第五章 99 敗戦・天界への帰還
冥界神達に別れの挨拶をして、天界へと戻って来た。召喚獣達も一緒だ。
みんなから距離を取って、背を向けてしゃがみ込む。ボロボロになった翼の生えた神衣、胸の中心に穿たれた穴。あの初戦よりは確実にレベルアップしていたはずだが、レベル差とはいえ手も足も出なかった。致命的な一撃でも奴には効果が感じられなかった。小手先のスキルなど関係なく槍一本で完全に負けた。このままじゃ、次に会ったときには必ず負ける……! くそっ!
「もっと強くなりてえええええええ!!!!!」
エリシオンの空に向けて仰向けに倒れて叫ぶ。そんな様子から、みんながいつもの俺と違うと思ったのだろう。ぞろぞろと側にやってきた。
「やっぱりファーレ戦は大変だったんだね。でも私達は邪神達相手に必死だったんだよ。それよりも強大な敵に向かって行ったナギくんは凄いと思う。そういった悔しさも、いつもバネにしてきたことを私は知ってるから」
右隣に座ったアヤの言葉が身に染みる。でもリーダーの俺がこの体たらくじゃ、みんなの戦力の底上げなんてまだまだ先だ。俺が先ずは強くならなければいけない。
「ありがとう。でも今のままじゃまだまだだ。もっと稽古して、もっと強くならなければ……」
「それは私達も同じことよ。あの堕天神を見ただけで、勝てないって本能が訴えかけて来たくらいだからねー」
ユズリハも俺の左隣に寝そべる。パズズが集めた神格を取り込む前だろうな。アレがさらに凶悪な強さになったとは……。さすがに探知で気が付いてはいるだろうが……。
「兄貴、俺らも似たようなもんですよ。邪神共は何とか片付けたけど、まだどこかに潜んでいる奴らが世界中に居るハズっす。見つけて滅却しないといけないっスよね」
「あーあ、ヴァカな兄さんに気の利いた台詞を言われるとはねー。折角カーズを慰めてあげたかったのにー」
「うるせーな。男同士にしかわからないことだってあるんだよ」
「言ってくれるじゃないの……。アンタを消して一人っ子になってやるわ!」
アジーンとチェトレがしょうもないケンカを始めようとしている。
「お前らケンカしたらばーちゃんのところに強制転移させるからなー」
「「うっ……! すいませんでした!!!」」
どんだけ怖いんだよ、あのばーちゃん。
「しかし、カーズ様が完敗とは……。あの堕天神の大将は些か次元が違うようですね……。アリア様や他の神々も共闘していたというのに……」
ディードがうむむ、と真面目な考察をし始めた。
「ディード、どの道今のままでは勝てません。神々の我らも本格的にレベルアップしなければならない。このまま
アリアが物騒なことを言い始めた。俺が気を失っている内に何か起きたのか? それに知りたいことがある。上半身を起こし、神衣を解除する。
「おいアリア、
「私には詳しくはわかりません。ですがファーレは古参の神々ならみんな知っていると言っていました……。それならここ天界にいる神々みんなが何かしらを知っていることになります……」
アリアがここにいる神々、ファーヌスやサーシャ、ティミス、フツマにレピオスを見る。天界に侵略して来た邪神はもういない。俺はどうやらまた厄介ごとに巻き込まれている様だし、聞かなくてはならないだろう。迷いを持ったまま剣を握る訳にはいかない。ゼニウスがいない今、長姉のファーヌスに聞くべきだろうか? そうして居並ぶ神々を視界に入れていた時だった。そのゼニウスが天界に転移で戻って来たのは。
「父上お帰りなさいませ」
「おお、留守をすまんなファーヌス。それにこの集団は……?」
「ええ、いい加減に話した方がいいかと……。それにルクス達も戻って来たようです」
ヴンッ!!
