートラインに並ぶ。俺は前世にあったクラウチングスタートの姿勢を取る。ヴォルカは初めて見るのか不思議な顔をした。
「変わった構えだね。本気でいくよ」
「ああ、よろしく」
ヴォルカは普通にスタンディングの姿勢でスタートを切るようだ。周囲が俺達の勝負の空気にビリビリと緊張しているのが伝わって来る。俺の装備補正なしの敏捷は30000を超えている。さあどれ程のスピードが出るのかな?
「じゃあいくよ。よーい、スタート!」
ドンッ!!!
「なっ?!!!」
地面の芝を抉ってロケットの様に駆け出す! その瞬間先生が立っているゴールラインをほぼ同時に通過した。
ヤバいな、本気を出すとここまで出るのか。普段はこれに光瞬歩を掛け合わせているんだ、測ったら音速なんて軽く超えてしまいそうだな。スッと力を抜いてブレーキをかける。芝生がめくれ上がったが、何とか転倒せずに止まれた。しかし一発で運動靴がボロボロになってしまった。これは普通の靴じゃ無理だな、アリアに作って貰おう。
顔を上げると、スタートラインにヴォルカが呆然と立ち尽くしている。他の生徒もポカーンだ。まあ今のは俺が完全にやっちまった。自分から目立ってしまったもんなー。反省しよう。
「あのー、先生……」
「何だ今のは……? 目で追えなかった。タイムを取る前に通過していくとは……」
「すいません、ちょっと思いっ切り加速し過ぎました。そのせいで靴もボロボロになっちゃいました。お、『あたし』は残り時間見学しておきますね」
「お、あ、ああ……。あの一瞬で靴が壊れるとかどんなダッシュなんだ? 1秒も経っていないぞ……」
「冒険者してたので、鍛えられたんですかねー? でもスキルは使っていませんよ」
「いや、まあそういう問題でもないが……。まあいい、靴が壊れたらどうしようもない。今日は見学しとけ」
「はい、すいません」
そそくさとテントの下のベンチまで行って腰掛けた。靴と一緒に靴下の底も擦り切れている。脱いで異次元倉庫に突っ込んだ。あーあ、5対5のソッカー、フットサルだな。先生が代わりに入ってくれていた。やりたかったけどちょっと反省しよう。ヴォルカにも後で謝っておくか。
休憩を挟みながら体育は終了。やっとこのぴちぴちブルマから解放されるな。というか他の衣服もアリアに作って貰おう。下手したら体操服が破れる可能性がある。コルドヴァみたいに結界が張ってあれば別なんだけどなあ……。
授業でみんな汗をかいたので、シャワー室に移動。間にこんなに時間のゆとりがあるなんて嬉しいもんだな。でも女子と一緒にシャワーか……。どんどん心の中で罪が重くなっていく気がする。自宅では仕方なく女性陣と風呂ってるけど……。
下着はアリア製なので自動洗浄効果が付いているが、さすがにシャワーをみんなと一緒に浴びないと不潔だと思われる。壁で仕切ってあるプールのシャワー室みたいなところで、設置されているシャンプーやリンスで軽くジャバジャバと髪の毛やらを洗う。
そのまま心地良くシャワーを浴びていると、後ろから誰かに抱き着かれた。うーん、これはヴォルカだな。
「カリナ、あたいの完敗だ。アンタはスゲーよ。余りの速さに自分が走り出すことすら忘れちまった。あたいはヴォルカ・ウォルフガング。これからもよろしくな」
「う、うん、カリナ・カラーだ。こちらこそよろしく。そろそろ離してくれたら嬉しいんだけど……」
「うーむ、こんなにデカいもの付けてムチムチで細くてやわっこいのになあー。どこにあんな力があるんだろうなあ? 不思議だなー」
全身をムニムニと触って来る。これはセクハラにならないんですかね? そしてくすぐったいんだけど。
「ふひひ、くすぐったいってヴォルカ! 離してー!」
「みんな来いー! カリナの全身をチェックするぞー!」
「「「「「わああああああああ!!!!!」」」」」
「ぎゃ――――!!!」
シャワー終了……。休み時間のはずなのになぜ疲れるんだろうか? さて次は剣術の演習か。また着替えないといけないが、今度は普段使っている装備だ。バトルドレスを着れるからかなり楽だな。
「すごいカッコいい装備だねー。いいなあー。私は初級冒険者の装備しかないから動きにくいんだよね……」
隣で着替えているリーシャの装備は革製の軽鎧か。確かに余り防御力もないし、嵩張って動きにくそうだな。バトルドレスの替えはアリアにたくさん貰っているし、折角お近づきになれた記念に一着あげようかな。