「お? そっちは片付いたのか? サーシャ達」
「はー、やっと戻って来たのさー」
「あーキツかった! ってみんな揃ってんのかよ?」
一気に人が増えた。取り敢えず話し合いができる場所に移りたい。ゼニウスに念話を飛ばすと、エリシオンのど真ん中に巨大なテーブルとふかふかなソファーの様な椅子が現れる。また出たよ、
もういい、いい加減に話を聞かせて貰おう。意味不明なまま闘わされるのは気分が悪い。
「オッサン、
「我が子カーズよ、いきなりオッサンに格下げは酷くないかのう……」
「自業自得でしょう。私もそう言ってやりたいですよ、クソジジイ」
「アリアまで……!? まあ黙っていたのは悪かった。それは素直に謝罪しよう」
「で、ジジイは若いという理由で私にまで内緒で何をさせたかったんですか?」
「最初から知っておけば対処できたことはたくさんある。知らなかったせいで後手に回った、冥星の四巨頭は少なくとも救えた。なんでオッサンは黙ってたんだよ」
「其方らに余計な負担を掛けたくなかったんじゃよ。そして若いアリアには人間の感情や在り方、柔軟性を学んで欲しかった。カーズに同行する様にしたのは余だからのう。そして5,000年の因果を乗り越えたカーズはやはり普通ではなかったしのう」
「どう普通じゃないって言うのよ? それにカーズの事情なら私達にも関わる問題よ。オジサンは私達に何を望んでいるの?」
うーん、さすがユズリハ。言う時はズバズバ言う。
「パズズ戦でも見えたであろう。あの異常なまでの感情に何かの切っ掛けがあれば直ちに覚醒するその底の見えない力。余達神々には持ちえない力なのじゃよ。ファーレと言う勝ち目の見えない相手にも勇敢に立ち向かう、人間の未知の力に余達は賭けてみることにしたのじゃよ。次に訪れるかも知れぬ
「ほうほう、それに私が呼ばれなかったのはどういう要件か説明して貰おうか、クソジジイ」
アリアのキャラが崩壊しかけている。これはかなりキレてるな。
「会議で勝手に決めて貰ったところ悪いが、俺は利用されるのが大っ嫌いなんだよ。それくらいはわかってたはずだよな? オッサン。それを俺が『はい、そうですか』と飲むと思ってるのか? 今迄の俺の行動とその理念を見れば、そんなのを軽々しく飲めるはずがないだろ? 更にそれは神々の問題だろ? ならアンタらがどうにかするべきだ。ただの人間の俺達に大世界の行く末を左右する様な重責を押し付けないでくれ。俺なんかじゃ役不足だ。ファーレ相手にすら手も足も出なかったんだからな」
「そう言えば……、ファーレは『7色』が地球にいるかも知れないという、カーズの読みは正しいと言っていました。それに関しての調査は終わったということで宜しいのですか? ゼニウス様」
サーシャがそんなことを口にした。そいつは初耳だな。俺が気を失っている間にそんなことを口走りやがったのか、ファーレの野郎は……。
「うむ、一通りの面会は済ませて来た。幸い荒事にはならなかったが……、違和感は大きかったのう。あの場で正体を明かす訳にはいかなかったのだろう。彼方にも何かしらの理由があるように思える。『7色』全員でかかれば、余に致命傷を負わせることもできたであろうに……。派遣した古参の七人の神々の気配は何処にもなかった。恐らく消されているのであろうな。あの星の様に人口が過密な場所で闘えば人的被害は計り知れぬ。如何にして荒廃した大世界の一部か、亜空間に引き摺り出すかが問題であろうな……」
ほう、やはり俺の考察は当たっていたのか。未だ正体を明かさないのは他の魔神と同様、何かしら力を失っているからだろう。そうでなければ天界の大将首を易々と逃がすはずがない。地球の宗教を利用して傷を癒している。恐らくそんなところだろう。そこまでして何故神魔大戦を起こそうとしているんだ?
「それとファーレは『大いなる意思』に飲まれるとも、『我々神々』とも言っていましたわ。そしてカーズのことを『我らの希望』だとも……。ファーレはひょっとして表向きには裏切った振りをして、魔神の動向を探っているのではないのでしょうか? 私も刑罰途中でしたからその会議には出席してはおりませんけども」
ティミスも口を開く。確かにこれまでの証言から、ファーレがそういうことをやっていてもおかしくはないとは思える。でも、それが本当なら迫真の演技だ。そこまでして裏切者に見せかけなければいけなかったのか? だが……
「それが本当なら、奴が裏切ったと見せかけて魔神側の情報を得るという行為は危険過ぎる。たった一人でできることじゃない。バアルゼビュートにアーシェタボロスは真実の隠蔽の為、魔拳か何かで恐らく本気で裏切ったのだろうが、ファーレの行動には疑問が残る。冥界でアリア達を叩きのめしていながら、致死的な攻撃痕は残されていなかった。あの状態なら五人共、俺も含めて簡単に消し去れたはず。それにあの槍スキルはどう考えても手加減されていた。その気なら俺をアリアごと貫通する威力のものを放てたはずだ……。単刀直入に言うぞ、ゼニウスのオッサンはファーレと繋がっているんだろ……? そうでなければ辻褄が合わないことが多い」