異次元倉庫から色違いの、白を基調にしたバトルドレス(女性用)を出す。なぜかあいつは女性用まで渡してくるんだよな。普段は絶対に着ないってのに。
「リーシャ、これ使わないからあげるよ。防御性能も高いから木剣程度じゃ痛くも痒くもないと思うし」
「え、こんな上等な装備貰えないよー。悪いし……。私弱っちいし……」
「仲良くなってくれたお礼。それにこれ『あたし』は着ないからさ、どうしようか迷ってたんだよ。リーシャが着てくれると嬉しい。それに弱いなんて言うなら防御は重要だよ」
「う、うん、じゃあ折角だしありがたく頂戴します。カリナが着てるのみたいに着ればいいのかな?」
「手伝うよ。装備者の身体にフィットする様に創ってあるから。それに補正値も高いから動き易いと思う」
「へぇー凄そう……、じゃあお願いするねー」
手伝ってあげてリーシャに白いバトルドレスを着せてあげた。下はブーツとニーソも付いている。うん、似合うじゃん。
「これ、もの凄く軽い上に身体能力も上昇した感じがする。本当にいいの? こんなの貰っちゃって?」
「うん、ちょっと旧式だしね。『あたし』は着ないから困ってたし。貰ってくれて嬉しいよ。じゃあ行こうか」
「まだ暫く空き時間があるから、みんなカフェで寛いで行くんだよ。一緒に行こう?」
「う、うん、空き時間がたっぷりあっていいね。疲れも取れるし」
「多分他の学年とかクラスも来てると思うけどね。カリナも姉妹に会えるんじゃない?」
「あー、そうかみんなティータイムなんだ。さすが貴族の学院だけあって優雅だねー」
リーシャにヴォルカに他のみんなも一緒に着いて来た。いきなり集団を率いているみたいで居心地が悪い。まあリーシャに手を引いて貰っているから、そういう風には見えないかもだけど。女子九人に囲まれて移動か、みんな美人だし、純粋に男なら『ひゃっほい』なんだろうけどなあ……。女性を演じてる身としては何ともいたたまれない。今のところみんな友好的だから揉め事もなく済んでるけどね。
大きなテーブルを囲んでみんなで座る。よく見ると離れたところにアヤもアリアもいる。既に大勢に囲まれている辺り、何かして目立ったんだろうか? いや、見た目は美人だからなあ、人気が出ても当たり前か。
リーシャ達が俺の分のコーヒーも注文しに行ってくれたところで、漸く一人になれた。疲労が一気に押し寄せて来る。
この間に探知を働かせてみるが、やはり違和感が感じ取られるだけだ。召喚獣達にも念話を送ったが、これと言った異常は見つからないらしい。ぶちだけは『時が来た』と意味のわからん一言を発したが、これは一筋縄ではいかないな……。ヤツがこの学院にいる間に勝負を決めなくては。
(カーズ、そっちはどうですかー?)
(うまくやれてる?)
(あー、うん、まあ何とかー。距離感がわからなくてたまに怖いけど)
(こっちはモテモテですよー)
(あはは、どうしてもある程度は目立っちゃうよね)
(男子とはまだ関わってないなあー。というかこの女性体状態で思春期男子とあまり関わりたくもないが……)
(次は何の授業?)
(確か剣術だった)
(手加減するんですよー)
(試験官をぶっ飛ばしたお前に言われたくない)
「君がカリナ・カラーさんかい?」
スネオヘアーみたいな髪型をしたキザな奴と取り巻きに話しかけられた。なーんか嫌な予感がするなあ。
(悪い、変なのに絡まれたからまた後で)
((はーい))
ちょっとは心配しろよ……って、まあ視界の範囲内だしスキルで幾らでも視えるか。
「ええと……、誰ですか? ウチのクラスにはいなかったですよね」
「次の講義は合同で行われるからね、僕は2-2のジョーズ・ヘヤーさ。噂に名高い君の美貌を一目見たくてこうしてわざわざやって来てやったんだよ」
スネオみたいな昨日のジョー的な髪型を撫でて、キザな台詞を吐きやがった。こいつ絶対クラーチ関係の名前だな。キモイ、歯が浮きそうで吐き気がする。
「それはどうも。じゃあ頼んでないし、挨拶も済んだら消えてくんない? 連れ達が戻って来るんだよ」
「貴様ああ! 成り立て貴族の分際でジョーズさんに失礼だろ!?」
取り巻きが騒ぎ出した。あーもー、こういうのは何処に行ってもいるんだな。
「クールだね。じゃあ次の剣術演習で僕が勝ったらお付き合いしてあげようかな」
「嫌だ。不愉快だからさっさと消えろ。お前ら全員毛根破壊してやろうか?」
「おいふざけてんじゃねえぞ!」
「調子に乗るな! これでも喰らえ!」
おっと丸腰の相手、しかも座っている相手に剣を抜くか。イカレてんな。これはハゲ決定だ。
バギィイイン!
剣閃を左手の指先で薙ぎ払った。脆いな。あれだけで折れるとはナマクラ過ぎるだろ。
「な、なななっ?! 指先で剣をへし折るとかどうなっているんだ?!」
「ジョーズさん、こいつはヤベえ! 騎士団長を子供扱いしたのはまぐれじゃなかったんだ!」
「化け物だ!」
「女性にいきなり不躾な要求を叩きつけておきながら、やり返されたら化け物呼ばわりか。お前らみたいなのは男とは断じて認めん。裁きを受けろ、
ギチギチギチィ!
頭がおかしい三人組を纏めて強烈に拘束する。
「さて、貴族の権力を意味なく振りかざしたりするのはとんでもないペナルティだったな? それ以前にお前らみたいな下衆に髪の毛はいらんだろう。散れ」
即効性の毛根破壊を撃ち込むと同時に3バカトリオの髪の毛がばっさりと抜けて散った。
「げえっ、俺達の髪の毛が?!」
「許してくれ! 悪気はなかったんだ!」
「あばばばばば」
「へー、悪気もないのに剣を抜くんだ? とんでもない理屈だなー。お前らみたいな連中は腐り切ってるのが目を見たらわかる。じゃあこっちも悪気なく剣を抜かせて貰おうか」
腰からアストラリアソードを抜く。そして芋虫の様に這い蹲っている連中に向けて剣を振り下ろす。
ザンッ!!!
目の前を掠める程度に振っただけだが、失禁して気を失いやがった。こんな学院じゃなかったら一刀両断してもいいくらいの清々しい下衆さだったな。それと同時にリーシャにヴォルカ達が戻って来る。
「カリナ、大丈夫?!」
「あー、こいつら隣のクラスの調子乗りじゃないか。何でハゲてんだ? ま、何にせよカリナ、ナイスだ!」
「ちょっと鬱陶しかったから、やり返しただけなんだけどなー。臭いから席変えようか」
学院長に念話で詳細を伝え、学院のスタッフ達がタコ共を回収して行った。貴族の位剥奪とその日の内に転移門なしで追放されたらしい。まあ知ったこっちゃないな。ただの学生、レベルは10もない。弱い者いじめみたいだが、ああいう連中は容赦なくやってしまうのが一番いい。
リーシャにヴォルカ、クラスメイト達とティータイムを楽しんでから、アヤとアリアの念話での笑いを聞きながら、次の授業の為に鍛練場に移動した。
やっぱり、ああいうのは何処にでもいるんだなー。気を付けよう。馬鹿な分寧ろロキよりも分かり易く性質が悪いぜ。
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上手く馴染めたかと思ったら、アホなタコがやって来る。
相変わらず波乱万丈です。
次回は剣術の授業かな?
続きが気になる方はどうぞ次の物語へ、♥やコメント、お星様を頂けると喜びます。執筆のモチベーションアップにもつながります!
一話ごとの文字数が多いので、その回一話でがっつり進むように構成しております。
今回のイラストノートは此方、
https://kakuyomu.jp/users/kazudonafinal10/news/16817330667851953604
そしてこの世界ニルヴァーナの世界地図は此方、
https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/d5QHGJcz
これまでの冒険と照らし合わせて見てみて下さい。
そして『アリアの勝手に巻き込みコーナー』は此方です。
https://kakuyomu.jp/works/16817330653661805207
アリアが勝手に展開するメタネタコーナー。本編を読んで頂いた読者様は
くすっと笑えるかと思います(笑)
そして設定資料集も作成中です。登場人物や、スキル・魔法・流派の解説、
その他色々とここでしかわからないことも公開しております。
ネタバレになりますが、ここまでお読みになっていらっしゃる読者様には、
問題なしです!
『OVERKILL(オーバーキル) キャラクター・スキル・設定資料集(注:ネタバレ含みます)』
https://kakuyomu.jp/works/16817330663176677046
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