俺の一言にエリシオンの空気が凍り付く。もし本当なら、これまで俺達がやらされて来たことは二人の神々による茶番だ。良く言えばファーレと悪意を持つ二神を敢えて裏切らせて、俺達に無理矢理成長の機会を与えたと言える。ナギストリアも俺の代わりに神魔大戦に放り込もうとしたのかも知れないが、アイツはあの時負の感情に完全に支配されて暴走していたため失敗し、ファーレの戦力アップの為、邪神の神格回収に使い潰された。その後のファーレの『7色』に対する証言と、そこにゼニウスが向かって無傷で帰って来たということ。この二人がどこか念話とかで繋がっているとしか思えない。……胸糞悪い。
「ハッハッハ、さすがじゃのう。其方の洞察力は。ギリギリまで隠していたかったが、ファーレめ、余計なことを口走りおって……。いやまあ実に天晴れな洞察力に状況把握能力よな」
「父上、まさかそこまでとは俺も思っていなかったぞ……!」
「うむ、我らとてファーレらが裏切ったとしか、それに対抗すべき神特異点を育てたいとしか知らぬ!」
「ゼニウス様、これは大神としての権力の執行とは言えども明らかに度を超しています。そうまでして彼らの、人族の力が必須だとは思えません!」
ファーヌスにフツマ、レピオスが声を荒げる。神々にも事情があるだろう。それに神魔大戦に俺達が神格者だとしても巻き込むべきではないという強い意志が感じられる。この人達は良い意味で真の神だな。
「おっと、俺もアリア同様知らされていなかった側だ。寝耳に水だが、カーズの特異点としての力は、統率力を見ても貴重な戦力だ。だが俺の弟子のエリックも含め、こいつらは神格者だが普通の人族。サーシャにとってのユズリハやティミスのアガシャもそうだろう。イヴァも魔神の呪縛から解放された今、神々の争いに巻き込ませるわけにはいかねえよ。それにオヤジ、俺にも知らせなかったのはどういう了見だ……? 場合によっちゃアンタでも容赦はしねえぞ……!」
「アンタが短気だからでしょ。脳筋のアンタが上手く立ち回れるとは思えないしね」
まあティミスの言う通りだろう。ルクスは無駄に熱いからな。思わず口走っても不思議じゃない。痛いところを突かれて、歯ぎしりする様に黙り込むルクス。
「で、どうしてこんな回りくどいことをしてんだよ、オッサン」
「今現在『大いなる意思』が魔神側に接触しているということを、はぐれ魔神から耳にしたのでな。真偽を確かめる必要があったのだ。其奴は最早下らない争いに身を置きたくないと言うのでな、神格を浄化した後、神として自らの神域で眠りに着いておる。あれだけ全く姿を現さなかった『大いなる意思』が、今度は、いや前回の大戦以降は魔神側に現れたらしい。且つてはあれを神にのみ与えられる神託とさえ思っていたが……」
「結局は双方に争いを促して
みんなが俺の方を向く。両手を口元で握って、静かに話し始める。
「神々は簡単に堕天してしまう。邪神は加護も神器も奪われて異形に変えられているから大した脅威にはならないが、数が多い上に元は神だ。でも堕天神は
しばし逡巡していたゼニウスが口を開いた。
「うむ、その通りじゃ。ぐぅの音も出んわい。ハッハッハ!!!」
全員から溜息に呆れた声が上がる。ダメだこいつ……、今攻め込まれたら一発でアウトじゃねーか。
「だったらどうするんですか!? クソジジイ!!!」
おーおー、アリアは完全にクソジジイで通す気だな。それにしても杜撰だ。ファーレが如何に無敵の強さを誇っていようが数の暴力の前にはどうしようもない。それに大世界中に、ニルヴァーナには大迷宮から解き放たれた魔神が少なくとも八体。こいつらは絶対に何とかしなければならない。
「ファーレが情報を持ち帰るにしても時間が掛かる。だが、対峙したときは演技と分かっていながら合わせないとならない。ウチには大根役者しかいねーぞ」
「ハハハッ! 全くだなー!」
バシバシと俺の背中を叩いて来るが、お前のことだよエリック。
「龍の奥義で涼し気にやり過ごしてやりますよ!」
お前も同じ臭いがするぞ、アジーン。何だその奥義は?
「まあいいさ、俺はまだ全面的に協力する気にはならない。悪を演じるにしても、大奥義書の知識を遊びで持ち出して人々の平穏を滅茶苦茶にしたアイツを、俺は簡単に容認できない。敵に見せかける演技だとしてもだ。後は、俺達を欺いた落とし前をつけて貰うぜ、オッサン」
席を立ち、離れた場所に移動する。幸い食卓には強固な結界が張ってある。拳で容赦なくいかせて貰うからな!
「やれやれ……、余としては息子である其方と闘うのは気が引けるのだがのう。仕方ない。これを贖罪とさせて貰おうか」
「カーズ様も熱くなるのは早いんですよねー……。でも大神との手合わせは見ものです。学習させて頂きます」
「ディードは冷静で勤勉だね。ホント、あの激情的な性格は治らないんだよねえ」
「前世からのアヤ様の苦労がしのばれますね……」
「燃えろ、爆発しろ、俺の心の神格よ! 輝き溢れろ、俺の神気よ!!!」
翼が生え、進化した神衣が全身に装着される。小技は無駄だ、涼し気に仁王立ちをしているゼニウスに渾身の一撃をぶち込むのみ!
「アストラリア流格闘術・
ドゴオオオオオ!!!
「ああー! もう
俺の身体から神気と闘気の渦が立ち昇る。そう、これはイヴァのスキルを俺なりにアレンジしたものだ。頭髪が銀色へと変化する。だが制限を解除することで男性体を上手く保てなくなるのが欠点なんだよな。
ドンッ!!!
「
隙だらけの胸元に掌底を撃ち込む!
パアーン!!!
「なっ!?」
後方に弾かれた?! 鑑定、とんでもなく分厚い神気と魔力に闘気の
「気が済んだかのう? まだまだ若い者には負けんよ。では余の技をその身で味わってみるとよかろう。ゆくぞカーズ! これが大神の力よ!
ゼニウスが右掌を上に向け、グイッと上に腕ごと動かしただけだった。
ドゴアアアアア!!!
「嘘だろ?! 大地をひっくり返すとは! うああああああ!!!」
ドオオオオオオオオオン!!!
「やれやれ、手間がかかる息子じゃわい」
ゼニウスの
「つーかさあ、そんなに強いのに俺らの力が必要だとは思えないんだけど」
「だよなあ、俺も戦慄が走ったぜ」
「私達じゃ足を引っ張るだけな気がするわね」
エリユズは俺に賛成の様だ。
「だが、余達は神、其方ら人族の自由奔放な発想力に、あのナギストリアが見せたような心の力という点ではどうやっても及ばんのだよ。それが其方達が必要な理由。そして驚異的な成長速度。余達神々には持ちえない物ばかりなのだよ。『大いなる意思』も所詮は一種の神の様なものだと思っている。人族の意外性にはついては来れまい」
机上の空論だ。その神にすら手も足も出ない俺達に何ができると言うんだ?
「事情はわかったよオッサン。暫く考えさせて貰う。ルクスにサーシャ、それにティミスはエリック達の修行もある。一緒に来て貰うからな。そしてフツマとレピオスには俺も剣技と魔法を習いたい。アリアは地上でアヤ達を鍛えてやってくれ。屋敷にはもう呪縛から解き放たれたナギストリアにアガーシヤ、娘のナディアもいる。イヴァ、ルティにぶちは遊んでやれ。そして彼らの気が済むまではのんびりさせてやってくれ。母さんには念話を送っておく」
フツマとレピオスに頭を下げて、これから稽古をつけて貰うことにした。エリック達の創造武器を神器に鍛えて貰い、アリア達が去った天界で、俺はそこにいる神々、ファーヌスやゼニウスにも稽古をつけて貰うことにした。
もう二度と負けるのはゴメンだ。
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いつの間にやら大掛かりな計画に巻き込まれている一行。
果たしてどうなるのだろうか?
兎に角負けたくないカーズは天界で修行です!
続きが気になる方はどうぞ次の物語へ、♥やコメント、お星様を頂けると喜びます。執筆のモチベーションアップにもつながります!
一話ごとの文字数が多いので、その回一話でがっつり進むように構成しております。
今回のイラストノートは此方、
https://kakuyomu.jp/users/kazudonafinal10/news/16817330666040837753
そしてこの世界ニルヴァーナの世界地図は此方、
https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/d5QHGJcz
これまでの冒険と照らし合わせて見てみて下さい。
そして『アリアの勝手に巻き込みコーナー』は此方です。
https://kakuyomu.jp/works/16817330653661805207
アリアが勝手に展開するメタネタコーナー。本編を読んで頂いた読者様は
くすっと笑えるかと思います(笑)
そして設定資料集も作成中です。登場人物や、スキル・魔法・流派の解説、
その他色々とここでしかわからないことも公開しております。
ネタバレになりますが、ここまでお読みになっていらっしゃる読者様には、
問題なしです!
『OVERKILL(オーバーキル) キャラクター・スキル・設定資料集(注:ネタバレ含みます)』
https://kakuyomu.jp/works/16817330663176677046
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